白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

名人の力(高尾ー山田戦)

2016年11月25日 23時59分59秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
まずはお知らせです。

日本棋院若手棋士の、ツイッターアカウントができました!
日本棋院は情報発信力が弱いと、常々不満に思っていました。
しかし、若手棋士達が動いてくれました!

週替わりで、10代、20代中心の若手棋士が、様々なコメントを発信してくれるようです。
私は、こういった試みを待ち望んでいました。
棋士と囲碁ファンの距離を縮めるための、良いきっかけになると思います。
ツイッターは会員登録しなくても見られますので、https://twitter.com/wakatekishi_igoをお気に入り登録して頂くだけでも結構です。
ぜひご覧ください!


さて、本日は幽玄の間で中継された対局をご紹介します。
高尾紳路名人(黒)と山田拓自八段の対局です。
高尾名人は、皆さんご存知のように、手厚く構えて堂々と戦う棋風です。
山田八段は、ユニークな戦い方をします。
一見すると筋や形が悪そうな手を打ちながら、いつの間にか形にしてしまいます。
一言で言えば、粘り強い棋風という事になるでしょう。
そんな2人が対局した結果、物凄い碁が生まれました。





1図(実戦黒21)
黒△と詰めた場面です。
ここまでは、じっくりとした展開でした。
白Aなどと右上をしっかり守れば、その流れが続いていたでしょう。





2図(実戦白22~黒23)
しかし、実戦は白1と踏み込みました。
黒2と反撃して、戦闘開始です!
どちらかと言えば、白の山田八段が仕掛けましたね。
名人に対して「どうぞ打ち込んでください」と言って、名人がその誘いに乗っていきました。





3図(実戦白24~白30)
白1に対して、黒2は「ケイマにツケコシ」です。
まずは、白を上下に分断しました。





4図(実戦黒31~黒37)
そして黒1から、こちらの白も分断しました!
白石は3つに分断され、いかにも苦しそうですが・・・。





5図(実戦白38~白44)
白も狙いを持っていました。
白1~7まで、黒△を取るぞと言っています!





6図(実戦黒53)
右下は難解な戦いでしたが、白△を取って安定した事で、黒は一時休戦しました。
黒△と、右上の競り合いに戻っています。
白を攻めるという意味では、黒Aと根拠を奪う手も気になりますが・・・。





7図(変化図)
黒1は、自分の石の弱さを忘れた手です。
白2を譲り、白10までとなってみるとどうでしょうか。
白を攻めるつもりが、いつの間にか黒が攻められています。
所謂「身攻め」であり、黒としてはこんな展開は避けなければいけません。





8図(実戦黒53~黒61)
ですから、黒1と自分の弱い石を守りながらの攻めは、理にかなっています。
白2の三々から白に生きられますが、先手を取って黒5に回る事ができます。
右下一帯の黒を隙のない形にする、手厚い好点です。





9図(実戦白62~黒71)
右下、右上を白地にされました。
しかし、黒10に回って、上辺を大きな黒模様にしています。
黒△としっかり繋がった手が、模様拡大の役に立っている事が分かりますね。
プロは先々まで役立つ手を打つよう、心がけているのです。





10図(実戦白72~白76)
白1は黒模様拡大を制限しつつ、左辺の白模様を広げて逃せない所です。
対して黒は、2、4のハネツギ!
2線の手を打って、白5(白△を助け、さらに白Aでの分断を狙った手)を打たせてしまいました。
高尾名人、ご乱心?





11図(実戦黒77~白82)
勿論、そんな事はありません。
高尾名人は、黒1を狙っていました。
白6の後、黒Aは白Bで、攻め合い白勝ちですが・・・。





12図(実戦黒83~黒85)
当たりの石を繋がず、黒1、3が妙手です!





13図(実戦白86~白88)
白1、3と抜かれましたが、コウ立てを打てば黒Aと取り返せる形です。
石を3手で取れる事を生かした、盤端ならではの粘りですね。
黒がこのコウに勝てば、白△を取れることは勿論、根拠が無くなるので、白〇も危なくなります。
巨大なコウ争いですが、このコウが解決まで時間のかかる「二段コウ」である事が、ややこしさに拍車をかけています。
なお、コウの種類については、また別の機会に説明します。





14図(終局図)
色々あって、最後はこんな形で終局しました。
黒が白△、白〇を取る事になりました。
一方白はコウ争いを利用し、黒△を丸飲みするなど、左辺を全部白地にしています。
派手な戦いの結果は、黒4目半勝ちでした。

一手一手の意味は分からなくても、戦いの熱気は感じて頂けるのではないかと思います。
ぜひ、総譜をご覧ください。


さて、明日は第18回農心辛ラーメン杯囲碁最強戦に河野臨九段が登場します。
対戦相手の中国棋士、范廷鈺九段は4連勝中ですが、何としても止めて貰いたい所です。
14時からの対局は、幽玄の間で中継されます。
皆様、応援してください!

