いよいよ始まった水素戦略の大競争時代 日本よ、出遅れるな
Wedgi より 220105 山本隆三
米国、欧州連合(EU)、カナダ、英国、日本などの主要国が、2050年に温室効果ガス実質排出量ゼロを宣言している。実現のため各国が注力しているのは、電源の脱炭素化と水素の利用だ。
温室効果ガスの大半を占める化石燃料の燃焼から発生する二酸化炭素(CO2)の世界の分野別排出量は、発電・熱部門が44%、自動車主体の輸送部門26%、産業部門19%(図-1左図)だ。発電を再生可能エネルギーと原子力に変えれば、大きな比率を占める発電部門の脱炭素は可能だ。
輸送部門でも乗用車の脱炭素は電気を利用することで可能になるが、重い電池を搭載できない航空機、長距離トラックの電動化には蓄電池の大きなイノベーションが必要になる。輸送部門で電動化が難しい場合に利用されるのは水素になる。水素を利用する燃料電池、あるいは水素と大気中から吸着したCO2から製造されるe燃料が利用される。さらに、化石燃料を利用する産業部門でも電動化が難しい分野では水素が化石燃料に取って代わることが想定されている。
⚫︎米国もフランスも原子力発電でクリーン水素製造に
1年前にも、脱炭素戦略の中心に水素が躍り出ると書いたが(「21世紀を水素の世紀にするカギは電気、気候変動対策の主役に躍り出た水素を考える」)、この1年間で欧米を中心に多くの水素利用の具体策が出てきた。例えば、ディーゼル機関車に代わり水素利用の燃料電池列車が欧州主要国で広まり始めた。エネルギー多消費型産業の代表、高炉製鉄業でも脱炭素のため水素利用が具体化してきた。
需要に応えるため競争力のある水素製造に欧州主要国、米国などが乗り出し、CO2を排出しない電源からの電気を利用した水の電気分解(電解)による水素製造が脚光を浴びてきた。
米、仏政府などは水素製造用電気に原子力発電を利用する考えを明らかにしている。21年8月から10月にかけ、米国エネルギー省(DOE)はニューヨーク州とアリゾナ州の既存原子力発電所の隣接地に設置される電解プラントへの補助金支出を決めた。
21年10月フランス・マクロン大統領は、小型モジュール炉(SMR)新設と原子力の電気利用の電解による水素製造を発表した。再生可能エネルギーを利用し電解により製造される水素は、グリーン水素と呼ばれるが、米国政府もマクロン大統領も原子力利用により製造される水素をクリーンあるいはグリーン水素と呼んでいる。
日本企業は豪州の褐炭から水素を製造し、排出されるCO2を捕捉する事業を進めている。水素を液化あるいはアンモニアの形にして日本に運ぶが、需要地に設置する電解プラントによる地産地消の水素との比較では、輸送に係る費用から競争力に疑問符が付く。日本が進めるべき水素製造の主体は、水素を必要とする工業地帯などにSMRと電解プラント設置により製造を地産地消で進め、地域経済と雇用に寄与することではないか。
⚫︎欧州で導入が進む水素列車
欧州環境保護庁(EEA)が発表している輸送方法別のCO2排出量では、乗客1人キロメートル(km)当たり航空機160グラム(g)、乗用車143g、バス80g、船舶61gに対し鉄道は33gとなっている。また、貨物トン当たりのCO2排出量は、航空機1036g、大型トラック137g、はしけ(輸送船)利用33g、鉄道24g、海運7gと、やはり鉄道からの排出量は小さい。世界の輸送部門からのCO2排出量に占める鉄道の比率も全排出量の1%と小さいが(図-2)、約8300万トンある。
電化されていない鉄道路線では,主にディーゼル車が利用されるが,CO2排出に加え騒音、振動などの問題もある。CO2排出量削減のため,短距離区間であれば蓄電池を搭載した列車を運行することも可能だが、蓄電池の重量と充電時間から長距離区間での利用は難しい。
鉄道部門からの排出削減策として考えられるのは発電部門の非炭素化を前提とした路線の電化だが、運行頻度が高くない路線では投資回収の面から実現は難しい。日本の路線の電化率は67%だが、EUの電化率は54%に留まり、EU内では約5000編成のディーゼル列車が利用されている。
