白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

趙名誉名人、敗れる

2016年11月20日 23時59分59秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
本日は、第2回囲碁電王戦三番碁第2局が行われました。
結果は、趙治勲名誉名人が「DeepZenGo」に敗れ、1勝1敗となりました。

本局は、結果だけでは見て欲しくありませんね。
趙名誉名人は、何かテーマを持って打たれた印象がありました。
それでは、振り返っていきましょう。

なお、この対局は幽玄の間にて、柳時熏九段の解説付きで中継されました。



1図(実戦白4~6)
まず、趙名誉名人の白1、3に驚きました。
私は趙名誉名人の碁は、2000局ぐらい見たと思いますが、目外しに打った碁があったかどうか?
星と小目が多く、また三々を愛用していた時期もありましたが、それ以外に打っているイメージが全くありません。
しかし、前局に引き続いて目外しを採用、序盤から積極的に動きました。





2図(実戦黒7~白16)
白10まで、お互いの石が切れている乱戦になりました。
想定される進行であり、白はこの展開を目指したのでしょう。





3図(実戦黒17~黒23)
黒1~7までは、流れるような進行です。
AIソフトは、人間の感性に無い手を打つ事が多々ありますが、このあたりは人間が打っているかのようです。
ここで、白も流れに乗るならAでしょう。
左辺白の頭を出しながら黒を分断して、自然な打ち方です。





4図(実戦白24~黒25)
ところが、実戦は何と白1と打ち、黒2の絶好点を許してしまいました!
恐らく、殆どの棋士は白1を悪手と判断するでしょう。

しかし、元来趙名誉名人の碁には、そういう所があります。
本当に悪いのか、確かめてみようという・・・。
私には、悪さを感じつつ、あえて打った手のように見えました。





5図(実戦黒45)
実際問題として、左下の分かれは黒が良いでしょう。
左下を白地にするために随分手数がかかり、その間に外側の黒がすっかり厚くなってしまいました。

そして、黒△の強手が飛んで来ました!
この手に対して、白Aと受けていれば無難ですが・・・。





6図(変化図)
白1と受ければ、このような進行が想定されます。
しかし黒2~白7までは、黒にとって一方的に得な交換です。
黒8などと打ち、上辺一帯の黒模様が、いかにも大きそうです。





7図(実戦白46~黒49)
とはいえ、白1と出て行ったのには驚きました。
確かにこう反発したい形ですが、左下の黒が厚く、岩に頭をぶつけているかのようです。
上下の白が弱くなり、危険な進行です。





8図(実戦黒71)
その後、上手く両方を凌ぎましたが、小さく生かされてつらい結果です。
黒△に回られ、右上一帯が大きな黒模様になりました。





9図(実戦白72~白82)
右下、右辺、右上と、白が走り回ります。
尋常では勝てないとみた、必死の打ち方に見えます。





10図(実戦黒83~白92)
黒は右上の白を取りかけに行きました。
しかし、黒7、9は手順が逆です。
AIならではのミスでしょうね。
後から黒9と打ったので、受けずに白10と飛び出されてしまいました。
これで、白は死ぬ心配が無くなりましたが・・・。





11図(実戦黒115)
右上は攻めに切り替え、白を閉じ込める事に成功しました。
そして黒△まで進むと、中央の黒模様が膨大で、白△も睨み殺しにされそうです。
黒大優勢です。





12図(実戦白116~白118)
しかし、白1、3から黒模様に突入!
生きるか死ぬかの勝負に持ち込みました。
これぞ全盛期の趙治勲、といった印象です。

これは想像ですが、趙名誉名人は、最初からこんな勝負がしたかったのではないかと思います。
全盛期の自分が最も得意とした碁形で、正体の知れない相手とぶつかってみようという・・・。
前局では自分を抑えて逃げ切りを図りましたが、本局では逆に、自分の碁で勝負しようとしたように感じました。

趙名誉名人も、最近はあまり極端な碁は打たなくなりました。
しかし、これが良い機会とみて、封印を解いてきたのではないでしょうか。





13図(実戦黒119~黒127)
現実的な見方をすれば、これで白は苦し過ぎる形です。
いくら凌ぎの達人の趙名誉名人でも、生きる見込みは薄いでしょう。
黒の緩みもあって、かなり際どい所までいきましたが、最後は仕留められてしまいました。

