白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

一昨日の対局

2017年10月21日 20時06分20秒 | 対局
皆様こんばんは。
本日は木曜日の対局を振り返ります。
対局相手は田尻悠人四段です。

最近は年下との対局が増えました。
今年の対局相手の半分ぐらいは年下です。
私はまだ30代前半ですが、この世界ではもう若手ではありません。
10代半ばの新人から見れば、ベテランにしか見えないでしょうね。



1図(テーマ図)
私の白番です。
黒△とカケツギを打った場面ですが、白はどう打ちますか?
様々な着点が考えられますが、重要なのは目の付け所を間違えないことです。





2図(変化図1)
三々入りの基本定石では1の点に白石があるので、同じ形を目指して白1と打ちたくなる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、この場合は定石に従っている場合ではありません。
白△の弱石が孤立しているので、黒2の分断が厳しいのです。
もし黒6まで丸飲みされてしまうと、右上一帯が巨大な黒地になってしまいます。
これは白、棋理に反する打ち方でした。





3図(変化図2)
そこで、弱い石を守る白1が思い浮かびます。
この手は白△からは一見飛び、白×からはケイマの位置であり、全体をしっかりとつなげています。
問題ならば間違いなく満点を貰える手であり、最初にこの手が浮かんだ方はかなりの腕前でしょう。

ただ、私としてはこの手に若干の物足りなさを感じました。
と言うのは、黒△が強力な厚みであり、右上方面には白からの狙いが無いからです。
しっかり守っても狙いが無いのでは、守り一方になる懸念がありました。





4図(実戦)
そこで、実戦は白1と外して打ってみました。
ぼんやりしていて、よく分からない手ですね。
私も「見たことない手だなぁ」と思いながら打ちました(笑)。

この手は白Aに比べると白△との連絡が薄いですが、その分左辺に影響力が強くなっています。
今後左辺で戦いが起こることは明らかだったので、工夫してみたのです。





5図(実戦)
白1の弱点として、例えば黒2、4のように白△をう分断して来ることが考えられます。
ただ、それなら例えば白9まで、白△を小さく捨てて左辺を大きくするイメージでした。
右辺黒模様よりも左辺白模様の方が大きいことが感じられるでしょう。

実際のところ、3図と4図のどちらが良いのかは分かりません。
「AlphaGo Zero」に聞いてみたいところですね(笑)。
ただ、こうした分岐点で「勝率の高い手」ではなく、「打ちたい手」という基準で着手を選べるのは人間の良いところではないかと思います。

ちなみに、この碁は途中から闇試合になり、手探り状態で打ち続けることになりました。
お互い秒読みの中、滑ったり転んだりと大変でしたが、気が付いたら最後に立っていたのは私でした。
幸運でしたね。

七冠、出陣!

2017年10月20日 23時50分12秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日、王座戦五番勝負が開幕しました!
井山王座にとって、二度目の七冠達成後の初対局となります。
七冠制覇までは長い道のりでしたが、これからは維持するための厳しい戦いが続きます。
どこまで戦い抜けるでしょうか?
進行中の天元戦同様、挑戦者は一力遼七段です。



1図(実戦)
一力七段の黒番、黒△と打った場面です。
現状はまだ生きていない黒×と白×の競り合いになっています。
ここまでは理解できない手が全く無く、落ち着いて見ていられました。
お互いに逃せない地点を打って行く感じて、アマの皆様が並べても分かりやすい方だと思います。
この流れが続くかと思いきや・・・。





2図(実戦)
白1のツケ!
これは全く予想できない手でした。
黒△からの黒2の膨らみは有名な好形であり、みすみす黒にポイントを与えるようなものです。
ですから、無意識に候補から外すような手であり、ずっと先を読んでいなければ打てません。
恐らく白3と仕掛けた後の変化の中に、白1が役に立つ図があるのでしょう。
深い読みの裏付けを感じます。





3図(実戦)
黒△と打った場面です。
白×が分断され、弱い石が2つになっています。
見た目は白が苦しそうに見えますが、これは井山王座の作戦でしょう。





4図(実戦)
白△と打った場面です。
白×を両方とも捨てましたが、黒×を攻めて右辺での優位を確立しています。
碁盤全体を見ていないとこういう打ち方はできません。

本局は井山王座の読みの深さ、広さが光った1局だったと思います。

AlphaGo Zero

2017年10月19日 23時59分59秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
本日木曜日は日本棋院棋士の手合日でした。
私も対局していましたが、知らない間に大変な事件が起こっていたようですね。

「AlphaGo Zero」、登場・・・。
表舞台から消えたと思われていたAlphaGoの新バージョン、と言うより新規バージョンと言った方が良いでしょうか。
人間の棋譜を一切学ばず、自己対戦だけで成長したソフトです。
学習期間はそう長くないそうですが、既に「Master」を圧倒するほどの強さになっているとか・・・。

最近はAIの進化速度が異常で、ついて行けなくなりつつあります。
今すぐ引退したいぐらいの気持ちですが、もうしばらくは頑張ります。



1図(実戦)
白Aとでも開くのが棋士の感覚ですが、2路高く白△と宙に浮かせました!
これがZeroの感覚か! と思いきや、これはMasterの手でした(笑)。
こんな手を見つけ出す相手に、一体どうやって勝つというのでしょうか?





