日本人の胃袋が外国に乗っ取られる! アメリカや中国へ流出していく「種」のシェアとは
本記事は、藤井 聡の著書『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています(聞き手 木村博美)
ZUU onlain より 220105
■日本人の胃袋が外国に乗っ取られる
藤井:政府は、「種子法の廃止」という驚くべき改革も行っています。「種子法」は、コメを中心とした重要な農作物の種子の開発や維持、管理、そしてその普及を都道府県に義務づけた法律です。各自治体は、この法律に基づいて、政府事業として種子の保存や開発を行ってきた。種子の開発と生産は、手間と時間と費用がかかります。しかし、この「種子法」のおかげで、各地の農家は高い品質の種子を、安い価格で入手することが可能だったんです。
ところが、政府はこの種子法が民間企業の「種子マーケット」参入への障壁になっていると考えて、2017年4月14日、衆参両院合わせてわずか12時間の審議だけで、種子法の撤廃を決定した。結果的に農家は、民間企業が販売する質の悪い種子を高い金額で買わざるを得なくなっていく。種子マーケットに参入できる企業は国内企業だけではありません。むしろ、種子マーケットにはグローバル企業の方が圧倒的に多い。世界の種子企業トップ10のなかで、日本企業はタキイという1社がかろうじて10位に入っているだけです。だから、「種子法の廃止」による「種子マーケットの自由化」にともなって、種苗業界最大手のアメリカのモンサント社(現バイエル社)など外国企業が日本に本格的に参入してくる可能性は非常に高い。
―モンサント社って、環境活動家たちに「モンサタン(悪魔のモンサント)」と批判されている会社でしょう。あのベトナム戦争で使われた枯葉剤を製造していたんですよね。グローバル化に野心を燃やすモンサント社は、自社が特許を持つグリホサート農薬「ラウンドアップ」だけに耐性のある遺伝子組み換え種子を開発して、農薬と種子をセットで世界に売り出した。「ラウンドアップ」は雑草がしっかり枯れるために瞬く間に人気を呼び、遺伝子組み換え大豆とともに爆発的に売れたといいます。でも、グリホサートの健康リスクが指摘されて、2018年には除草剤「ラウンドアップ」が原因でガンになったと訴えたアメリカ人が裁判に勝って話題になりました。
世界の多くの国でこの除草剤の販売は規制されるようになったのですが、信じられないことに、日本政府は農産物のグリホサート残留基準値(人が摂取しても安全と評価した量の範囲)を大幅に緩和したんですよ。そのおかげで、「ラウンドアップ」は今も複数の会社から複数の異なる商品名で普通にホームセンターで売られているし、テレビで宣伝もされ、ネットでも販売されています。
藤井:情けないことに、一国で自主防衛ができない日本は、まさかのときに日本を守ってくれるだろうという淡い期待を抱いて、アメリカが望むことをすべて、ときには自ら忖度までして飲み続けているのです。つまり日本の農業の衰退は、「対米追従」という、戦後一貫して進められ、小泉政権以降スピードアップし、安倍政権下で一気に加速した外交方針の必然的な帰結として導かれているのです。
2020年12月2日に成立した「改正種苗法」も、その一つといえます。
―日本が開発した「あまおう」や「シャインマスカット」などのブランド果樹が外国で勝手に栽培されているので、それらの海外流出を防ぐために開発者の権利を保護する目的で改正された、と聞きましたけど?
藤井:表向きはそうです。もちろん、この改正種苗法によって利益が守られる農家があることは間違いありません。それは大変結構なことです。けれども今や、品種開発のシェアは日本はどんどん減っていて、アメリカや中国がものすごく増えているわけですよ。だから開発者の権利を守るとなったら、結局は日本人よりも外国の大企業の権利が守られるようになっていくのは必然ですよね。そうなると、日本の農家は多くの種苗を買わなくてはならなくなり、開発者は何もしなくてもおカネががっぽがっぽ儲かる。インドネシアとかタイとかアジアの国々ではもうすでにそうなっています。
―おカネの問題だけではないですよね。どんな種苗が入ってくるかわからないし、政府が安全を守ってくれるとは期待できないし。
藤井:日本のマスコミはあまり報道しませんが、世界では遺伝子組み換え作物のさまざまな健康被害が確認されています。野心家のモンサント社は、「種をつくらない植物の種」を遺伝子操作で開発し、販売しているんですよ。そんな種を買ったら、育てても種はできないから、毎年毎年、種を買わないといけなくなります。賢い商売ですよね。いったんモンサント社の種を買った農家は半永久的に買い続けなければならなくなる、という算段です。
ただでさえ、日本の食糧自給率は低いのに、これからは「種子法の廃止」と「改正種苗法」のおかげで、国産の農作物すら、その種は外国産ということになっていく。いってみれば、これからは、日本人の胃袋は外国人のカネ儲けのための道具として活用されていくことになるわけです。
―ゲーッ! 知らなかったではもう済まされない。これ以上、ボーッとしていたら大変なことになる!
