5%しか使えていない脳を「無限に」活用する考え方
PHPonlain衆知 より 220726 菅原洋平(作業療法士/ユークロニア㈱代表取締役社長)
だれしも、仕事、家事、運動など、日常生活で「めんどくさい」と感じる場面があるのではないでしょうか。
作業療法士の菅原洋平氏は、「めんどくさい」はという感情は消せるとといいます。一体どうすれば「めんどくさい」を消すことができるのでしょうか。
※本稿は『「めんどくさい」が消える脳の使い方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を一部抜粋・編集したものです。
⚫︎「めんどくさい」の正体は脳の「わからない」
めんどくさい感情を消すために、その正体を明らかにしておきましょう。
めんどくさい感情は、無駄にエネルギーが使われたり、使えるエネルギーが少なかったりするときに出現します。脳の立場からもう少し正確に表現してみると、それは、今の状況や未来の姿が「わからない」ということです。脳が「わからない」となる理由は3つあります。
・難しい予測をすることにエネルギーを無駄遣いした
例えば、友人の結婚式に出席するのがめんどくさい。これは、脳の立場で表現すると、「どうすればいいのか、何が起こるのか、わからない」ということです。
脳は、常に次の展開を予測し、その展開をうまく乗り切るために最適な体を用意しようとしています。初めて行く場所、初めて会う人、初めてのイベント、初めての服装……。
初めてのことが多すぎると、脳の中にある過去の記憶だけでは正確に予測することが難しくなります。その結果、「わからない」となり、動きが命令できなくなります。
この場合、初めてのことがひとつでも減ると、だんだん行動のイメージができてきて、それほどめんどくさくなくなってきます。場所を下見する、事前に人に会う、着ていく洋服を着てみる、など、事前情報が追加されると、予測の精度が高まっていきます。
・生命維持を最優先するために、使えるエネルギーが極端に減らされた
例えば、今週中に提出しなければならない資料をつくるのがめんどくさい。これも、脳の立場で表現し直すと、罰が怖くて「動けない」ということです。
自ら望んでつくる資料ではなく、指示されたり、役割として割り当てられたりした資料作成の場合、間に合わないと怒られる、自分の作業ペースをせかされる、という考え方になりがちです。
罰を受ける、自分の安全を侵されるという意識がつくられると、自律神経のひとつである背側迷走神経系の働きにより、危機を回避して安全を確保することが最優先になります。
すると、体は代謝率が下がって動かなくなり、やる気は起こらず、危機が過ぎ去るのを待つモードになります。
この場合の解決策は、頼まれた資料がどんな人にどのように役立つのかという情報を得ておくこと。そしてその作業と自分のやりたいことの間につながりを見つけて、自分の作業をやりたいことの一部になるように設定をすることです。
すると、腹側迷走神経系の働きによって、体はリラックスして動けるようになり、高いパフォーマンスが発揮できるようになります。安全であることがわかれば、脳は動けます。
・資源の奪い合いで、1つの課題に使えるエネルギーが減らされた
例えば、揚げ油をペットボトルに入れてリサイクルに出すのがめんどくさい。これは、2つの能力を同時に使うのが「負担」ということです。
この作業は、油をこぼさないように注ぐ空間的な能力と、鍋に油がついているので、普通の鍋を洗うよりも時間がかかる時間的な能力、という2つの能力が要求されています。
そのようなときには、1つの能力だけでできる状況をつくってみましょう。空間的に注意を払わなくても済むように、雑に作業しても絶対に油がこぼれない容器に油を移す。
また、時間的に注意を払わなくてもいいように、油の処理をするだけの時間を設けて、その時間は他のことをしなくてもいいことにする。こうなると、一気にめんどくささが薄れませんか?
実は、空間的な能力と時間的な能力は、脳の中で資源の奪い合いを起こしていることが明らかになっています。空間的な課題が得意な人は時間的な課題が苦手、またその逆もあるわけです。
普段の家事とは異なる、時々生じる家事。例えば、換気扇の掃除や窓拭きなどは、空間的要素か時間的要素を減らせば、めんどくさくなくなります。
⚫︎意識して使える脳のエネルギーは、たった5%
こうしたエネルギーの無駄遣いや、使えるエネルギーが減らされることは、誰にでも起こります。そもそも、これは脳の性質です。
私たちは、日々さまざまなことを感じ、考え、行動しています。
そんな私たちの脳が使えるエネルギーのうち、見た物や聞こえた音へ意識的に注意を向けたり、自ら意識して行動や思考をしたりするときに使えるエネルギーは、全体の何%を占めていると思いますか?
実は、わずか5%以下です。
じゃあ、その他95%のエネルギーを使って、脳は一体何をやっているの?と疑問に思ってしまいますよね。
95%のエネルギーは、無意識で行われる活動に使われています。無意識で行う活動とは、これから起こることを予測して備えたり、記憶を固定または消去したりといった、私たちが日々生活しながら成長していくうえで重要な役割を担っています。
ところが、この無意識な脳活動の中身は、エラーだらけなのです。
⚫︎過度なスマホ確認は「めんどくさい」を加速させる
95%のエネルギーを有効活用するために、考え方をセットしておきましょう。
その考え方とは、「脳内で使える資源は有限、資源の組み合わせで実現できることは無限」ということです。
脳の中でエネルギーを消費する神経は、神経細胞と、神経細胞から情報を伝達する配線である神経線維で構成されます。
MRIで脳の画像を撮ると、神経細胞の集まりは灰色っぽく見えて、配線部分は白っぽく見えるため、神経細胞の集まりは灰白質、配線である神経線維の集まりは白質と呼ばれます。脳全体の消費エネルギーの95%は灰白質が占めています。配線部分ではエネルギーはほとんど使われていません。
つまり、できるだけ少ない神経細胞で、できるだけ情報が抜け落ちることなく表現することができれば、少ないエネルギーで大きな成果を上げることができます。
ここで改めてセットしておきたい考え方は、脳の活性化=多くの神経細胞を使うこと、ではないということです。むしろその逆で、脳の活性化=できるだけ少ない神経細胞を使って多くの情報を表現することだとセットしましょう。
めんどくさいことに悩む人は、たくさんの情報を得るほど脳の力は高まる、と考えている人が多いです。
レジ待ちのほんの数秒や人の話を聞いている最中、トイレ中でも、ちょっとした隙があればスマホを見て脳に情報を入力する……これは、隙間時間を活用しているように見えますが、実際には、デジタル情報によって灰白質のエネルギーが奪われています。
💋マイペースで生活し難いスマホ社会!