たくさん食べても「栄養不足」で死に至る…日本人がハマっている「バランスのとれた食事」の落とし穴
プレジデントOnline より 230725 平澤 精一
健康な体を維持するにはどうしたらいいのか。医師の平澤精一さんは「バランスのとれた食事をとっていると思っている人が、低栄養に陥っているケースが非常に多い。長生きするためには不足しがちな3つの栄養素を摂ることが大切だ」という――。
※本稿は、平澤精一『老化を「栄養」で食い止める 70歳からの栄養学』(アスコム)の一部を再編集したものです。
⚫︎70歳を過ぎると、食はどうしても細くなる
みなさんの中に、次のような思いを抱えている方はいらっしゃいませんか?
「年齢を重ねて、最近、あまり食欲がわかなくなった」
「食べてもすぐにお腹がいっぱいになってしまう」
「入れ歯になってから、硬いものが食べられなくなった」
「食事の用意をするのが面倒くさい」
年齢を重ねると、どうしても消化器官、特に胃腸の働きが悪くなり、食が細くなりがちです。胃腸の筋力や消化酵素の分泌量などが衰え、食べものが入ってきても胃がうまく広がらなくなったり、食べものを運搬する力や消化する力が弱くなったりするからです。
そのため、常に満腹感がある、食べてもすぐお腹がいっぱいになる、といった状態になりやすく、食欲が低下してしまうのです。
また、筋力が衰えて外出したり体を動かしたりすることがおっくうになると、運動量が減って空腹を感じにくくなり、やはり食が細くなります。
歯が弱っている、入れ歯が合わないといった理由で、あまり噛まずにするすると飲み込める軟らかいものしか食べられない人、食事の用意が面倒で、そばやうどん、丼ものだけで済ませてしまう人も少なくないでしょう。
しかし、「歳だから仕方がない」とあきらめないでください。
食事量が減ったり、軟らかいもの、そばやうどん、丼ものなどの単品もので済ませたりすると、どうしても低栄養に陥ってしまいがちです。
そして、その状態が続くと、健康を著しく損ねてしまうのです。
⚫︎年齢が上がれば上がるほど、栄養は不足しがち
低栄養とは、タンパク質などの栄養や、体を動かすために必要なエネルギーが不足している状態のことです。厚生労働省の「令和元年国民健康・栄養調査」によると、「性別・年齢階級別の低栄養傾向の者(BMI≦20kg/m2)の割合」は図表1の通りです。
出所=『 老化を「栄養」で食い止める 70歳からの栄養学』
ちなみに、BMIは「体重(kg)÷[身長(m)×身長(m)]」で算出されるもので、「体格指数」と呼ばれており、BMIが20以下の場合、低栄養の危険性が高まるといわれています。
図表1を見ると、基本的には年齢が上がれば上がるほど、低栄養傾向の人の割合が高くなっていることがわかります。
その原因としては、先ほどお伝えしたように、活動量の低下や咀嚼機能・消化機能の低下などにより、食事の絶対量が少なくなったり、栄養素を効率よく吸収できなくなったりすることが挙げられます。
なお、女性のほうが低栄養傾向の人が多い原因としては、そもそも男性に比べて食事量が少ないことに加え、肥満を気にして、必要以上に食事制限をしてしまう人が少なくないことが挙げられるでしょう。
⚫︎食事だけで、必要な栄養量をすべて摂るのは難しい
低栄養に関して,特に気をつけなければならないのが、自分では「バランスのとれた食事をとっている」と思っている人が,低栄養に陥っているケースが非常に多いということです。
そもそも、食事だけで必要な栄養をすべて摂るのは困難です。高齢者に不足しがちな栄養素として、よく挙げられるのは、
・タンパク質
・食物繊維
・各種ミネラル
・各種ビタミン
などですが、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、このうち、たとえばタンパク質は、65歳以上では1.0g/体重(kg)/日以上摂取することが望ましいとされています。
つまり、体重が60kgの人であれば、一日に60g以上。100g当たりのタンパク質含有量は、牛肉、豚肉、鶏肉が20g程度、豆腐が5g程度ですから、60gのタンパク質を摂ろうと思うと、肉類であれば毎日300g、豆腐であれば1200g食べなければなりません。
いかがでしょう? 食事だけで必要な栄養素をすべて摂るのは難しいと思いませんか?
