白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

依田紀基九段-馬暁春九段戦

2019年01月20日 23時59分59秒 | 囲碁界ニュース等
<本日の一言>
世界最高例の113歳の日本人男性が亡くなったそうですね。
なんと明治38年生まれとのことです。
日露戦争の最中ですか・・・。
これだけ長生きされた方には、今の世の中はどう見えていたのでしょうか?
</本日の一言>

皆様こんばんは。
本日は百霊杯元老戦決勝、依田紀基九段(52)と馬暁春九段(54)の対局をご紹介します。

日本にマスターズカップがあるように、世界でも様々なシニア棋戦が行われています。
日本の棋士も招かれて参加するのですが、依田九段は世界的に人気があるので常連ですね。

相手の馬暁春九段は、中国代表として初めて世界タイトルを取った棋士です。
切れ味鋭い棋風は、藤沢秀行名誉棋聖にも高く評価されていました。
中国では日本のようにベテラン棋士が第一線で活躍する土壌が無いので、最近はあまり名前を聞かなくなっていますが、間違いなくレジェンド棋士の1人ですね。



1図(実戦)
依田九段の黒番です。
白△のツケとは格好良いですね!
白Aの切りとBの押さえが見合いというわけです。
昔からある手ではありますが、いかにも馬九段らしい積極的な仕掛けですね。





2図(実戦)
右上では従来型の三々入りが現れました。
なんだか懐かしい気分になってしまいますね。
Masterがいきなりの三々入りを披露してから、2年しか経っていないのですが・・・。





3図(実戦)
この渋い開きは、いかにも依田九段の手ですね。
左上黒は死ぬ心配はありませんが、攻められて黒Aなどとダメを打たされることを嫌っているのです。
ベテラン同士の対局は個性が表れやすく、それが大きな見所の1つですね。





4図(実戦)
白△のツケ!
形勢不利の白が思い切った勝負手を放ちましたね。
黒×と黒○の絡み攻めを狙っています。

ただ、凌ぎは依田九段の得意分野です。
この後を危なげ無く乗り切り、勝ちを決めました。

女流名人戦挑戦者決定戦

2019年01月19日 23時59分59秒 | 囲碁界ニュース等
<本日の一言>
本日は葛飾区松上小学校にて、2回目の囲碁授業を行いました。
3ヶ月も間が空いたのでだいぶ忘れてしまったかと思いましたが、復習の後に対局を始めてみると意外に大丈夫でした。
3ヶ月の間に対局をしていた子も結構多かったようで、嬉しかったです。
授業は残り1回ですが、全員が終局までスムーズに進められるようになることを目標にしています。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
本日は女流名人戦挑戦者決定戦をご紹介したいと思います。
女流名人戦の主催は産経新聞ですが、協力の欄にクイーポという名前がありますね。
ハンドバッグなどを販売している会社で、女流棋戦らしいですね。
一般棋戦とはだいぶ文化が違います。

さて、挑戦者決定戦に進出したのは、小山栄美六段と謝依旻六段でした。
小山家と言えば、夫の竜吾六段も棋士、息子の小山空也四段も棋士、竜吾六段の父の鎮男八段も棋士という囲碁一家ですね。
小山六段自身は、女流棋戦での活躍はもちろん、かつて存在したNEC俊英戦という男女混合の若手棋戦で準優勝したこともある実力者です。
杉内雅男九段の絶局の対局相手でもあり、熱戦を繰り広げました。

さて、それでは振り返っていきましょう。
謝依旻六段の黒番です。
なお、棋譜は幽玄の間で中継されました。



1図(実戦)
白△の3間飛びは優雅な雰囲気ですね。
地は気にせず、中央での位を取っています。





2図(変化図)
黒1から3戦を這いつくばってくれば、白8まで中央が真っ白になって白良しです。
白が5線に打った手は理に適っていますね。





3図(実戦)
白△と再度5線に打ったのも面白い手ですね。
この手で白Aと打つのでは、黒Bと簡単に中央に進出されてしまいます。
まるでセンスの無い手と言えるでしょう。





