白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

弱い石にはツケるな

2018年02月12日 21時00分26秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
棋士の手合日は木曜日とされていて、対局の多くは木曜日に組まれます。
ですが、月曜日も準手合日とされていて、早碁棋戦などを中心に対局が組まれることがあります。
本日は幽玄の間第5回グランドチャンピオン戦第5回グロービス杯日本代表決定戦が中継されました。

今回はグランドチャンピオン戦の謝依旻女流本因坊(黒)と小林覚九段の対局に現れた場面をご紹介しましょう。



1図(テーマ図)
黒△と伸びたところです。
白×が弱い石なので、白Aと打って根拠を確保すれば安全ですが・・・。





2図(実戦)
白△とツケていきました。
弱い石にツケるなと言いますが、この黒は弱い石ではないので許される手です。





3図(参考図)
ツケるとお互いの石が強くなることが想定されますが、弱かった白にとってプラスが大きいですね。
黒1以下受けてくれれば白にとって大きな利かしで、安心して白8などの大場に向かうことができます。

しかし、プロは利かされを嫌います。
プロ同士の碁では、利かしの手が戦闘開始の合図になることがしばしばあります。





4図(実戦)
実戦は黒が3図のような利かされを嫌い、黒1から反撃しました。
この碁は凄まじい戦いが延々と繰り広げられるのですが、ここから始まりました。
その原因がたった1つのツケなのですから、面白いものですね。

学生王座戦特別対局

2018年02月11日 23時56分36秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日、第16回学生王座戦の特別対局が行われました。
学生王座の豊田裕仁さんが井山王座に挑戦する企画です。

井山王座は七冠保持しているため、アマトップクラスとの記念対局でも大忙しですが・・・。
そちらでも圧倒的な強さを見せ付けています。
ハンデ戦でも全力で戦いを仕掛けるので、内容は普段の対局より派手と思えるほどですね。

今回はそんな派手の戦いの開幕シーンをご紹介しましょう。
なお、棋譜は上記公式サイトにてご覧頂けます。



1図(テーマ図)
手合は2子+逆コミ4目半です。
黒△とハネられた場面、白はどうしますか?





2図(変化図)
白1のハネ返しは素直な一手です。
しかし、黒2以下常に黒が一歩先に進む展開になります。
これを不満とみた井山王座の選択は・・・。





3図(実戦)
白△のハサミツケ!
序盤早々、派手な手筋が飛び出しましたね!
黒Aなら白Bと押さえて素晴らしい姿になります。
実戦は黒Bと反発しましたが、白Aと切って戦いに引きずり込みました。


井山王座の記念対局が派手になる要因の1つに、アマ側も堂々と立ち向かうということが挙げられます。
賢く勝ちにいくより、井山王座と戦いたいという方が多いのでしょう。
皆さん若いですからね。
私も楽しく観戦しています。

2月の情報会員解説

2018年02月10日 23時11分24秒 | 日本棋院情報会員のススメ
皆様こんばんは。
本日は永代塾囲碁サロンにて解説会と指導碁を行いました。
お越し頂いた方々、ありがとうございました。

さて、本日は毎月恒例、日本棋院情報会員のPRを行います。
なお、過去の記事はこちらです。↓
第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 第10回
第11回 第12回 第13回 第14回 第15回 第16回 第17回 第18回 第19回 第20回
第21回

棋譜再生ソフトの使い方は第4回で詳しく解説しています。

今月は
2017年11月2日 第43期棋聖戦ファーストトーナメント 杉内雅男九段小山栄美六段
2017年9月14日 第43期碁聖戦予選A 蘇耀国九段依田紀基九段
の2局を解説しました。
今回は杉内-小山戦の解説の一部をご紹介しましょう。
杉内九段の最後の対局です。

ちなみに、先月の予告では誤って3月分の予定を書いていました。
失礼いたしました。



1図(テーマ図)
Kiin Editor」キャプチャー画面です。
まだ碁が始まったばかりですが・・・。





2図(実戦進行)
ここから6手進む間にも、様々な駆け引きが行われています。
それらをコメントや参考図を使って解説しているので、ご紹介しましょう。





3図(実戦)
黒1「白に下辺を打たれたので、代わりに上辺を広げます。」
黒3「現代流です。
昔は全く打たれなかった手の筈ですが、杉内九段はパソコンも駆使して最新情報を取り入れていました。」


