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📚 「ゴジラ」シリーズにわずかでも興味のある人,日本SFが好きな人は必読 控え 200705

2020-07-05 23:23:00 | 📗 この本

「ゴジラ」シリーズにわずかでも興味のある人、日本SFが好きな人は必読
  柳下 毅一郎 より控え 200705

『本多猪四郎 無冠の巨匠』(洋泉社) 
    著者:切通 理作

 没後21年、本多猪四郎監督の作品を、その生涯、その思想から読み解く評伝!
作家主義は映画を作り手の個人的・直接的な表現とし、映画監督こそが映画の唯一・真性の作家であると主張する。もちろん、映画は共同作業であり、多くの人が創造性を寄与する。
 だがそれでもなお、監督のヴィジョンがすべてに貫かれていると考えるのが作家主義である。商業主義と見られ、あるいは職人と思われることが多かった監督を「作家」として称揚し、映画的表現を見出したのが作家主義だったのである。

 たとえば円谷英二という特撮の神がいなければ『ゴジラ』にはじまる東宝特撮シリーズは決して成立しなかったろう。あるいはその最大の功績はプロデューサーとして東宝の娯楽大作を統括した田中友幸に帰すべきだとする説もある。いや,実際現在までほぼそれが通説だったのかもしれない。
 だが,もしも作家主義がここにも適用されるなら,『ゴジラ』の作者は1人しかありえない。それは本多猪四郎,しばしば職人と切り捨てられる映画監督である。

 切通理作の『本多猪四郎 無冠の巨匠』は長らく待たれていた本多猪四郎の評伝である。本多こそが『ゴジラ』をはじめとする東宝特撮の真の作者であるとし,その作品を彼の生涯,その思想から読み解く本だ。 
 これは刺激的で,多くを与えてくれる本である。「ゴジラ」シリーズにわずかでも興味のある人,日本SFが好きな人は必読だ。

 本書はまず、怪獣映画がいかなる存在なのか、怪獣映画において怪獣はいかに撮られているかを検証する。怪獣の登場場面を撮っていたのは特技監督の円谷英二なのだから、怪獣を演出しているのは円谷なのだと誰もが思いがちだ。
 だが、切通は、特撮のカットもそれだけで自立するものではなく、本編とのインターカットによって、あるいは音楽や音響効果、編集によってはじめて成立するのであり、そのすべては本多の指示下でおこなわれていることを指摘する。
 特撮カットと本編カットの切り返しなど朝飯前で、そのことによって本編だけでなく特撮カットもまた有機的に活かすことができる。それは他の監督にはできなかったことなのだ。

 そして表現だけでなく、テーマにおいても本多は作家性を発揮していた。丹念に読み込まれた脚本から、本多がいかに細かく丁寧に物語を演出していったのかが浮かびあがる。
 『ゴジラ』の芹沢博士は戦争で死にそこない、愛も現実の中で生きるすべも失った男である。ミステリアンなどの例も引き「本多作品の実質は現実といきはぐれてしまった者(ときにそれは怪獣や怪人自身であったりする)の物語だ。どれも同じその反復である」と切通は書く。
 だからこそ怪獣ファン、SFファンのオタクたちは本多猪四郎の怪獣映画に惹かれるのである。

 本多の怪獣映画、特撮映画はすべて戦後、平時の中に戦場が持ち込まれる物語である。であれば本多の戦場体験とはいかなるものだったのか、興味が生まれるのは当然だろう。
 本多猪四郎は都合8年間も軍務をつとめ、北支(満州)、中支と中国各地を転戦した。助監督としては黒澤明、谷口千吉と同期であり、三羽烏と言われるほど仲がよかったにもかかわらず、1人監督昇進が遅れたのは軍務ゆえである。
 それゆえに、復員後も本多はすぐには戦後社会にとけこめなかった。むしろ違和感を抱えながら生きてきたに違いない。
 その思いはあるいは『海底軍艦』のキャラクターに投影されているのかもしれない。黒澤明の『』の中に出てくるトンネルを死んだ兵士たちが歩いていく夢は、黒澤ではなく本多猪四郎が見たものではないか、と本多の未亡人は言う。

 本多にとっての原爆は、中国大陸から引き揚げて広島を通ったとき、板塀で覆われた向こうにある「草木も生えない世界」への恐怖である。
 もちろんゴジラはその恐怖の象徴としてあった。だが、本多は闇雲に科学とそれが生みだしたものを忌避したわけではない。科学の進歩と発展に人一倍興味を抱き、人類の未来を思い描く理性至上主義者でもあったのだ。
 本書では特撮映画はSF映画として、科学と人間の相克を問う近代人の物語として読み解かれてゆく。

 本書には多くの読みどころがある。『ガス人間第一号』をめぐる感動的な論考は、切通の本領発揮というところだろう。
 本多の父親が湯殿山注連寺の山内だったというのには驚かされた。湯殿山系の即身仏(ミイラ)にはことのほか興味があるからである。
 だが、いちばん気になったのは元東宝のスクリプターで、結婚後は世間知のまるでなかった本多猪四郎の生活をすべてみていたという本多きみ夫人である。
 若いころは男勝りのモガであり、本多と同時に黒澤明からも求婚されたという(!)。晩年、監督作品のない本多は実は親友黒澤明の監督補として黒澤作品に協力していたのだが、彼らの青春と友情と人生の物語をもっと知りたい。

【初出メディア】
映画秘宝 2015年1月号

【書誌情報】
本多猪四郎 無冠の巨匠
著者:切通 理作
出版社:洋泉社
装丁:単行本(ソフトカバー)(493ページ)
発売日:2014-11-06
ISBN-10:4800302218
ISBN-13:978-4800302212


💋その昔、学生時代、大阪の梅新の小映画館で 本多監督作品上映会に。

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