2図(実戦)
黒番のZero、黒1と切って行きました!
気になる所ではありますが、白の石数が多い所なので、上手く行くかどうか?





3図(実戦)
白7までと進みました。
直感的には、周囲を取り囲まれた黒が苦しく感じませんか?





4図(実戦)
ところが、最終的には黒が白△を取ってしまいました。
白はコウ立てで右下隅を取っているので、ただで取られた訳ではありませんが、やはり黒の成功とみるべきでしょう。
どうやらZeroは、AIの苦手分野である部分戦にも滅法強いようです。

AIは大局観だけでなく、部分戦においても人間の手の届かない領域に達してしまったようです。
総合的な強さは、もはや判断不能です・・・。

AlphaGo自己対戦 第8局

2017年10月18日 23時59分59秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
最近、Twitterを始める棋士が増えていますね。
兄弟子の首藤瞬七段始めたようです。
早速宣伝しておきましょう(笑)。

ところで、本日三村智保九段によるMasterの棋譜紹介シリーズが完結しました。
私のものよりずっと詳しい、かなりの大作です。
本人は開始後数局で後悔したそうですが・・・(笑)。
シリーズは三村九段のホームページからご覧頂けます。

私のAlphaGo自己対戦シリーズも、完走目指して続けて行くとしましょう。
ただし、分量は控えめに・・・。



1図(テーマ図)
突っ込みどころが多すぎる碁なので、どこをご紹介したものか迷いましたが・・・。
右上、白△とカケツギを打った場面です。
黒×、白×はそれぞれ相手の石を切り離している要石です。
まず黒×を助けることを考えたいところですが、それは難しいので・・・。





2図(実戦)
実戦は黒1と白3子に働きかけました。
白2で黒3子は取られますが、次に黒Aと打てば白3子を取れる形になっています。
これでお互いに相手の要石を取り合う流れになったかと思いきや・・・。





3図(実戦)
黒1~5と右辺に転じ、白×の脱出を許しました!
すると黒×も弱くなってしまうのですが、黒7と補強すれば攻められる石ではないとみています。

出来上がり図だけを見れば、確かに黒も打てそうに思えます。
しかし、普通の棋士がパッと思い浮かべられる進行ではないでしょう。
直感的には、この手順に違和感を覚えるはずです。

棋士の対局でも、こういった直感では気が付かない手順が現れることはあります。
ただ、多くの場合は時間をかけて練った末に生まれて来るものです。
しかし、AlphaGoは一瞬でこの進行に辿り着いてしまうのです。
強いと言うより、次元が違うと言うべきでしょう。

七冠制覇

2017年10月17日 22時08分30秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は名人戦第5局の2日目が行われました。
注目の封じ手は・・・。



1図(封じ手)
白△でした!
ようやく当たりました!
と言っても、今回はプロにとってはサービス問題でしたね。

この手は、要石の白×を助けながら次に黒×を取るぞと脅しをかけた手です。
黒としては、その脅しに屈して生きるようでは形勢が悪いので・・・。





2図(実戦)
左上黒17子を捨て、その代わりに中央を制圧する道を選びました。
この進行は予想していましたが、井山挑戦者としては止むを得ず選んだ道かと思っていました。
中央でできたポン抜きも素晴らしいですが、何と言っても左上黒の取られ方は大きく見えます。





3図(実戦)
しかし、黒△となった場面を見ると評価が変わりました。
上辺は黒×が白地に大きくめり込んでいますし、中央白×は攻撃目標にされています。
こうなっては黒有望でしょう。

苦し紛れの捨石作戦と思っていましたが、これが井山挑戦者の予定通りだったとしたら・・・。
我々とは別の次元で碁を打っているとしか思えませんね。

この後高尾名人も粘り、勝負形に持ち込んだそうですが最後は井山挑戦者が勝ちましたね。
これで4勝1敗で名人位を奪取、2度目の七冠制覇を達成しました。
シリーズ全体の内容的は互角と思えましたが、勝負所での強さが勝敗を分けたでしょうか。
昨年の七冠達成時も凄まじい強さだと思いましたが、さらにレベルアップした感があります。
この勢いで世界戦優勝も達成して欲しいですね。