黒3の意味や変化の一例は3図使って解説しています。





4図(参考図1)
実戦の大ゲイマで、辺に開いた場合の図です。

「カカッた石から黒1と開くなどが自然な打ち方です。
ただ、白2と右辺を割られた後、白A~Cの打ち込みが残り、上辺のまとめ方が難しいという課題がありました。」






5図(参考図2)
「そこで黒1と隅を打つ発想が生まれました。
白2と入ってきた時に攻めやすいですし・・・。」


黒1の長所を示した図です。
もしこう進めば黒が良いですね。





6図(参考図3)
「白1と打ち込まれても、必ずしも困らないという研究があります。
本図黒2は堂々と迎え撃つ手ですが、他にも黒A、白B、黒Cで隅に根拠を求めたり、手抜きで他の大場に向かう打ち方もあります。」


反面、白1の挟みを狙われるという短所があります。
ただ、これで黒が困ってしまうというほどの厳しさではありません。
長所と短所を天秤にかけて、実戦の手を選んでいるわけです。





7図(実戦)
実戦に戻ります。

白1「足元にカカりました。
AとBを見合いにした捌きの手です。」


実戦は黒Aと隅を打ちましたが、外側から打ってきたらどうなるでしょうか?
それを次の参考図で示しています。





8図(参考図)
「黒1と外側にくれば、三々に入って簡単に治まることができます。」

黒の勢力は大きいですが、プロは周囲の石との関係がいま一つで、黒が甘いと判断します。
よってこの図は選びませんでした。





9図(実戦)
実戦に戻ります。

黒1「黒が三々入りを拒否してくれば・・・。」
白2「右辺に開くことができます。
白は急激に攻められることを避けました。
捌きを考える時に、見合いを意識することは大切です。」


ここでは参考図を4つ使って解説しているので、ご紹介しましょう。





10図(参考図1)
白が正面からカカッた場合の図です。
これが良くないことは5図で示した通りです。

「先述したように、白1には黒2、4といった攻め方が想定されます。
実戦に比べると白が窮屈ですね。」






11図(参考図2)
カカリではなくツケる手は有力で、それを示した図です。

「白1のツケもよく打たれる手で、これもA方面とB方面を見合いにしています。
発想としては実戦と似ています。」


この手からの変化は、2図使って示しています。





12図(参考図3)
11図の変化その1です。

「黒1と隅を守れば、白は右辺に展開できますし・・・。」





13図(参考図4)
11図の変化その2です。

「黒1と辺を止めれば、隅で生きることができます。」

どちらでも白は困らないので、これも有力ということですね。


本局は後に大激戦へと発展しました。
実力者の小山六段に対して、杉内九段の一歩も引かない戦いぶりは流石でした。
結果は残念でしたが、素晴らしい対局を残してくれたと思います。

また、もう1局の蘇-依田戦も双方が捨て石作戦を用いるなど、非常に派手で面白い1局でした。
そちらも是非ご覧頂きたいですね。

なお、3月は
2017年12月21日 第66期王座戦予選A 小林光一九段山城宏九段
2017年12月7日 第43期新人王戦予選 芝野龍之介初段稲葉貴宇三段
の2局を解説する予定です。
ご興味をお持ちになった方は、ぜひ日本棋院情報会員にご入会ください!

3線と4線

2018年02月09日 23時28分40秒 | 著書
皆様こんばんは。
明日は永代塾囲碁サロンにて講座と指導碁を行います。
今回の講座では午後1時から1時間ほど、LG杯第3局の解説を行います。
級位者の方にも分かり易い内容になると思います。
ご都合の合う方はぜひお越しください。
なお、指導碁では対局後に棋譜をお渡ししています。

さて、本日は著書「やさしく語る 布石の原則」について頂いたご質問に解答します。
1つ目は・・・。



1図(3線か4線か)
「173ページの問題図では黒25が△の位置に開いているが、177ページではAになっている。
どちらが実戦の進行なのか?」


申し訳ありません、間違えました・・・。
正しい実戦進行は黒△です。

また、もう1つご質問を頂きました。
それは、「黒△とAはどちらが勝るのか?」というものです。
うーん、良いご質問ですね。





2図(4線のメリット)
黒△の4線の開きのメリットとして、中央に対する影響力が強く、進出速度も速いということが挙げられます。
本局で言えば、白1とボウシされても、黒4、6などの反撃が狙えますね。