読者コーナー(著書)

2016年11月24日 21時24分19秒 | 著書の誤植等について
皆様こんばんは。
本日は、まさかの積雪でしたね。
11月に都心で積雪が観測されるのは、観測史上初めてだとか・・・。
今年は色々な「初」がありましたが、また一つ加わりましたね。

そして本日は木曜日、棋士の対局日でした。
遠くに住んでいる棋士は、気が気でなかったでしょうね。
対局を代わって貰う事はできませんから、どんなに電車が遅れようとも、辿り着かなければいけません。
大雪でなくて良かったですね。

幽玄の間でも、いつものように対局が中継されました。
本日は6局と、いつもに比べてかなり少なめですが、いずれも力の籠った碁でした。
特に金秀俊八段余正麒七段高尾紳路名人山田拓自八段の2局は、物凄い戦いでした。
ぜひご覧ください。
当ブログでもすぐにご紹介したい所ですが、今回は後回しにしようと思います。
本日は皆様にお知らせしたい事があります。

<誤植発覚>
著書「やさしく語る 碁の本質」に、誤植が発覚しました。
図のミスは避けたかったのですが、見落としてしまいました。
86ページ1図黒3の石が、2図では消えてしまっています。<第2刷で修正済み>
これは読者の方にご指摘頂きました。
申し訳ありません。

また、「まえがき」は2ページから始まりますが、目次では3ページと書いてあります。<第2刷で修正済み>
この程度のミスなら、大した事はないのですが・・・。

〇追記
123ページ、下辺星から2路左の白石に、本来ある筈の△印が抜けています。<第2刷で修正済み>
これも読者の方にご指摘頂きました。

135ページテーマ図10で、置き碁でないのに黒石が1つ多いのではないかというご指摘がありました。
確かにその通りで、違和感を感じられた方には申し訳ありません。
なお、テーマ自体に影響はありません。
修正する事も考えましたが、見送る事にしました。

191ページ第8問についても、ご指摘がありました。
4子局と書いてしまいましたが、5子局の間違いでした。<第2刷で修正済み>
校正段階で原稿をチェックし、本になってからもチェックしています。
しかし、それでも見落としがありました。
自分の作ったものを、無意識に信用してしまうのでしょうか・・・。

26ページ4行目、人工が人口になっていました。<第3刷で修正済み>

136ページ2図、2行目の「白8」は「白7」が正しいです。<第4刷で修正予定>


<読者コーナー開設>
著書の読者コーナーを開設します!
といっても、この記事のコメント欄を開放するだけですが。

もし皆様がミスを発見されたら、コメント欄にてお知らせください。
お知らせ頂ければ、該当箇所を当ブログで公表できます。
また、増刷する事になった場合、第2刷では修正できます。

ミス以外にも、「この部分の意味が分からない」「この図でこう打ったらどうなるの?」といったご質問も募集します。
全てのご質問に回答できる訳ではありませんが、全て目を通させて頂きます。
回答は、記事を投稿する形で行わせて頂きます。

コメント欄は承認制なので、反映まで時間がかかる場合があります。
なお、ご指摘・ご質問は、メールでも受け付けます。
メールアドレスは gotanda@igoshiraishi.com です。
よろしくお願いします。

趙名誉名人、勝ち越し!

2016年11月23日 22時26分43秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
本日は、第2回囲碁電王戦三番碁第3局が行われました。
結果は、趙治勲名誉名人が「DeepZenGo」に勝ち、2勝1敗で三番碁に勝利しました!
早速振り返っていきましょう。

なお、この対局は幽玄の間にて、伊田篤史八段の解説付きで中継されました。
また、ニコニコ生放送では、何と井山裕太六冠が解説しました!
井山六冠が他の棋士の対局を解説する事は珍しく、これだけでも電王戦開催の価値があったというものです。
私も後でじっくり、タイムシフト視聴する予定です。