非電化区間の脱炭素のため、フランスの多国籍鉄道車両メーカー、アルストム社が13年から開発を進めたのがコラディア・アイリントと呼ばれる水素利用の燃料電池列車だ。18年9月ドイツハンブルグ郊外の123キロメートルの区間で150シート、定員300人の2両編成が運行を開始し、その後、オーストリア、フランス、スウェーデン、ポーランドなどで試運転が行われた。
既に、ドイツで41両編成、イタリアで最大14両編成、フランスで電化区間でも利用可能なハイブリッド列車12両編成の発注が行われ、さらにEUでは導入が進む。鉄道に加え燃料電池利用のトラックの導入もEUでは進むとみられ、欧州委員会(EC)は30年の燃料電池トラックのシェアは17%になるとみている。
電動化が難しい航空機には、非炭素電源の電解により製造された水素と大気中から吸着したCO2から製造されるe-燃料の利用が想定されている。輸送部門では水素の需要が高まるが、エネルギー多消費型産業では桁違いの需要量が予想される。
⚫︎高炉製鉄が必要とする大量の水素
世界鉄鋼連盟によると、20年世界の鉄鋼製品1トン製造に伴い排出されたCO2は、1.85トンだった。全世界の鉄鋼生産量は18億6000万トン、CO2排出量は33億トン。世界の総排出量の1割に近い。鉄鋼製品の製造には、鉄スクラップを電気炉で溶融し製造する方法と石炭コークスを利用し鉄鉱石を高炉で溶融、還元し製造する方法がある。
電炉製鉄は使用する電気によりCO2排出量が左右されるので、再エネあるいは原子力の電気を利用すれば、CO2排出量を削減することが可能だ。日本では電炉製鉄製品1トン当たり0.5トンのCO2排出量になる。
一方、コークスを利用する高炉製鉄では、鉄鉱石(Fe2O3)をコークス(C)で還元し鉄(Fe)を取り出すため、CO2が排出される。日本の高炉製鉄では製品1トン当たり2.2トンのCO2が排出される。使用する電気の排出量まで含めると日本の鉄鋼生産に伴い排出されるCO2は日本の全排出量の14%を占める。
脱炭素には、鉄鋼業からのCO2排出量削減が大きな課題になる。高炉から電炉に生産を切り替えればCO2排出量は減少するが、高炉でしか生産できない高級鋼材があること、鉄スクラップの数量にも限度があることから高炉製鉄は必要だ。高炉製鉄の脱炭素にはコークスに代わり水素を利用することになる。水素を利用すれば排出されるのはCO2ではなく、水になる。
20年の世界の粗鋼生産は18億6000万トン、そのうち高炉による生産量は13億1000万トン、約7割を占めている。世界の高炉製鉄に使用されるコークスを水素に変えると、その必要量は7200万トン、電解により水素を製造すると現状の技術では必要な電力量は4兆キロワットアワー(kWh)に達する。
英石油大手BPが公表する統計による20年の全世界の発電量26兆8230億kWhの15%、日本の発電量の4倍に相当する電力量になるが、発電時にCO2を排出しない再エネ、原子力あるいはCO2を捕捉し、貯留する装置が付いた火力発電設備からの電気が必要になる。すでに、米国、EUは非炭素電源による水素製造の具体策を練っている。
⚫︎本気を出してきた米国の水素戦略
21年8月、米大手電力エクセロン社は、ニューヨーク州の同社の原子力発電所に隣接し建設が進められているクリーン水素製造の1メガワット(MW)の電解装置にDOEから約500万ドルの補助金が支出されると発表した。21年10月、DOEは、アリゾナ州の原子力発電所の電気から電解により水素を製造し、燃料製造、発電など多様な用途への利用を検討する産学官共同の事業に2000万ドルの補助金を支出すると発表した。
DOEはいま製造コスト削減計画を推進している。現在の再エネ利用による水素製造コスト1キログラム(kg)当たり5ドルを、26年までに2ドル、30年までに1ドルにする計画の一端を担う産学官案件とされている。
米政権の水素にかける本気度は、11月15日成立した1兆2000億ドルの投資を行う超党派によるインフラ投資・雇用法の中に95億ドル、1兆円を超える水素関連投資が含まれていることからも見て取れる。