4図(実戦)
白△まで、小山六段らしい堂々とした打ち回しだと思いました。
ただ、この後の左辺の戦いでは何か誤算があったのでしょう。
黒が優位を確立し、逃げ切りとなりました。

謝六段は無冠になりましたが、調子が落ちたわけでもなさそうです。
藤沢里菜女流名人との三番勝負が楽しみですね。

若さ爆発

2019年01月18日 23時59分59秒 | 囲碁界ニュース等
<本日の一言>
前澤社長のお年玉企画を見ると、ネットの世界の大きさを実感します。
ところで、例のツイート以降株価が1888円から2322円になっているようですが・・・。
もし1億円の効果でこれだけ上がったとしたら、凄い話ですね。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
本日は女流棋聖戦第1局を振り返ってみたいと思います。



1図(実戦)
藤沢里菜女流三冠の黒番です。
上野愛咲美女流棋聖の打った白△は、同じ日に芝野虎丸七段も打っていましたね。
数十年前からある定石では白Aなのですが、あえて外して打ちました。
腹中の黒1子のダメが空いてしまうので、見た目には違和感を覚えるのですが、あれこれ考えてみると悪くなさそうです。
AIが人間には気付きにくい手を示し、人間がそれを見て検証した結果、定石が少しずつ変わっていく・・・。
最近はそんなことが多くなっています。





2図(実戦)
さて、そんなマニアックな話はともかく、この碁の最大のハイライトシーンはここしかないでしょう。
黒△と出たところですが・・・。





3図(変化図)
形からすれば、どう見ても白1の押さえです。
プロが100人いれば99人は白1と打つでしょう。
黒4までは一例ですが、大体このような進行になるはずです。
この黒を厳しくいじめることはできませんが、まあ仕方ないというところですね。





4図(実戦)
ところが、実戦は白1と這い、黒2の突き出しを許しました!
黒の根拠を奪ったとは言え、白×が宙に浮いています。
アマの皆様が打ったら、間違いなく「石がバラバラ病」と診断されますね(笑)。

こういう打ち方は、たとえ思い付いたとしても普通は「流石にダメだろうな」と思ってやめてしまうものです。
失敗した時のリスクが大きく、怖いと感じるからです。
しかし、そこでブレーキをかけないのが上野女流棋聖です。
流石17歳、若さ爆発という感じですね。

若いうちは小さくまとまる必要は無く、どんどん自分を出していくべきだと思います。
5年後か10年後かに碁が完成した時、物凄い打ち手になっているかもしれませんね。

ちなみに、藤沢里菜女流三冠も20歳と若いですが、上野女流棋聖ほど過激なことはしません(笑)。
感性は人それぞれなのです。

杉内寿子八段-小松英子四段戦

2019年01月17日 23時59分59秒 | 幽玄の間
<本日の一言>
本日、日本棋院ネット対局幽玄の間では多くの対局が中継されました。
その中でも、私が特に注目したのは・・・。

☆杉内寿子八段、2連勝!
女流棋聖戦、上野愛咲美女流棋聖が先勝!
☆謝依旻六段、女流名人戦挑戦者に!
☆柯潔九段、百霊杯優勝!
☆依田紀基九段、百霊杯元老戦優勝!
☆鈴木伸二七段、名人戦リーグで井山裕太五冠に勝利!(解説あり)
本因坊戦リーグ、一力遼八段と芝野虎丸七段の注目対決!(解説あり)

いやいや、一日に詰め込みすぎでしょう(笑)。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
ニュースが多すぎて、何を取り上げるべきなのか分かりませんが・・・。
ここは個人的な趣味に走りたいと思います。
杉内寿子八段と小松英子四段の対局です。
杉内ファンなので仕方ないですね(笑)。



