白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

棋聖戦第2局感想

2018年01月26日 23時36分27秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
昇段について、多くの方からお祝いのメッセージを頂きました。
ありがとうございます!

また、昨日うっかり書き忘れましたが、十段戦の挑戦者決定戦が行われました。
結果は村川大介八段志田達哉七段との争いを制し、挑戦者に名乗りを上げました。

村川八段と言えば、4年前に井山七冠から王座を奪ったことが思い出されますね。
不振の時期もありましたが、最近は調子が良いのではないでしょうか。
こちらも楽しみな対決ですね。

さて、本日は棋聖戦第2局の2日目が行われました。
注目の封じ手は・・・。



1図(封じ手)
黒△でした!
皆さん、当たりましたか?

・・・すみません、こんなはずでは・・・。
この手自体は、決して変わった手ではありません。
ですが、5秒ぐらい考えて却下してしまいました。
と言うのは、もしもこの後・・・。





2図(参考図)
白1と打つと、黒2、白3と進むでしょう。
では、次に私の予想した封じ手からの進行を考えてみましょう。





3図(参考図2)
先に黒1と当て、白2の時に黒3と打てば白4の押さえとなります。
これは前図と全く同じですね。
同じであれば、あえて実戦の封じ手を選ぶ意味が無いと思いました。
実戦では白に変化の余地を与えているわけですし・・・。

ただ、あえて相手に選択肢を与えて迷わせるという作戦もあります。
ひょっとしたらそんな意図があったのでしょうか?
あるいは・・・。





4図(参考図3)
黒1に対して、河野臨九段いわく「第一感」の白2のツケなどを心配したものでしょうか?
白AやBを狙われて、確かに悩むかもしれません。

このあたりの駆け引きの中身は、対局者の感想を聞いてみたいところですね。
1つ言えることは、当たり1つ打つかどうかにも、対局者は神経を使っているということです。
流石に2日制の碁ですね。

本局は全体的に井山棋聖が押し気味だったと思いますが、一力挑戦者も粘って難しい戦いに持ち込み、チャンスはありそうでした。
結果の図形は黒圧勝に見えますが、実際には一方的にやられたわけではないと思います。

とは言え、そろそろ結果を出さなければ厳しいですね。
第3局は正念場です。

昇段&封じ手予想

2018年01月25日 18時03分42秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日、日本棋院の賞金ランキングによる昇段者が決定しました。
私は六段の中で1位になったようで、七段に昇段しました!
これには自分でも驚きです。
詳細については、後日改めて書きたいと思います。

さて、本日は棋聖戦第2局の1日目が行われました。
第1局とは大分雰囲気の違う展開になりましたね。



1図(実戦)
白1の挟みに対しては、まず黒Aと動くことが考えられます。
しかし、実戦は黒2と手抜きしました。
手抜きしたこともそうですが、その着点にもなるほどと思いました。
将来黒△が弱くならないよう、援軍を送っているのですね。

プロは石の強弱を常に考えて打っていますが、井山棋聖も例外ではありません。
ただ、先の先まで考えて打っているので、意図が分かり難いこともしばしばです。





2図(実戦)
1日目のハイライトシーンは、なんといってもここでしょう。
白1、3、5の連続技!
外側に白石を増やしつつ、隅も生きてしまおうという狙いです。
華麗な打ち回しですね。





3図(実戦)
しかし、その後一転して白1、3、5という重厚な打ち回しを見せました。
一力挑戦者はまだ20歳ですが、どんな打ち方でもできるのですね。





4図(封じ手)
本局、一力挑戦者は意図的にじっくりとした展開を目指したように思えます。
そして、白△と打った場面で封じ手となりました。
この封じ手は、いわゆる「味の良い」封じ手です。
「今日はこのぐらいにして、お互いゆっくり休みましょう」と言ったところでしょうか。
と言うのは・・・。



5図(封じ手予想)
封じ手は黒1の当てしか考え難いからです。
白Aとつながせれば、どう見ても得ですからね。

私は未経験なので想像ですが、封じ手前は集中力が切れやすい時間だと思います。
ですから、封じ手で悪手を打ったのではないかと心配することもあるでしょう。
一方、相手としても封じ手が分からないと不安になることもあるでしょう。
しかし、今回のようなケースでは、お互いにそのような心配をする必要が無く、気持ち良く眠れるのではないでしょうか。

などと言っていて、絶対に予想が外れないとも言い切れませんが・・・。
もし自分が全く気付かない手が見られるとしたら、むしろ嬉しいことですね。

明日はどのような展開になるでしょうか? 
ポイントとしては、白が左下黒を攻められるのかということが1つ。
もう1つは右辺の黒模様に突入するチャンスが来るかどうか、といったところでしょう。
ぜひ明日もお楽しみください。