相手に模様を好きなだけ広げさせておいて、ドカンと入ってガラガラにしてしまう・・・。
それが、趙名誉名人が得意とする作戦でした。
しかし、模様作戦はAIにとっても、最も得意とする所です。
承知の上とはいえ、AIの強さを引き出させる結果になりました。


さて、1勝1敗となって、最終局はどうなるでしょうか?
恐らく、趙名誉名人は再び、勝負に徹する打ち方に戻るでしょう。
AIの強さと弱さを知った上で、どう作戦を立てて臨むのか、見ものですね。

第3局は、3日後の23日(水)に行われます。
趙名誉名人の勝利を信じて、応援したいと思います!

趙名誉名人、勝利!

2016年11月19日 23時59分59秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
本日、第2回囲碁電王戦三番碁第1局が行われました。
タイトル獲得数74のレジェンド、趙治勲名誉名人と、国産囲碁AIソフト「DeepZenGo」の対決です。

「AlphaGo」が現れた時、いずれ人間の棋士は、AIに太刀打ちできなくなる事が明らかになりました。
しかし、それはあくまで将来の話です。
今はまだ対等に戦えるのですから、勝ちに行かなければいけません。
人間の底力を見せるには、今しかないのです。

趙名誉名人も、この勝負には並々ならぬ意気込みで臨んだ事でしょう。
七大タイトル戦の舞台からは長い間遠ざかっていますが、久しぶりに勝負師・趙治勲の姿を見た気がします。
結果は見事に黒番中押し勝ちを収め、初戦を飾りました。



1図(実戦黒9)
左上の構えを趙名誉名人が打っている所は、初めて見ました。
凌ぎの達人として知られていますが、基本的には突飛な手は打たない、じっくりタイプです。
また、布石も碁盤の前に座ってから考えるタイプです。

しかし、あえて布石の型を決めて来ました。
この段階にして、本気で勝ちに行っている事が分かります。





2図(実戦黒29)
右上黒△で白の根拠を奪って攻め、右下でも黒△と入って、右辺の白を攻めようとしています。
このあたりは、概ね作戦通りの展開でしょう。

超早打ちモードでしたが、それも後半のために、持ち時間を節約するための作戦でしょう。
長考派で知られる趙名誉名人ですが、タイトル戦で追い詰められた時など、絶対に勝ちたい1局では早打ちモードに入る事があります。
本局には、そのぐらいの重みを感じていたという事でしょう。





3図(実戦白30~白36)
白1から動きましたが、隅の石が痛んでしまうので、多くのプロはこの打ち方を考えません。
黒が良さそうに見えます。





4図(実戦白38~白40)
しかし、白1、3となってみると、右辺の黒が苦しくなっています。
どうやら、白に一本取られてしまいました。
こういった勢力重視の打ち方は、AIが得意とする所です。





5図(実戦白56)
黒への攻めによって、右辺の白が強くなりました。
また、白△の詰めも痛烈です。
右上の黒を脅かしています。





6図(実戦黒57~白68)
右上の黒が閉じ込められてしまいました。
ぎりぎり生きているかどうか、という形になっています。

しかし、ともあれ白12には、黒Aと逃げるしかないと思われました。
何しろ「ポン抜き30目」です。
普段の対局なら、間違いなくそう打ったでしょう。
しかし、ここで趙名誉名人、初めて長考に入りました。





7図(実戦黒69)
なんと、黒Aと逃げずに、黒1の切り!
普通は白Aと抜かれて「論外」という手ですが、黒Bと伸び、白三子を大きく飲み込もうという事でしょう。
取ってしまえば、右上黒を生きる手が必要無くなります。





8図(実戦白70~黒73)
という訳で、白もポン抜きではなく、白1の繋ぎでした。
少しでも上辺の戦いに響かせようという、実戦的な選択です。
それでも黒は、切った石を動き出していきました。