1図(実戦)
杉内八段の黒番です。
黒1から要石を逃げ出し、左右の白の攻めを狙いました。
この手で、黒Aと打って地を稼いでおこう、などというのは枯れた発想です。
杉内八段の中には存在しません。





2図(実戦)
白1のハネに対しても、当然黒2の切りです。
自分の石も弱くなりますが、つば競り合いでは引いた方が負けなのです。
おそらくノータイムで切ったでしょう。





3図(実戦)
ここで単に黒Aと打っていれば、中央の黒大石は安全です。
しかし、上辺白の方が弱いので攻撃を優先しました。





4図(実戦)
白1と出た瞬間、構わず黒2と下がって上辺白の眼を取りました。
白3、5で黒の眼もありませんが、大丈夫でしょうか?





5図(実戦)
もちろん大丈夫でした。
攻め合いは黒が勝っており、白×が全滅しました。
勝負ありと言って良いでしょう。
たとえ単純な攻め合いであっても、うっかり1手間違えてしまうようなことは起こり得ますが、杉内八段の対局ではあまり見たことがありません。


もはや杉内八段が勝ったぐらいでは驚きませんが、それにしても内容が良いですね。
今も勉強を続けられていることが伺えます。

棋士の採用について・その2

2019年01月16日 23時59分59秒 | 囲碁について(文章中心)
<本日の一言>
稀勢の里が引退しましたね。
横綱になって以来、ずっと無理をしてきたのでしょう。
人気横綱が短命で終わってしまうのは残念ですね。
</本日の一言>

皆様こんばんは。
だいぶ間が空きましたが、今回は棋士の採用方法を説明するシリーズの第2回です。
前回は一般枠のお話でしたが、今回は特別枠についてのお話です。
私の勘違いや見落としが無いとも限りませんので、正確な情報を求める方はこちらをご覧ください。

<女流特別採用>
いわゆる「女流枠」ですね。
採用時23歳以下の女性が受験可能です(年齢制限は一般試験と同じです。)。
一般試験の終了後に行われるので、まず一般試験を受け、直後に女流試験にも参加するという人が多いですね。
人によってはかなりのハードスケジュールになることもあるでしょう。
現在の採用人数は年に1人です。
形式や採用人数の変化はあっても、昔から行われてきた試験です。

女流棋士の歴史は古く、江戸時代には既に存在していたようです。
性別による有利不利があまり無いゲームですからね。
ただし環境の差は大きく、プロアマ問わず平均棋力には大きな差がありました。
情報化などの恩恵で、現在は強い女流棋士も珍しくなくなりましたが、全体的にはまだ差があります。
ですが、藤沢里菜女流三冠や上野愛咲美女流棋聖、仲邑菫新初段らの活躍次第では、後に続こうという子供たちが沢山出てくるかもしれませんね。

<女流特別採用推薦>
名前が紛らわしいですが、こちらは「推薦」です。
今年新設された制度で、実力のある女子院生を試験とは別枠で採用するというものです。
具体的な条件も記されていますが、簡単に言えば院生Aクラスに定着するぐらいの実力があればチャンスはあります。
ただし、現在は院生のレベルが高いですから、そう簡単なことではありません。

この制度の誕生理由ですが、一言で言えば女流棋士が少ないということにつきるでしょう。
女性が一般枠で入段することも可能とは言え、それが実現できた女流棋士は歴代で4人しかいませんからね。
女子院生のレベルはずいぶん上がりましたが、男子院生もまたレベルが上がっているのです。
囲碁ファンからの需要は明らかに女流棋士>男性棋士ですが、現実には男性棋士の方が圧倒的に数が多いです。
個人的には、このバランスは是正する必要があると思います。
もちろん、頭数だけ増えれば良いというものではありませんが。


さて、特別採用は他にもありますが、長くなったので今回はここまでにします。