白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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奇手

2017年03月04日 23時58分23秒 | 対局
皆様こんばんは。
若手棋士ツイッターアカウントの担当は、平田智也七段から横塚力二段に交代しました。
横塚二段が子供の頃、時々指導碁を打っていました。
あのちびっ子が、とっくに成人して棋士になっている・・・。
こんなエピソードが年々増えて来て、おじさんになった事を実感します。

さて、本日はそんな時代に打った対局を題材にしましょう。
2006年、白石勇一初段と王唯任四段(当時)の対局です。



1図(テーマ図)
私の黒番です。
黒1、3は、プロの碁によく現れる捌きの手段です。
白10の後は白Aの逃げ出しがあるので、もう一手かけて守るのが定石です。





2図(変化図)
黒1が定石で、この一手とされています。
しっかり生きておいて黒△の逃げ出しを狙いにします。

しかし、白2あたりから上辺の黒に先制攻撃されそうです。
この黒を苦労して逃げ出している間に、黒△は自然に飲み込まれてしまうでしょう。
となると、黒1もただ生きるだけの手で、石の働きが今一つです。
そこで私は黒1ではなく、意表の手を放ちました。







3図(実戦)
実戦は、何と黒1の二段バネ!
自分で驚いてどうするという話ですが・・・。
もちろん、これで3子を取れる訳ではありません。





4図(実戦)
白1と切られて両当たりですが、黒2、4を打って両方抜かせてしまいます。
そして黒6と打つとあら不思議、黒△が良い所にあって左右が繋がりました。

こう1線や2線を繋がっても殆ど地ができず、所謂貧乏渡りと称される姿です。
白はポン抜き2つですし、見た目の印象では黒ダメと判断してしまいそうです。

ですが黒Aの守りを省略できていますし、結果的に白△を限りなくパスに近い一手にさせています。
総合的にはこれが最善の道と考えて踏み切りました。

それにしても、今改めて眺めてみても笑いが込み上げてくるような形です。
あまり格好良くはないので、妙手というより奇手ですね。
碁にこんな打ち方があるの? という感じです。





5図(変化図)
白1が成立しない事がポイントです。
黒2と外から押さえ、黒6まで攻め合い黒勝ちです。
黒△によって、白Aに入れなくなっています。





6図(変化図)
白1以下、全体の眼を奪って来る可能性はあります。
しかし中央が広く空いていますし、いざとなれば黒Aから眼を作って生きられます。
大きな問題は起こりそうにありません。

石の形は非常に大切ですが、臨機応変な対応も必要な時もあるのです。