9図(実戦白74~白84)
黒10まで、白4子を取り、右上黒は安泰になりました。
黒成功かというと、そんな気はしません。
白11と入られて左上の構えが崩れ、形勢は悪化したように見えます。

しかし、趙名誉名人としては、承知の上での選択でしょう。
目一杯の打ち方をしなければ、勝機が来ないとみたのではないでしょうか。
それにしても、気迫の籠った打ち方です。





10図(実戦黒97)
趙名誉名人の気迫が、AIを狂わせた!
・・・そんな訳はありませんが、ここで白はポイントを失いました。

黒△とハネられ、死活の関係上、将来白△が抜けてしまいます。
すると白〇の石が無駄になり、黒Aの狙いも生じます。
趙名誉名人、これはいけると感じたのではないでしょうか。

以前、AIは死活やヨセで間違えないという趣旨の記事を書きましたが、どうやら間違っていたようです。
3図~4図のような、全体を見た打ち方が得意で、細かい所は苦手なのですね。





11図(実戦白104)
白△と、隙のある手で頑張って来られた場面です。
趙名誉名人は、まず黒Aと切る事から考えるタイプです。
今すぐかどうかはともかく、必ず切ると思っていました。





12図(実戦黒105~黒111)
しかし、黒1からおとなしく打って白6と繋がせ、黒7と右下の白を取り切りました。
明らかに優勢を意識した、逃げ切り作戦です。
趙名誉名人は、形勢に関わらず厳しい手を選ぶタイプです。
しかし、自分を抑えて勝負に徹しました。
この後色々ありましたが、ともかく大きな1勝を挙げました。

趙名誉名人が勝つと信じていましたが、しかし勝負は蓋を開けてみなければ分かりません。
勝ってくれて本当に良かったと思います。

1勝して気持ちに余裕ができたでしょうから、明日は派手な展開になるかもしれませんね。
趙名誉名人はインタビューで、「乱暴するかもしれない」と答えていました。
どんな碁を見せてくれるのか、楽しみですね。
明日も趙名誉名人の戦いを応援しましょう!

井山王座、防衛!

2016年11月18日 23時59分59秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は、第64期王座戦挑戦手合五番勝負第3局が行われました。
結果は、井山裕太王座余正麒七段に白番中押し勝ちを収め、3連勝で王座を防衛しました。
それでは、早速振り返っていきましょう。

なお、この対局は幽玄の間にて、三村智保九段の解説付きで中継されました。
万人が楽しめる名解説だったと思います。
解説付きの中継は、対局場からは既に流れてしまっていますが、幽玄の間ホームページ上でご覧頂けます。



1図(実戦黒17~黒23)
黒1に対して、受けずに白2~6と好点に回ったのが、気合の入った打ち方です。
ならばと黒7と連打したのも、また気合です。
ここで白の選択肢は、通常はAからCの3通りです。





2図(実戦白24)
ところが、実戦は白1!
白Aに石がある時なら、左辺の黒を閉じ込める意味で、時々打たれます。
しかし、何もなしに白1とは・・・。
新手ではありませんが、非常に珍しい手です。
これを大舞台で披露できるのが、井山王座らしいですね。

この手の意味は、なかなか形容しがたいのですが・・・。
あえて言うなら、「相手を迷わせる手」でしょうか?
例えばこの手で白Bなら、相手は迷わず黒Cと、三々に入って来ます。
しかし、この手ならば、黒にぴったりした手はありません。
井山王座は、相手を迷わせる手を好んで打つ印象がありますが・・・この手もそうかもしれませんね。





3図(実戦黒25~黒27)
それに対して、黒1、3のツケ切りは、目一杯の打ち方です。
緩まない棋風の余七段らしいですね。
井山王座も、こう来ると予想していたのではないでしょうか。





4図(実戦白46)
左下は、見た事の無い分かれになりました。
色々な変化があるものですね。

さて、白1の打ち込みは、白がずっと狙っていた手です。
黒を孤立させて、攻めようというのです。
このために、白△と力を蓄えていました。
戦闘開始です。





5図(実戦黒47~黒49)
黒は1、3と柔軟に対抗しました。
白Bと攻めさせておいて、黒Aと渡ってかわそうというのです。
となれば、何とかして渡りを止めよう、というのが普通の発想ですが・・・。





