皆様こんばんは。
本日は久しぶりに書評シリーズです。
今回扱う題材はこちらです。
歴代最強の囲碁棋士は誰か?
そう聞かれれば、多くの棋士は本因坊道策と答えます。
では、江戸時代で最も有名な棋士は?
それは恐らく、本因坊秀策でしょう。
ヒカルの碁を読んで知った方も多いと思います。
実力と人気を兼ね備えた存在と言えます。
本書の主人公である本因坊秀和は、その秀策の師匠です。
秀和は悲運の棋士とも言われます。
名人になるべき力量を持ちながらも、幕末の混乱期の中ついに八段止まりでした。
また、将来を託すはずの秀策も早世するなど、後年は本因坊家当主として苦しい時代を過ごしました。
ですが、秀和は600局以上の棋譜を残しました。
その中には井上因碩(幻庵)との熾烈な勝負碁なども含まれています。
また、弟子の秀甫や実子の秀栄はそろぞれに大きな業績を残しました。
秀和もまた、囲碁の歴史に大きな足跡を残しているのです。
本書は棋譜の解説本ですが、時代背景や登場人物のエピソードにも力が入っています。
碁盤を通して、物語を観賞するつもりで楽しめる構成と言えるでしょう。
著者の福井正明九段は有名な古碁マニアですが、いかにもという内容ですね。
堅塁秀和とタイトルが付いていますが、秀和の若い頃は黒番で確実に勝つ能力が必要でした。
先述の井上因碩との勝負などはその代表ですね。
強敵を相手にしても確実に数目残す打ち回しは、まさに堅塁と言えるでしょう。
一方で、白番が多くなってからは自由自在の打ち回しを見せています。
ある時は力強く、またある時は軽快にと、どんな碁でも打ちこなしました。
考え方が非常に先進的であり、現代の棋士が見ても驚くことがしばしばあります。
秀甫や後年の秀栄に大きな影響を与えたことは間違いないでしょう。
どちらからも学ぶものが多いですが、私としては白番の碁に大きな魅力を感じます。
常識にとらわれない打ち回しは、観賞していて楽しいですし、自分の碁の幅も広がるような気がします。
古い時代の碁の中に新しい考え方があり、まさに温故知新ですね。
時代が進むにつれて、どうしても過去の棋士は埋もれていってしまうものです。
しかし、残した棋譜の魅力は決して損なわれるものではないと思います。
秀和の碁の魅力を知らない方は、ぜひ本書で確かめてみて頂きたいですね。