1図(実戦黒23)
趙名誉名人の黒番です。
前局までと違い、極めて常識的な進行と言えます。
趙名誉名人が、本気で勝ちに行っている事が伝わって来ます。





2図(変化図)
ここで白1と三々に入るのは、定石を打って悪くなるパターンです。
右下の白△が役に立たず、むしろ攻めの標的になる可能性すらあります。





3図(実戦白24)
実戦は白1と、中央に飛び出しました。
黒Aと隅を受ければ、白Bと右辺の黒を圧迫します。
その進行は右下の白一団が、勢力として黒への攻めに役立ちます。
こういう所を逃さないのが、「DeepZenGo」の強い所と言えます。





4図(実戦黒25~黒31)
そこで黒1と、下方の黒にゆとりを持たせる事を優先しました。
黒7まで、上下の黒をバランス良く守っています。

このあたりの駆け引きは、まるで人間同士が打っているかのようです。
趙名誉名人も、「AIと打っている感じはしなかった」とコメントしていましたね。
さて、黒7の後は、人間ならまず白Aと傷を守る事を考えますが・・・。





5図(実戦白32~黒33)
白1と、上下の白をつなげつつ、右辺の黒を圧迫していきました!
当然、黒2と切られますが・・・。





6図(実戦白34~黒43)
黒10まで、右辺の白3子を取られました。
白3子はカス石ではありません。
上下の黒を切り離している、要石です。
では白がダメかと言えば、そうとも言い切れません。





7図(実戦白白44~48)
白5と打って、上辺から左辺にかけて、大きな白模様を形成しました!
これで黒の確定地に対抗しようというのです。

この手で、白AやBではない事がポイントです。
この部分だけを見た手ではなく、碁盤全体を見てバランスを取っています。
こういう漠然とした手をAIが打つようになるとは、驚きですね。





8図(実戦黒49~白52)
上辺一帯を全部白地にされてはたまらないので、黒1から荒らしに向かいました。
この後黒A、白B、黒Cが一つの定型です。





9図(実戦黒53)
ところが、実戦は黒1!
二間に開ける所を、じっくり1間に構えて腰を落としました。
恐らく、前図黒A以下の打ち方をすると、隅の白を固めてしまう事を嫌ったのでしょう。
本図黒Aに回った時に、隅の白を狙いたいという訳です。
いかにも趙名誉名人らしい、厳しい発想です。

確かこの黒1のような手を打つ人が、昔いたような・・・。





10図(参考譜)
これは131年前の碁です。
これが誰の碁が分かったら、間違いなく囲碁マニアですね(笑)。

黒△と押さえられた場面です。
競り合いですが、白Aと打つ手は一種の「車の後押し」です。
黒Bと伸びられ、以下押せば押すほど黒を固めてしまいます。
ここで白、どう打ったでしょうか?





11図(続・参考譜)
実戦は黒に触らず、白1!
黒2と守った所で白3を利かし、白5までと形を作りました。
眼も作りやすく、中央への足も早い好形になっています。
この白1~5の打ち回しには、感銘を受けたものです。

ちなみに黒は本因坊秀栄、白は村瀬秀甫です。
どちらも歴代最強候補として、名前が挙がるほどの打ち手です。
今も昔も、強い人は結構、似たような事を考えているのかもしれませんね。





12図(実戦黒67)
現代に戻りましょう。
実戦は、後に黒△が実現しました。
ここでできれば白Aと、広い方から詰めたい所です。
しかし、左上の白がまだ薄いので・・・。





13図(実戦白68~黒71)
白1、3と、左上白を守りながらの攻めとなりました。
しかし黒4と開き、堂々と胡坐をかいては成功でしょう。
趙名誉名人の描いたストーリー通りに進んでいる印象です。





14図(実戦白102)
その後、上辺の黒に襲い掛かって来ました。
周囲が真っ白なので、生きるまでに苦労するかと思いきや・・・。





15図(実戦黒103~黒111)
黒1以下、白の薄みを衝きながら、あっさり眼を作ってしまいました。
これでどうやら、黒の優勢がはっきりしました。

この後は「DeepZenGo」の乱れもあり、逆転のチャンスはありませんでした。
趙名誉名人、大変なプレッシャーのかかる中、素晴らしい内容で勝ち切ったと思います。


終局後は勝者の趙名誉名人、敗者のDeepZenGo開発チーム代表の加藤英樹氏、いずれも味のあるコメントをしていましたね。
戦い方は違っても、全力を出し切った事が伺えます。