6図(実戦白50~白52)
ここでなんと、遠く離れて所で白1、3!
全体の白をつなげて、これ以上なく手厚い打ち方です。
そしてスケールも大きいです。
黒Aと、低く渡る程度じゃ勝負にならないよ、という井山王座の声が聞こえてくるかのようです。
自信に溢れた打ち回しです。

この手は、名人戦第1局の、左下白50の曲がりと似ていますね。





7図(実戦黒53~白56)
それに触発されたかどうか?
余七段、黒1、3と強く白に迫りました。

この打ち方は、「攻めたい石にツケるな」の格言に反していると思われるかもしれません。
実際白4の後、黒A、白B、黒C、白Dとなると、白を進出させるお手伝いをした形になっています。

しかし、実はその格言には例外があるのです。
それは、「相手を閉じ込められる時はツケても良い」という事です。
つまり、余七段の作戦は・・・。





8図(実戦黒57)
出ました、黒1!
全体の白をやっつけてしまおうというのです。
黒にも薄みがありますが、躊躇せずやっていけるのが、余七段らしいですね。
確かに、かなり厳しく見えます。





9図(実戦白58~黒61)
白は1、3とツケの連発で、サバキに出ました。
黒4には、右辺の白3子を捨てて、白Aと打つのかと思っていましたが・・・。





10図(実戦白62~白66)
白1から、一転して右辺の白を動き出しました!
なるほど、白△は全て陽動部隊でしたか・・・。
井山王座の考える事は、本当に読めません。

そして、白5と狭い所からノゾいた手にも注目です。
形構わず黒の退路を断とうという、井山王座の気迫が表れた一手です。





11図(実戦黒67~白72)
そして、白6となってみると、明らかに黒が苦しくなっています。
白を攻めていたはずなのに、どうしてこうなってしまったのでしょうか・・・。
井山王座の強さを、思い知らされます。





12図(実戦黒91~白92)
黒1まで、右辺の黒を凌いだのは、流石余七段という所です。
しかし、中央が真っ白になり、形勢は大きく白に傾きました。
まず白2と、左辺の黒に迫り・・・。





13図(実戦黒93~白98)
黒1、3と守らせ、一転して右上に手を付けていきました。





14図(実戦白104~白110)
かと思えば、白1から、また左辺の黒の攻めに回りました。
厚みを生かして、白はやりたい放題です。
白7の後、黒は生きを図れば無難ですが、右上の白を動かれると勝ち目がありません。





15図(実戦黒111~白112)
そこで、黒1と右上に回ったのは、玉砕覚悟の勝負手です。
しかし、井山王座の対応は乱れませんでした。
白2からついに牙を剥き、難なく黒を仕留めて勝ちを決めました。

恐らく、序盤のどこかで差が付いていたのでしょう。
余七段が酷い手を打ったようには見えなかったのですが、井山王座が完勝しました。

七冠こそ崩れましたが、やはり井山王座は最強の存在ですね。
当分はトップに君臨する事でしょう。
しかし、第1局、第2局では余七段に十分勝つチャンスがあったように、無敵ではありません。
次は1勝1敗となっている、天元戦に注目しましょう!

石の形

2016年11月17日 21時55分40秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
本日のテーマは石の形です。
昨日は形の悪い手が沢山出て来ましたが、基本的には、プロは石の形を大事にして打っています。

碁は交代に1手ずつ打つゲームですから、1手打つ度に1手分のポイントを挙げて行かなければいけません。
しかし、形の悪い手を打つと0.5手分になったり、酷い時には0、つまりパスと同じ事になってしまいます。
最悪のケースでは、パスより悪くなる、マイナスという事も・・・。
そうならないよう、美しい形、効率の良い形を作っていきたいですね。

ちなみに美しい形と効率の良い形は、重なる部分もありますが、大きな違いがあります。
そのあたりは、また別の機会にお話しします。
本日は、幽玄の間で中継されたプロの碁をお手本に、石の形を学びましょう。



1図(テーマ図1)
山田規三生九段(黒)と伊藤庸二九段の対局です。
白1と切られましたが、黒どうしますか?