水素製造などの検討のための拠点を少なくとも4か所に設置するため80億ドル、1kgの水素製造時のCO2排出量が2kg以下になるクリーン水素製造の研究開発に5億ドル、電解による水素製造のコスト引き下げなどに10億ドル。他にも電気自動車用充電、燃料電池車用充填設備整備に25億ドルの予算が組まれている。
⚫︎原子力か再エネ利用かで意見が分かれる欧州
ECも水素に力を入れている。フォンデアライエンEC委員長は、21年11月、次のように語り、水素の将来に自信を示した。「天然ガスから製造する水素の20年のコストはkg当たり約2ユーロ。再エネ電源から電解で製造する水素のコストは現在約6ユーロ、30年までには1.8ユーロ以下になる。手の届くところにある」。EU内とウクライナ、モロッコなどに風力、太陽光発電設備を設置し、30年に1000万トンの水素を製造する計画だ。
ECが進めるグリーン水素製造に対し、原子力発電も活用すべきとフランス・マクロン大統領は主張している。欧州のエネルギー・電力危機を受け、安定的な電源である原子力発電を活用すべきとの声もEU内で高まっていたが(「何度でも言おう このままでは日本の停電は避けられない」)、21年10月12日、マクロン大統領は「再エネ電源がグリーン水素製造に足る能力を持つことは決してない。フランスが持つ原子力設備を利用しグリーン水素を製造すべき」と発言し、「フランス政府が計画する300億ユーロの投資計画の中で、10億ユーロをEDF(フランス電力)が開発中のSMRにあて、さらに30年までに水素製造の大規模設備を2カ所に設置する」とSMR開発と原子力利用のグリーン水素製造を発表した。
21年末に3基の原発を停止し、22年末には最後の3基の停止により脱原発を実現するドイツは、フランスのように原子力の電気で水素を製造することはできない。鉄鋼、化学などエネルギー多消費型産業を持つドイツでは水素製造に必要な50年の電力量は、今の全需要量に匹敵すると言われているが、国土の広さから水素製造に必要な再エネ電源設備を国内に設置することは不可能とみられている。
このため、ドイツは海外から水素を輸入するしかなく、既に豪州内の再エネ電源利用による水素製造の企業化調査に関する覚書を豪州と締結している。フランスとの比較ではコスト高は免れない。
⚫︎ドイツの二の舞になってはいけない
鉄鋼、化学、セメントなどエネルギー多消費型産業を持つ日本も、大量の水素をこれから必要とすることになる。豪州の褐炭から製造する水素の量は限られることになり、国内で電解による水素製造を視野に入れる必要がある。輸送インフラ、コストを考えるならば、水素を必要とする工業地帯など需要地ごとにSMRと電解装置を設置し、水素を製造するのが、最も競争力を持つことになる。
脱原発を行うドイツは選択肢がなく輸入水素にも依存せざるを得ないが、日本は幸いにも原子力利用という選択肢を保有している。水素が次の時代の国の競争力に大きな影響を与えることは、はっきりしている。
欧米主要国に加え、中露もSMR利用の水素製造に走り出している。エネルギーの地産地消により地域経済の活性化と雇用創出を行うのであれば再エネ導入ではなくSMRによる水素製造を行うべきだ。収入と雇用が増えなければ、日本の少子化も止
21年10月フランス・マクロン大統領は、小型モジュール炉(SMR)新設と原子力の電気利用の電解による水素製造を発表した。再生可能エネルギーを利用し電解により製造される水素は、グリーン水素と呼ばれるが、米国政府もマクロン大統領も原子力利用により製造される水素をクリーンあるいはグリーン水素と呼んでいる。
日本企業は豪州の褐炭から水素を製造し、排出されるCO2を捕捉する事業を進めている。水素を液化あるいはアンモニアの形にして日本に運ぶが、需要地に設置する電解プラントによる地産地消の水素との比較では、輸送に係る費用から競争力に疑問符が付く。日本が進めるべき水素製造の主体は、水素を必要とする工業地帯などにSMRと電解プラント設置により製造を地産地消で進め、地域経済と雇用に寄与することではないか。
⚫︎欧州で導入が進む水素列車