藤井 聡 1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授(都市社会工学専攻)。元内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)。京都大学工学部卒業、同大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科客員研究員、東京工業大学大学院教授などを経て、2009年より現職。
■日本人の胃袋が外国に乗っ取られる
藤井:政府は、「種子法の廃止」という驚くべき改革も行っています。「種子法」は、コメを中心とした重要な農作物の種子の開発や維持、管理、そしてその普及を都道府県に義務づけた法律です。各自治体は、この法律に基づいて、政府事業として種子の保存や開発を行ってきた。種子の開発と生産は、手間と時間と費用がかかります。しかし、この「種子法」のおかげで、各地の農家は高い品質の種子を、安い価格で入手することが可能だったんです。
ところが、政府はこの種子法が民間企業の「種子マーケット」参入への障壁になっていると考えて、2017年4月14日、衆参両院合わせてわずか12時間の審議だけで、種子法の撤廃を決定した。結果的に農家は、民間企業が販売する質の悪い種子を高い金額で買わざるを得なくなっていく。種子マーケットに参入できる企業は国内企業だけではありません。むしろ、種子マーケットにはグローバル企業の方が圧倒的に多い。世界の種子企業トップ10のなかで、日本企業はタキイという1社がかろうじて10位に入っているだけです。だから、「種子法の廃止」による「種子マーケットの自由化」にともなって、種苗業界最大手のアメリカのモンサント社(現バイエル社)など外国企業が日本に本格的に参入してくる可能性は非常に高い。
―モンサント社って、環境活動家たちに「モンサタン(悪魔のモンサント)」と批判されている会社でしょう。あのベトナム戦争で使われた枯葉剤を製造していたんですよね。グローバル化に野心を燃やすモンサント社は、自社が特許を持つグリホサート農薬「ラウンドアップ」だけに耐性のある遺伝子組み換え種子を開発して、農薬と種子をセットで世界に売り出した。「ラウンドアップ」は雑草がしっかり枯れるために瞬く間に人気を呼び、遺伝子組み換え大豆とともに爆発的に売れたといいます。でも、グリホサートの健康リスクが指摘されて、2018年には除草剤「ラウンドアップ」が原因でガンになったと訴えたアメリカ人が裁判に勝って話題になりました。
世界の多くの国でこの除草剤の販売は規制されるようになったのですが、信じられないことに、日本政府は農産物のグリホサート残留基準値(人が摂取しても安全と評価した量の範囲)を大幅に緩和したんですよ。そのおかげで、「ラウンドアップ」は今も複数の会社から複数の異なる商品名で普通にホームセンターで売られているし、テレビで宣伝もされ、ネットでも販売されています。
藤井:情けないことに、一国で自主防衛ができない日本は、まさかのときに日本を守ってくれるだろうという淡い期待を抱いて、アメリカが望むことをすべて、ときには自ら忖度までして飲み続けているのです。つまり日本の農業の衰退は、「対米追従」という、戦後一貫して進められ、小泉政権以降スピードアップし、安倍政権下で一気に加速した外交方針の必然的な帰結として導かれているのです。
2020年12月2日に成立した「改正種苗法」も、その一つといえます。
―日本が開発した「あまおう」や「シャインマスカット」などのブランド果樹が外国で勝手に栽培されているので、それらの海外流出を防ぐために開発者の権利を保護する目的で改正された、と聞きましたけど?
藤井:表向きはそうです。もちろん、この改正種苗法によって利益が守られる農家があることは間違いありません。それは大変結構なことです。けれども今や、品種開発のシェアは日本はどんどん減っていて、アメリカや中国がものすごく増えているわけですよ。だから開発者の権利を守るとなったら、結局は日本人よりも外国の大企業の権利が守られるようになっていくのは必然ですよね。そうなると、日本の農家は多くの種苗を買わなくてはならなくなり、開発者は何もしなくてもおカネががっぽがっぽ儲かる。インドネシアとかタイとかアジアの国々ではもうすでにそうなっています。
―おカネの問題だけではないですよね。どんな種苗が入ってくるかわからないし、政府が安全を守ってくれるとは期待できないし。
藤井:日本のマスコミはあまり報道しませんが、世界では遺伝子組み換え作物のさまざまな健康被害が確認されています。野心家のモンサント社は、「種をつくらない植物の種」を遺伝子操作で開発し、販売しているんですよ。そんな種を買ったら、育てても種はできないから、毎年毎年、種を買わないといけなくなります。賢い商売ですよね。いったんモンサント社の種を買った農家は半永久的に買い続けなければならなくなる、という算段です。
ただでさえ、日本の食糧自給率は低いのに、これからは「種子法の廃止」と「改正種苗法」のおかげで、国産の農作物すら、その種は外国産ということになっていく。いってみれば、これからは、日本人の胃袋は外国人のカネ儲けのための道具として活用されていくことになるわけです。
―ゲーッ! 知らなかったではもう済まされない。これ以上、ボーッとしていたら大変なことになる!
藤井 聡 1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授(都市社会工学専攻)。元内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)。京都大学工学部卒業、同大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科客員研究員、東京工業大学大学院教授などを経て、2009年より現職。