2図(失敗図)
問題形式にしたので、こちらが失敗だとお気付きになった方は多いでしょう。
しかし、実戦ではこういう所を繋いでしまう方が、圧倒的に多いのです。

まず、黒石の形は空き三角と陣傘が混じったような、歪んだ形をしています。
そして何より問題なのは、白Aの逃げ出しが残り、黒3子が不安になっている事です。
黒△がAにあれば良いのですが、1路ずれたこの図では、1手の価値がありません。
後に黒Aと守るような事になってしまうと最悪で、丸々1手損となります。





3図(正解図①)
実戦は黒1と当て返しました。
これが正解です。
ノータイムで黒△を助けてしまう方が多いのですが、プロはノータイムで黒1と打ちます。
正しい石の形が身に付いているからです。





4図(正解図②)
黒1子を取られましたが、黒4まで何事もありません。
黒石の姿が、スリムになったように感じませんか?
一方、白の形は団子になっています。
自分の形は良く、相手の形は悪くするのが理想的なのです。

石の形が良いという事は、活躍する石が多いという事です。
すると戦いで有利になったり、地が多くなったりします。
「碁の本質」は石の強弱ですが、石の形もまた非常に重要なのです。





5図(テーマ図2)
とはいえテーマ図1では、失敗の手を打ってどう悪くなるのか、具体的には見えにくいと思います。
そこで、分かりやすいテーマもご用意しました。

工藤紀夫九段(黒)と風間隼二段の対局です。
白△と打った場面です。
白Aや白Bを見られて黒が苦しそうですが、思い切った手で打開したい所です。



6図(失敗図)
黒1、3と脱出する事はできますが、白2がピンとした形の、素晴らしい伸び切りです。
白4と、黒3子をすっきり取っては白良しです。 ※AとBが見合い





7図(正解①)
実戦は黒1のハネ!
これが正解で、白に好形を与えません。
Aの傷が気になりますが・・・。





8図(変化図)
白1から黒2子は取られますが、黒2、4でぴったり中央が止まります。
黒6と、中央の白を分断しては、明らかに黒が攻勢に立ちました。
「ポン抜き30目」といっても、端に籠っているので全く役に立ちません。





9図(正解②)
中央を止められてはいけません。
白1から進出して行ったのは、必然です。
しかし、6図の伸び切りと違い、白の形が丸まったように見えませんか?





10図(正解③)
黒4までの分かれとなりました。
中央の黒は取られましたが、左下の黒が非常に強くなり、地も大きくなりました。

白の形が悪くなったため、中央に沢山手がかかりました。
5図に比べ、地も殆ど増えていません。
その間に、黒は左下に沢山打てたという訳です。


非常に重要ながら、分かり難いのが石の形です。
まずは理屈よりも、良い形を沢山見る事が大切ですね。

伊田八段、王冠獲得!

2016年11月16日 23時59分59秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
著書「やさしく語る 碁の本質」が、ついに発売されました!
全国の書店等や通販でご購入頂けます(電子書籍版もあります)。
私の元にも無事到着し、各所へ発送しています。

ところで、著書に関して、当ブログ読者の皆様にお願いしたい事があるのですが・・・それはまた後日ですね。
明日(木)は棋士の手合日ですし、明後日(金)は王座戦第3局です。
そして、まだ今月の日本棋院情報会員のPR記事を投稿していません。←今気付きました

さて、本日は第57期王冠戦挑戦手合一番勝負の模様をご紹介しましょう。
伊田篤史八段が見事羽根直樹王冠を破り、王冠を獲得しました!
伊田八段らしい、力で押しまくる1局だったと思います。

なお、この対局は幽玄の間にて、下島陽平八段の解説付きで中継されました。
色々な意味で面白い解説です(笑)。
そちらもぜひご覧ください!