欧州環境保護庁(EEA)が発表している輸送方法別のCO2排出量では、乗客1人キロメートル(km)当たり航空機160グラム(g)、乗用車143g、バス80g、船舶61gに対し鉄道は33gとなっている。また、貨物トン当たりのCO2排出量は、航空機1036g、大型トラック137g、はしけ(輸送船)利用33g、鉄道24g、海運7gと、やはり鉄道からの排出量は小さい。世界の輸送部門からのCO2排出量に占める鉄道の比率も全排出量の1%と小さいが(図-2)、約8300万トンある。
電化されていない鉄道路線では,主にディーゼル車が利用されるが,CO2排出に加え騒音、振動などの問題もある。CO2排出量削減のため,短距離区間であれば蓄電池を搭載した列車を運行することも可能だが、蓄電池の重量と充電時間から長距離区間での利用は難しい。
鉄道部門からの排出削減策として考えられるのは発電部門の非炭素化を前提とした路線の電化だが、運行頻度が高くない路線では投資回収の面から実現は難しい。日本の路線の電化率は67%だが、EUの電化率は54%に留まり、EU内では約5000編成のディーゼル列車が利用されている。
非電化区間の脱炭素のため、フランスの多国籍鉄道車両メーカー、アルストム社が13年から開発を進めたのがコラディア・アイリントと呼ばれる水素利用の燃料電池列車だ。18年9月ドイツハンブルグ郊外の123キロメートルの区間で150シート、定員300人の2両編成が運行を開始し、その後、オーストリア、フランス、スウェーデン、ポーランドなどで試運転が行われた。
既に、ドイツで41両編成、イタリアで最大14両編成、フランスで電化区間でも利用可能なハイブリッド列車12両編成の発注が行われ、さらにEUでは導入が進む。鉄道に加え燃料電池利用のトラックの導入もEUでは進むとみられ、欧州委員会(EC)は30年の燃料電池トラックのシェアは17%になるとみている。
電動化が難しい航空機には、非炭素電源の電解により製造された水素と大気中から吸着したCO2から製造されるe-燃料の利用が想定されている。輸送部門では水素の需要が高まるが、エネルギー多消費型産業では桁違いの需要量が予想される。
⚫︎高炉製鉄が必要とする大量の水素
世界鉄鋼連盟によると、20年世界の鉄鋼製品1トン製造に伴い排出されたCO2は、1.85トンだった。全世界の鉄鋼生産量は18億6000万トン、CO2排出量は33億トン。世界の総排出量の1割に近い。鉄鋼製品の製造には、鉄スクラップを電気炉で溶融し製造する方法と石炭コークスを利用し鉄鉱石を高炉で溶融、還元し製造する方法がある。
電炉製鉄は使用する電気によりCO2排出量が左右されるので、再エネあるいは原子力の電気を利用すれば、CO2排出量を削減することが可能だ。日本では電炉製鉄製品1トン当たり0.5トンのCO2排出量になる。
一方、コークスを利用する高炉製鉄では、鉄鉱石(Fe2O3)をコークス(C)で還元し鉄(Fe)を取り出すため、CO2が排出される。日本の高炉製鉄では製品1トン当たり2.2トンのCO2が排出される。使用する電気の排出量まで含めると日本の鉄鋼生産に伴い排出されるCO2は日本の全排出量の14%を占める。
脱炭素には、鉄鋼業からのCO2排出量削減が大きな課題になる。高炉から電炉に生産を切り替えればCO2排出量は減少するが、高炉でしか生産できない高級鋼材があること、鉄スクラップの数量にも限度があることから高炉製鉄は必要だ。高炉製鉄の脱炭素にはコークスに代わり水素を利用することになる。水素を利用すれば排出されるのはCO2ではなく、水になる。
20年の世界の粗鋼生産は18億6000万トン、そのうち高炉による生産量は13億1000万トン、約7割を占めている。世界の高炉製鉄に使用されるコークスを水素に変えると、その必要量は7200万トン、電解により水素を製造すると現状の技術では必要な電力量は4兆キロワットアワー(kWh)に達する。
英石油大手BPが公表する統計による20年の全世界の発電量26兆8230億kWhの15%、日本の発電量の4倍に相当する電力量になるが、発電時にCO2を排出しない再エネ、原子力あるいはCO2を捕捉し、貯留する装置が付いた火力発電設備からの電気が必要になる。すでに、米国、EUは非炭素電源による水素製造の具体策を練っている。
⚫︎本気を出してきた米国の水素戦略