DeepZenGoは発展途上であり、AIならではの強さを見せた一方、弱点も数多く表れました。
開発期間の短さが敗因でしょう。
次回の電王戦では、人間が苦戦するかもしれません。

アルファ碁は、誰も知らない間に人類を越えていきました。
私にはそれが納得できません。
できれば「DeepZenGo」には、ここで人類に追いついた、越えた、と言える時期があって欲しいですね。
その時の相手は、勿論日本最強の棋士です。
ぜひ実現して欲しいですね。

11月の情報会員向け解説

2016年11月22日 23時53分03秒 | 日本棋院情報会員のススメ
皆様こんばんは。
本日は毎月恒例の日本棋院情報会員のPRを行いたいと思います。
なお過去の記事はこちらです→第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回
棋譜再生ソフトの使い方は第4回で詳しく解説しています。

今月は農心杯での一力遼七段対李世ドル九段、女流本因坊戦第1局の謝依旻六段藤沢里菜三段の2局を解説しました。
どちらも大変注目された対局でしたが、本日は一力七段と李世ドル九段(黒)の棋譜解説の一部をご紹介しましょう。



1図(実戦)
一力七段が、序盤から仕掛けましたね。
ここの駆け引きについて、分かりやすく解説しています。





2図(実戦)
黒1「「ツケにはハネよ」で、当然のハネです。」
白2「引く一手です。」
黒3「この下がりも、お互いの根拠の要点です。
逃せない所です。」
白4「手厚い曲げです。
さて、この最新型には、どんな意図があるのでしょうか?
参考図で解説していきます。」

白4の場面で、参考図が5図入ります。
従来はどんな打ち方をしていたのか?
その打ち方を採用しなかったのは何故なのか?
それを分かりやすく解説しています。
しかし、図が多すぎるので、ここでは1図のみご紹介します。





3図(参考図)
「古くから定石とされているのは、白1の開きです。
すると黒2と詰める事が多いですね。
ここで白の対応が悩ましいのです。」

まずは従来の型を紹介しています。
この従来の型をより良くできないか、と考えたのが実戦の進行なのです。
それを4図使って解説しています(ここでは省略)。





4図(実戦)
「黒Aと伸びる事が多いのですが、黒△と仕掛けました。
相手の思い通りに打たせない、李九段らしい手です。
また後に述べますが、伏線もありました。」

このあたりの進行は、見ているだけでは意味不明と感じる方が多いのではないでしょうか。
解説の図をご覧頂ければ、納得して頂けるかと思います。





5図(実戦)
「黒△に対しては白Aで渡りを止める一手、というのが従来の常識でした。
しかし右上のハネも絶好点なので、そちらの方が価値が高いとみました。」





6図(実戦)
黒1「こう押してプレッシャーをかけたい所です。
白3子を大きく飲み込みますよ、と言っています。」←ここで参考図が1つ入ります(省略)。
白2「ハネる一手です。
傷ができますが、それでもここは譲れません。」←ここで参考図が1つ入ります(省略)。





7図(実戦)
「切って行きましたが、この手では黒Aを選ぶ棋士が多いでしょう。
この選択にも伏線があります。」

伏線とは何か?
それはさて置き、参考図が入ります。





8図(参考図)
「黒1以下、白の上下を分断しながら、中央に進出します。
自然な打ち方です。」

伏線が無ければ、こう打っていたかもしれません。





9図(実戦)
「外側の石を大事にします。」
ここで参考図が入ります。





10図(参考図)
「ここで慌てて逃げ出すようではいけません。
白が苦しい戦いになります。」

前図白1を打たなかった場合の図です。





11図(実戦)
「伸びきる一手です。」

何故こういう手が打てるのでしょうか?
それを参考図で解説しています。





12図(参考図)
「黒1では取り方が小さく、断然白良しです。」

白は右下の数子は取られても良い、という発想で打っています。



13図(実戦)
白1「絶好点です。
これで白が外回りになり、根拠も確保できました。」
黒2「渡る一手です。
これで白3子は取られました。」





14図(実戦)
「ここまで、白の捨て石作戦です。
右下の黒地は大きいのですが、ツケ引きを打った黒は元々非常に強い石でした。
そこからさらに地を増やしただけなのではないか、というのが白の主張です。」

ここで参考図が入ります。
「伏線」について解説しています。



15図(アルファ碁との対局)
「実はこの布石には前例がありました。
李世ドル九段とアルファ碁の五番勝負、最終局です!
本局とは左上隅の位置が違うだけで、ほぼ同じと言って良いでしょう。
李九段が黒番で負けた布石で、一力七段も当然知っています。
それでも、李九段はあえて変化しませんでした。」


このような形で、序盤から終盤まで解説しています。
ぜひ1局を通してご覧頂ければと思います。

なお12月は、新人王戦決勝第2局、大西竜平二段(黒)対谷口徹二段、女流名人戦リーグ、鈴木歩七段(黒)対青木喜久代八段の2局を解説します。
どちらも大熱戦でした。
ご興味をお持ちになった方は、ぜひ日本棋院情報会員にご入会ください!