1図(実戦黒51~白52)
伊田八段の黒番です。
右下は、黒の仕掛けからできる型です。
力自慢御用達で、山下敬吾九段が愛用している事は有名です。
若手では、芝野虎丸三段がよく打っているイメージがあります。
伊田八段も力自慢ですから、こういう型は好きでしょうね。

色々な変化がありますが、白が黒△を取り、黒が右辺に勢力を築く展開になりました。
ここで黒1は、下辺白と黒△の攻め合いに持ち込む狙いです。
白はそれを避けるため、白2とケイマに進出しました。
しかし隙のある形なので、できれば黒としては、分断してしまいたい所です。





2図(変化図)
では、分断するにはどうすれば良いでしょうか?
こういう形でプロが真っ先に考えるのが、黒1のツケコシです。
ケイマにツケコシの格言通りですね。
所謂、筋が良い分断の仕方です。





3図(続・変化図)
しかし白11まで、黒が取られてしまいます。
筋良く切る手は成立しない状況でした。
しかし、そこで諦める伊田八段ではありません。





4図(実戦黒53)
実戦はなんと、黒1!
白Aと押さえれば、黒Bと切ろうとしています。
黒は所謂空き三角の形であり、愚形の代表です。
筋が悪い切り方と言えます。

しかし、こういう所で躊躇しないのが伊田八段です。
筋や形が悪かろうと、とにかく分断してしまえば良いと判断しました。
なるほど、打たれてみればこれは強烈です。
慎重な棋風で知られる羽根九段も、これには意表を衝かれました。





5図(実戦白54~黒59)
実戦は白1と1回緩めましたが、黒2には白3と押さえなければ、1図白2とケイマした手の顔が立ちません。
序盤から未知の戦いに突入しました。
そして白5に対して、黒6!
またしても空き三角筋悪攻撃です!(笑)
形が悪くても、下辺の白6子を取ってしまえば関係ないと言っています。
これまた、伊田八段らしい力強さですね。





6図(実戦白74)
手順が進み、白△とツケられた場面です。
黒Aなら白Bなどと打ち、黒△の動きが不自由になります。
黒△の形の悪さを衝いて来られました。





7図(実戦黒75)
しかし、ここで黒1が弾力のある好手です。
黒AとBを見合いにしています。
ここまで筋悪攻撃で押しまくってきた伊田八段、筋の良い所もアピールしました(笑)。





8図(変化図)
白1から黒4子を攻めて来ても、黒4まで問題なく繋がります。
黒△が、予めAの傷を守っています。





9図(実戦白76~黒79)
実戦は白1と押さえ、黒4までとなりました。
隅でしっかり生き、白Aには相変わらず黒Bで大丈夫です。
伊田八段、際どい状況も頑張り抜きました。





10図(実戦白90)
白△と当てられた場面です。
黒Aと繋ぐのは悔しく、かといって黒Bとコウを仕掛けても、勝てる見込みがありません。
一昨日題材にした私の碁の1図と同じ状況と言えます。





11図(実戦黒91)
という訳で、実戦は第3の選択、手抜きでした。
黒1が堂々の伸びです!
私の碁では「コウ立て作り」が出てきましたが、これは「コウ立て消し」ですね。
この黒に対する、白からのコウ立てを予め消した手です。

もちろん、この手の価値はそれだけではありません。
形の悪さを改善し、周囲の白の薄みを睨んでいます。





12図(実戦黒97)
黒2も同様にコウ立て消しです。
左上の黒を強くして、白からのコウ立てを消しています。
そして白3を待ってから、黒4とコウを仕掛けました!

黒6のコウ立てに対して、白Aと受けたいのですが、黒B以下大量のコウ立てができます。
一方黒△や黒2が働き、白からのコウ立ては乏しい状況です。





13図(実戦白98~黒99)
という訳で、白1とコウを解消したのは止むを得ません。
黒は左辺を連打する事ができました。

それにしても、黒2とは!
自ら頭をぶつけに行く手で、これも筋が悪いとされます。
しかし、伊田八段があえてこう打ったのは、とにかく確実に白を分断しようという事です。
確かに打たれてみれば、これで白は苦しい状況になっています。
伊田八段らしさ溢れる、力強い一着でした。

苦しい状況からの粘りは、羽根九段が得意とする所です。
黒に決め手を与えず頑張りましたが、伊田八段、がっちり勝ち切りました。
持ち味をよく発揮した、伊田八段の充実を感じる一局でした。