「毎日、これだけの栄養を摂らなければ」と意識しすぎると、食事の支度も大変になりますし、食べることが楽しくなくなってしまいます。また、厚生労働省などが推奨している量を摂らなかったからといって、すぐに低栄養に陥るわけでもありません。
大事なのは、毎日少しずつでもいいので、無理のない範囲で、食事によって、もしくはサプリメントを活用して、不足しがちな栄養素を摂り続けることです。
⚫︎健康長寿に欠かせない「3つの栄養素」
では、できるだけ手間をかけずに、低栄養に陥るのを防ぎ、いつまでも健康な体を維持するにはどうしたらいいのでしょうか? 誰にでもできる簡単な方法として私が考えたのが、この本でおすすめしている「70歳からの栄養学」です。
70歳からの栄養学では、以下の3つの栄養素を摂ることをおすすめしています。
一つ目は、タンパク質。タンパク質が不足していると、筋肉、内臓、皮膚、ホルモンなどが十分に作られず、健康面や美容面でさまざまなトラブルが生じます。
二つ目は、ミネラル。特に亜鉛は、70歳以上の人の心身の健康を維持するうえで、非常に大事な栄養素です。
三つ目は抗酸化物質。抗酸化物質を摂ることで、体の不調や老化をもたらす活性酸素による細胞の酸化を防ぐことができます。すでにお伝えしたように、必要な量を毎日絶対に摂取しなければならないということはありません。
ただ、70歳からは、まずは「ご飯に卵をかける」など、日々の食事に何らかの食材もしくはサプリメントをプラスワンすることで、この3つをできるだけ補い、みなさんにいつまでも健康に長生きしていただきたい。それが、70歳からの栄養学の大まかな内容であり、目的なのです。
⚫︎歩行速度の低下、食欲減退は「老衰のサイン」
なぜ私が、タンパク質、ミネラル(特に亜鉛)、抗酸化物質の3つを、食事にプラスワンして摂ることをみなさんにおすすめするかというと、それが何よりも、70歳以上の方がフレイルのサイクルに入るのを予防することにつながるからです。
フレイルとは、日本老年医学会が提唱している「高齢者の筋力や活動が低下している状態」のことで「虚弱」「老衰」といった意味を表す,英語の「frailty」を基にした言葉です。
早い人は60歳を過ぎたころからフレイルになり、65歳以上の20~25%の人がフレイルであるとの調査結果もあります。
具体的には、
・筋肉量や筋力が低下する
・体力や運動能力が低下し、歩行速度が遅くなる
・活動量が低下し、疲れやすくなる
・食欲が低下し、体重が減る
といった特徴が見られ、図表2のように、筋肉量や筋力の低下、体力や運動能力の低下、活動量の低下、食欲の低下などが互いに作用し合い、身体機能が徐々に低下していくサイクルのことを「フレイルサイクル」といいます。
出所=📗『 老化を「栄養」で食い止める 70歳からの栄養学』
二つ目は、ミネラル。特に亜鉛は、70歳以上の人の心身の健康を維持するうえで、非常に大事な栄養素です。
三つ目は抗酸化物質。抗酸化物質を摂ることで、体の不調や老化をもたらす活性酸素による細胞の酸化を防ぐことができます。すでにお伝えしたように、必要な量を毎日絶対に摂取しなければならないということはありません。
ただ、70歳からは、まずは「ご飯に卵をかける」など、日々の食事に何らかの食材もしくはサプリメントをプラスワンすることで、この3つをできるだけ補い、みなさんにいつまでも健康に長生きしていただきたい。それが、70歳からの栄養学の大まかな内容であり、目的なのです。
⚫︎歩行速度の低下、食欲減退は「老衰のサイン」
なぜ私が、タンパク質、ミネラル(特に亜鉛)、抗酸化物質の3つを、食事にプラスワンして摂ることをみなさんにおすすめするかというと、それが何よりも、70歳以上の方がフレイルのサイクルに入るのを予防することにつながるからです。
フレイルとは、日本老年医学会が提唱している「高齢者の筋力や活動が低下している状態」のことで「虚弱」「老衰」といった意味を表す,英語の「frailty」を基にした言葉です。
早い人は60歳を過ぎたころからフレイルになり、65歳以上の20~25%の人がフレイルであるとの調査結果もあります。
具体的には、
・筋肉量や筋力が低下する
・体力や運動能力が低下し、歩行速度が遅くなる
・活動量が低下し、疲れやすくなる
・食欲が低下し、体重が減る
といった特徴が見られ、図表2のように、筋肉量や筋力の低下、体力や運動能力の低下、活動量の低下、食欲の低下などが互いに作用し合い、身体機能が徐々に低下していくサイクルのことを「フレイルサイクル」といいます。
出所=📗『 老化を「栄養」で食い止める 70歳からの栄養学』
⚫︎フレイルサイクルを予防するには栄養が必要だ
一度フレイルサイクルに入ると、家に閉じこもりがちになり、ますます心身の機能が衰え、生活の質が低下します。その結果、風邪をこじらせて肺炎を発症する、打撲や骨折などのけがをするといったことが起こりやすくなり、それをきっかけに寝たきりになることも少なくありません。