DeepZenGo

2018年01月24日 22時23分48秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
幽玄の間での棋士とDeepZenGoの対局は2017年いっぱいの予定でしたが、延長されています
毎日多くの対局が行われているので、ぜひご覧ください。

最近はじっくり観戦している時間がありませんが、少し眺めてみたところ、目を引く打ち回しが見られました。
皆様にもご紹介しましょう。
対局者は田中伸幸三段(黒)です。



1図(テーマ図)
左下Aの穴が残ったまま放置していることは、見た目には非常に気になりますが、黒が打ってきても相手をしないつもりでしょう。
このあたりも「らしい」打ち回しですね。

さて、右下黒△と挟まれたところが問題です。
白が弱い石になりましたが・・・。





2図(変化図)
白が素直に逃げると、一方的に攻められることになりそうです。
その間に周辺の黒地が固まっていくので、これは得策と言えません。





3図(実戦)
そこで、辺の石は捨てることにして、白1から隅に潜り込みました。
これはまあ分かります。
しかし、黒10に対して手抜きで大場に先行!
隅の白が生きていませんが、取られても良いのでしょうか?





4図(実戦)
後に黒1から取りに行きました。
白は生きるスペースがありませんが、白2、4と反撃!
上下の黒も強くないと言っています。





5図(実戦)
戦いの結果はこうなりました。
隅の白は死んでいますが、下辺白模様がずいぶん大きくなりました。
なるほど、これなら白十分です。
流石に捨て石が上手いですね。

ちなみに、この碁は何故かここで終わっています。
大差の形勢には見えませんが、恐らく序盤の研究と割り切っているのでしょうね。
DeepZenGoはいつ投了しても怒らない、素晴らしい研究相手です(笑)。

1月の情報会員解説

2018年01月23日 21時15分42秒 | 日本棋院情報会員のススメ
皆様こんばんは。
本日は毎月恒例、日本棋院情報会員のPRを行います。
なお、過去の記事はこちらです。↓
第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 第10回
第11回 第12回 第13回 第14回 第15回 第16回 第17回 第18回 第19回 第20回

棋譜再生ソフトの使い方は第4回で詳しく解説しています。

今月は第22回LG杯準決勝 井山裕太九段対柯潔九段
おかげ杯国際新鋭囲碁対抗戦 村川大介八段対李映九九段
の2局を解説しました。
ここでは井山-柯戦の解説の一部をご紹介しましょう。



1図(テーマ図)
Kiin Editor」キャプチャー画面です。
白△とカカった場面ですが、この後意外な進行に・・・。





2図(実戦進行)
見たことの無い分かれになりました。
一体何を考えて打っているのか、わけが分からないという方も多いと思います。
それでは、私がどんな解説をしているのか見ていきましょう。





3図(実戦)
黒1「ここで井山九段、ごつい手を繰り出しました!
この手はアマの皆様には真似して欲しくありません(笑)。

「弱い石にはツケるな」と言います。
これはツケではなくカドですが、似たようなものです。
何故この手を打ったのでしょうか?」


一般的に、相手の石にくっ付けていくと、その石を強化してしまいます。
井山九段の狙いは何でしょうか?
参考図を4つ使って解説しています。





4図(参考図1)
参考図1つ目です。

「まず、黒1と受ける手もありますが、白2と開かれると落ち着いた局面になります。
井山九段はこの展開を望みませんでした。」


ということで、次に考えられる手は・・・。





5図(参考図2)
参考図2つ目です。

「黒1と挟んで戦いに持ち込みたかったのでしょう。
戦いになれば、右上黒の勢力が働きそうです。
ただ、挟めば必ずしも戦いになるとは限りません。」


この手も当然考えられる手ですが、白にかわされてしまう可能性もあります。
それが次の参考図です。





6図(参考図3)
参考図3つ目です。

「黒1に対しては、白2から白△を捨てて隅に治まってしまう打ち方もあります。
こうなると戦いが終わってしまうので、戦いに持ち込みたい井山九段としては嫌だったのでしょう。」


井山九段はこの進行もベストではない、あるいは好みではないと感じたのでしょう。
そこで思い描いたのが、次の参考図のような展開です。





7図(参考図4)
参考図4つ目です。

「そこで、実戦の黒1という発想が生まれます。
白2ならそこで黒3、5などと挟み、白6に対しては黒7から分断していく予定でしょう。
黒有利な戦いです。」


黒1、白2の交換は、いわゆる相手を重くする意味で打たれました。
白は変わり身が難しくなるのです。
これを踏まえた上で、実戦の進行を見てみましょう。





8図(実戦)
実戦の進行です。

白1「白も黒の狙いを察知し、変化しました!
レベルの高い攻防です。」
黒2「お互いの根拠の要点なので、ここは逃せません。」
白3「白Aと打ってしまうと捨てづらくなるので、何も打たずに右辺に侵入したのです。」