3図(4線のデメリット)
4線のデメリットとしては、足元の守りが弱いということです。
本局では白1と滑られると、簡単に根拠を奪われてしまいますね。





4図(3線のメリット)
その点、黒1の3線は足元の守りが強固です。
白2なら黒3と止めておいて、ある程度の根拠が確保できますね。





5図(3線のデメリット)
しかし、3線には上からの圧迫に弱いというデメリットがあります。
本局なら白1のボウシが有力な攻め方となるでしょう。
黒7からの反撃は、2図と比べると黒がだいぶ苦しそうです。


結局、3線と4線のどちらが勝るかは、第1章にも書いてある通りケースバイケースとしか言いようがありません。
石を守る際でもそれは同じです。
上下どちらからの攻めを避けたいかによって決めて頂くと良いでしょう。

ちなみに、本局では4線の開きが正解だと思います。
中央への影響力を重視したい局面に見えるからです。

LG杯結果

2018年02月08日 22時52分52秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は有楽町囲碁センターにて指導碁を行いました。
お越し頂いた皆様、ありがとうございました。
昇段のお祝いの声、著書の感想なども頂けて嬉しかったです。

さて、本日はLG杯決勝第3局が行われました。
有楽町囲碁センターの入り口付近にはモニターがあり、お客様方も観戦していました。
午後の指導碁に入る直前では、井山九段の形勢がかなり苦しそうだったので、もし追い付いたら大歓声が上がると思っていましたが・・・。
残念ながら静かなままでしたね・・・。

それでは感想を述べたいと思います。



1図(実戦)
井山九段の黒1、3の仕掛けが、この碁の方向性を決定付けました。
右上の白を包囲する最強手です。
左側の黒も弱くなってしまいますが、構わず決行しましたね。





2図(実戦)
白1、3と力を溜め、遠く上辺の黒を狙っていますが、構わず黒2、4!
ここでも最強手で応じ、右辺のラインを死守しました。
どうやら上辺の黒が取られることはないようです。
このあたり、恐らく井山九段のイメージ通りの展開だったのではないでしょうか。
形勢も黒有望かと思っていました。





3図(実戦)
白1の打ち込みに対して、黒2と打った手には驚きました。
ただつながっただけの手に見える方も多いでしょうね。
ですが、この手をぬるい手と表現してはいけません。

この手では黒Aなどと挟む手も目に付きます。
すると白はBとツケ、打ち込んだ石を捨ててくるでしょう。
しかし、黒2に対してはその作戦は採れません。
右辺が目一杯の地になってしまうからです。

つまり、黒2は捨て石の捌きを封じた最強手なのです。
白としては、生きを図るしかありませんが・・・。





4図(実戦)
そこを皆殺しにしようというのです!
黒は最強、最強でやってきましたが、ここに来て極め付けの最強手です。
井山九段の方針は一貫していました。





5図(実戦)
しかし、惜しむらくは白の死活に関して何か誤算があったこと・・・。
全軍脱出されては絶望的な形勢です。
普通なら投了するタイミングでしょう。
井山九段も、国内戦なら投了していたのではないでしょうか。

しかし、本局は世界戦決勝です。
井山九段は日本中の期待を背負っているのです。
恐らくその使命感からでしょう、井山九段はとことん粘りました。





6図(実戦)
まず、取れそうもない白×を取り込む態勢を作りました。
大きな戦果ですが、しかしこれだけでは足りません。





7図(実戦)
そこで左下白は放棄し、先手を取って左上に殴り込み!
最後の決戦を挑みました。
凄い迫力ですが、相手もさるものです。
冷静に仕留められ、逆転には至りませんでした。


棋士の世界は狭く、同業者間の仲間意識は強い方だと思います。
ですが、一方で自分以外の全員が敵であるという面もあります。
他の棋士を心の底から応援するということはあまりないでしょう。
しかし、今回は日本の棋士全員が井山九段の勝利を願っていたと思います。

死力を尽くして戦った井山九段を、誰も責めることはできません。
そもそも、世界戦準優勝も立派な成績です。
それでも、井山九段には優勝して欲しかった・・・。
残念な気持ちでいっぱいです。

しかし、井山九段の挑戦はこれで終わりではありません。
必ず次のチャンスが来るものと信じています。