一力七段-河野臨九段戦

2016年11月21日 23時59分59秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
まずはお知らせです。



雑誌「囲碁研究」で、私の講座が連載されています。
「配石を生かす布石の方向」全4回です。
11月号から連載されています。
もう12月号が出ていると思いますが・・・。
本と違って、文章はライターの方にお願いしていますが、私がお伝えしたい事を分かりやすく書いて頂いています。
ぜひご一読ください。


さて、本日は幽玄の間で中継された対局をご紹介します。
一力遼七段(黒)と河野臨九段の対局です。

ご存知の通り一力七段は天元戦挑戦手合の真っ最中ですし、河野九段も棋聖挑戦が決まっています。
今一番タイトルに近い2人が、十段戦本戦で激突しました。
それでは、早速振り返っていきましょう。



1図(実戦白32)
左辺で競り合いになっています。
白△に対しては、黒Aと弱い石から動くのが原則です。





2図(変化図)
しかし、黒1には白2と詰めて来るでしょう。
ただの大場ではなく、次に白Aから、左下の黒の眼を奪う狙いがあります。
一力七段は、白2を譲っては不満と考えました。





3図(実戦黒33~白38)
そこで、実戦は黒1と好点に先回りしました。
手を抜かれた白としては、当然白2から攻めます。
白6まで、黒は窮屈そうですが・・・。





4図(実戦黒39~黒47)
左辺での準備工作から、黒3、7の二段バネ!
そして、黒9の切り!

白が攻めに来た所で、逆に弱点を衝いて反撃に出ました。
一力七段らしい、積極的な凌ぎです。





5図(実戦白48~黒53)
白1を待ってから黒2と繋ぎ、白に傷を残しました。
そして白3に対しては、黒4、6と再び二段にハネる最強手!
一力七段、あくまで強気です。





6図(実戦白54~黒59)
これには河野九段も怒って、白5までと分断しました。
しかし、一力七段は黒6の切り!
逆に白の壁を攻めようとしています。





7図(実戦白60~黒67)
白6までと進みましたが、ここで黒7の当てが、白を悩ませる手でした。
白Aと繋ぐと、白は石が密集して、非常に働きの悪い姿になります。





8図(実戦白68~黒73)
そこで、何と白1と中央に先行し、種石を抜かせてしまいました!
石の効率を重視した、柔軟な発想です。

とはいえ、黒6までとなると、種石を抜いて黒の大石が安泰になっています。
また、黒4の飛び込みを許して、地も損しています。
中央の黒を取るぐらいでは、割に合わないように見えましたが・・・。





9図(実戦白74~白78)
ここで、白1から下辺に仕掛けました!
なるほど!
ここで強く戦うために、中央の戦いを早く切り上げたのですね。





10図(変化図)
ここで黒1、3と打てば、白2子を取る事はできます。
しかし、これは白の注文通りです。
白6までとなり、中央がぴったり止まってしまいます。
大きな白地ができるでしょう。





11図(実戦黒79~白86)
そこで、実戦は黒1と反発!
突如として、大変な戦いが始まりました。
白8となって、もう1手打たれると左下の黒が取られる状況ですが・・・。





12図(実戦黒87~黒89)
左下には構わず、黒1、3!
要石の黒△を助けていきました。
左下の黒を取ってくるなら、この一帯の白をみんな取ってしまおうというのです。
取られては大きいので、白は守らなければいけませんが・・・。





13図(実戦黒113)
その後、黒は右辺一帯の白を眼2つに苛めて、大きく黒地を増やしました。
それから悠々と左下黒△と生きては、黒の優勢が明らかになりました。
この後も一力七段は緩まず、押し切って勝ちを決めました。

今打てている2人の対決は、流石に迫力のある戦いでした。
皆様もぜひ総譜をご覧ください。