黒は下辺白を攻めたい、白は攻められるぐらいなら捨ててしまおう、ということでこのような進行になったのです。
こう考えると、簡単な理屈に感じますよね。
プロの碁を見る時は、なるべくシンプルに理解するに限ります。

では、具体的にこの打ち方を選んだのは何故なのか?
それは参考図を2つ使って解説しています。





9図(参考図1)
参考図1つ目です。

「単に白1だと、黒2と打たれて窮屈です。
白はこれを嫌って一本利かしました。」


プロは眼の作りやすさを非常に重視します。
石の強弱が大きく変わってくるからです。

ただ、白1を打ちっぱなしで大丈夫なのか、心配される方もいらっしゃるでしょう。
その答えを次の参考図で解説しています。





10図(参考図2)
参考図2つ目です。

「黒1とハネてくれば、構わず白2と進出します。
前図と違ってAの所に黒石が無いので、白にゆとりがあります。」


白1子はあくまで足止めであり、役割を果たした後は取られても良いのです。
プロが多用する考え方ですね。





11図(実戦)

実戦に戻ります。

「生きている右下隅から地を増やしても仕方がありません。
中央への進出を止めました。」


黒Aと打つ手が白の注文であることは前図で示しました。
では、黒Bはどうなのか?
それは次の参考図で示しています。





12図(参考図)
前図黒1で、本図黒1と打った場合です。

「黒1も良くありません。
右辺は白Aが残っており、一種のスソアキなのです。
地にならないところを大事にするべきではありません。」


スソアキを囲おうとしてしまう方は少なくありません。
穴の空いたバケツに水を汲んでいるようなものですね。





13図(実戦)
実戦に戻ります。

白1「この滑りで、白はほぼ安定しましたが・・・。」
黒2「下辺一帯を大きく構えました。
一番将来性のある場所なのです。」


黒はスソアキの右辺を囲うのではなく、将来性のある下辺を広げる作戦を採りました。
ここまでの折衝で、お互いに理に適った打ち方をしていることがご理解頂けたのではないでしょうか。


なお、来月は
2017年12月21日 第66期王座戦予選A 小林光一九段山城宏九段
2017年12月7日 第43期新人王戦予選 芝野龍之介初段稲葉貴宇三段

の2局を解説する予定です。
ご興味をお持ちになった方は、ぜひ日本棋院情報会員にご入会ください!

※誤って3月の予定を書いていました。
2月は
2017年11月2日 第43期棋聖戦ファーストトーナメント 杉内雅男九段小山栄美六段
2017年9月14日 第43期碁聖戦予選A 蘇耀国九段依田紀基九段
の2局を解説しています。

AlphaGo Lee対Zero 第20局

2018年01月22日 23時55分18秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
本日は久しぶりの積雪でした。
大変ではありますが、この非日常感は結構好きだったりします。

さて、本日はAlphaGo Lee対Zeroシリーズの最終局です。
本局もZeroの特徴が色濃く出た内容でした。



1図(テーマ図)
Zeroの黒番、白△と打ったところです。
この構図を見た瞬間、黒石がずいぶん下に偏っているという印象を受けます。
即決でどちらかを選べと言われたら、迷わず白を持ちそうです。

具体的に見てみると、黒は2線に7手、1線にも2手打っています。
一方の白は2線に4手打ったのみですから、かなりの差がありますね。
2線以下に打つ手が全て悪手ではないとはいえ、私が黒ならあまり良い気分はしません。

しかし、Zeroの対局にはこういった打ち方が多いですね。
位が低くても強固な形を作っておき、相手の薄みを虎視眈々と狙います。
本局で言えばAやBの傷ですね。
実際、この後はそこを狙って黒△を動き出して・・・。





2図(実戦)
黒△までと進みました。
黒×と白×の攻め合いは黒勝ちです。
相手の石数の多い所で、むしり取ってしまいました。





3図(実戦)
白1と守った瞬間、黒2の切り!
黒6まで、今度は白×をむしり取っていきました。
さほど黒地が増えるわけではないので、これも私には違和感を覚える打ち方です。
白7に回られて、みすみす巨大な白模様を作らせてしまいました。
しかし、Aの傷ができたことに大きな意味があるのでしょうね。





4図(実戦)
そして、白模様の中心部に、黒1の切りからドカンと侵入!
これは消しという雰囲気ではなく、白模様を破壊する打ち方です。
周囲の白を攻めようかというぐらいの勢いです。
こうなった時、黒にはどこにも弱みが無いのが強みですね。





5図(実戦)
最終的には黒△まで、あれほど巨大だった白模様が跡形も無くなってしまいました。
その間に黒が失ったものは右下の黒地ぐらいのものです。

前にも書いたかと思いますが、こういった打ち方は趙治勲名誉名人を思わせます。
「地を取ることが厚い」というのは、こういうことでしょうか。