21年8月、米大手電力エクセロン社は、ニューヨーク州の同社の原子力発電所に隣接し建設が進められているクリーン水素製造の1メガワット(MW)の電解装置にDOEから約500万ドルの補助金が支出されると発表した。21年10月、DOEは、アリゾナ州の原子力発電所の電気から電解により水素を製造し、燃料製造、発電など多様な用途への利用を検討する産学官共同の事業に2000万ドルの補助金を支出すると発表した。
DOEはいま製造コスト削減計画を推進している。現在の再エネ利用による水素製造コスト1キログラム(kg)当たり5ドルを、26年までに2ドル、30年までに1ドルにする計画の一端を担う産学官案件とされている。
米政権の水素にかける本気度は、11月15日成立した1兆2000億ドルの投資を行う超党派によるインフラ投資・雇用法の中に95億ドル、1兆円を超える水素関連投資が含まれていることからも見て取れる。
水素製造などの検討のための拠点を少なくとも4か所に設置するため80億ドル、1kgの水素製造時のCO2排出量が2kg以下になるクリーン水素製造の研究開発に5億ドル、電解による水素製造のコスト引き下げなどに10億ドル。他にも電気自動車用充電、燃料電池車用充填設備整備に25億ドルの予算が組まれている。
⚫︎原子力か再エネ利用かで意見が分かれる欧州
ECも水素に力を入れている。フォンデアライエンEC委員長は、21年11月、次のように語り、水素の将来に自信を示した。「天然ガスから製造する水素の20年のコストはkg当たり約2ユーロ。再エネ電源から電解で製造する水素のコストは現在約6ユーロ、30年までには1.8ユーロ以下になる。手の届くところにある」。EU内とウクライナ、モロッコなどに風力、太陽光発電設備を設置し、30年に1000万トンの水素を製造する計画だ。
ECが進めるグリーン水素製造に対し、原子力発電も活用すべきとフランス・マクロン大統領は主張している。欧州のエネルギー・電力危機を受け、安定的な電源である原子力発電を活用すべきとの声もEU内で高まっていたが(「何度でも言おう このままでは日本の停電は避けられない」)、21年10月12日、マクロン大統領は「再エネ電源がグリーン水素製造に足る能力を持つことは決してない。フランスが持つ原子力設備を利用しグリーン水素を製造すべき」と発言し、「フランス政府が計画する300億ユーロの投資計画の中で、10億ユーロをEDF(フランス電力)が開発中のSMRにあて、さらに30年までに水素製造の大規模設備を2カ所に設置する」とSMR開発と原子力利用のグリーン水素製造を発表した。
21年末に3基の原発を停止し、22年末には最後の3基の停止により脱原発を実現するドイツは、フランスのように原子力の電気で水素を製造することはできない。鉄鋼、化学などエネルギー多消費型産業を持つドイツでは水素製造に必要な50年の電力量は、今の全需要量に匹敵すると言われているが、国土の広さから水素製造に必要な再エネ電源設備を国内に設置することは不可能とみられている。
このため、ドイツは海外から水素を輸入するしかなく、既に豪州内の再エネ電源利用による水素製造の企業化調査に関する覚書を豪州と締結している。フランスとの比較ではコスト高は免れない。
⚫︎ドイツの二の舞になってはいけない
鉄鋼、化学、セメントなどエネルギー多消費型産業を持つ日本も、大量の水素をこれから必要とすることになる。豪州の褐炭から製造する水素の量は限られることになり、国内で電解による水素製造を視野に入れる必要がある。輸送インフラ、コストを考えるならば、水素を必要とする工業地帯など需要地ごとにSMRと電解装置を設置し、水素を製造するのが、最も競争力を持つことになる。
脱原発を行うドイツは選択肢がなく輸入水素にも依存せざるを得ないが、日本は幸いにも原子力利用という選択肢を保有している。水素が次の時代の国の競争力に大きな影響を与えることは、はっきりしている。
欧米主要国に加え、中露もSMR利用の水素製造に走り出している。エネルギーの地産地消により地域経済の活性化と雇用創出を行うのであれば再エネ導入ではなくSMRによる水素製造を行うべきだ。収入と雇用が増えなければ、日本の少子化も止