脳卒中などの病気や転倒により、健康な状態から、突然要介護状態になるケースもありますが、多くの高齢者は、
・身体機能が低下する
・認知機能が低下する
・家に閉じこもり、動いたり人と交流したりする機会が減る
といった原因によってフレイルになり、そこから徐々に要介護状態になっていくと考えられています。つまり、フレイルは要介護の前段階なのです。
ちなみに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で猛威を振るい、人々が外出を控えたり、人と会うのを避けたりするようになってから、フレイルになる高齢者がどんどん増えています。
以前は年間約6%だったフレイルの発症者が、新型コロナウイルスの流行後は年間約16%にまで増加しているそうです。
フレイルサイクルに入ったり、寝たきりになったりするのを防ぐうえで非常に重要なのが、食生活を改善し、低栄養を避けることです。
特に、亜鉛をはじめとするミネラルやタンパク質が不足している人は、フレイルに陥りやすいことがわかっていますし、抗酸化物質を摂って活性酸素の影響を減らし、心身の不調を遠ざけることは、フレイルサイクルの要因である活動量の低下、食欲低下などの予防につながります。
⚫︎日々の食事にプラスワンするだけでいい
ここでは、フレイルサイクルに入ってしまうのを防ぐために、私が特におすすめしたい、タンパク質、ミネラル、抗酸化物質が摂れる食品をご紹介します。これらをぜひ、日々の食事にプラスワンしてください。
・卵🥚
卵は、食物繊維とビタミンC以外の、人間の体にとって必要な栄養素がすべて含まれている「スーパーフード」。特に70歳以上の方に必要なタンパク質が7.3g、ミネラルの亜鉛が0.7mgと多く含まれています。
コレステロールを理由に敬遠された時代もありましたが、それは過去の話。今では体内のコレステロール量と卵には科学的な根拠がないとされています。なお、コレステロールはホルモン(テストステロン)のもととなる物質ですので、大変重要です。
脳神経に良いコリンも含まれていますので、卵かけご飯、目玉焼きなどにして、毎日食べてほしい食材です。
・ナッツ類🥜
アーモンド、くるみ、ヘーゼルナッツ、ピーナッツなどのナッツ類は、いずれも植物性タンパク質が豊富で、100g当たり約15~25gも含まれています。
また、種類によって含まれる栄養素は異なりますが、ミックスナッツでさまざまなナッツを食べれば、亜鉛、鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウムなどのミネラル、α-トコフェロールやレスベラトロールなどの抗酸化物質、ビタミンB群、食物繊維、悪玉コレステロールを減らし善玉コレステロールを維持するオレイン酸、アレルギーなどの炎症を抑え、中性脂肪を減らすαリノレン酸など、さまざまな栄養素を手軽に摂ることができます。
一日当たり片手でひとつかみ、ないし10粒程度を目安に食べることをおすすめします。
⚫︎タンパク質、ミネラル、抗酸化物質が健康長寿のカギ
・牛肉の赤身🥩
牛肉のうち、ももやヒレなどの赤身は、うま味が強くほどよい歯ごたえがあるだけでなく、低カロリー・低脂質で、ほかの部位よりもタンパク質が多いため、非常にヘルシー。
たとえばもも肉には、100g当たり約20gのタンパク質が含まれています。さらに、赤身肉には、亜鉛や鉄、脂質の代謝をスムーズにするL-カルニチン、疲労回復に欠かせないビタミンB群なども豊富に含まれているため、しっかり食べることで、脂肪がつきにくく、疲れにくい体になります。
・まぐろ🐟
まぐろにも良質なタンパク質が豊富に含まれており、100g当たりのタンパク質量は赤身で約25g、トロ(脂身)で約23gと、牛肉の赤身以上です。赤身は脂質が少なく、カロリーが低くてヘルシーで、カリウムや鉄などのミネラルも豊富に含まれています。
一方、脂身は脂質が多くカロリーも高いのですが、細胞を活性化させる働きのあるDHAや、血液中のコレステロールや中性脂肪を減らし、血流を良くするEPA、抗酸化作用のあるビタミンA、ビタミンEなどは、赤身よりも多く含まれています。
ただ、魚介類には水銀が含まれているため、厚生労働省によって、くろまぐろ、めばちまぐろなどは1週間に1回、80gで、みなみまぐろなどは80gを週2回までと、摂取の目安が示されています。
・チーズ🧀
チーズは牛乳の栄養成分が詰まっており、一切れ(約20g)でコップ一杯の牛乳(約200ml)と同じだけの栄養が摂れるといわれています。特にタンパク質は、チーズの22~28%となっており、パルメザンチーズは20g当たり約9g、カマンベールチーズやモッツァレラチーズは約4gのタンパク質を含んでいます。
また、種類にもよりますが、カルシウムやビタミンA、ビタミンB2も豊富で、熱処理を行わないナチュラルチーズの場合は、乳酸菌を生きたまま取り入れることができます。ただ、あまり多く食べると脂質や塩分の摂りすぎになってしまうので、一日一切れ程度を目安に食べましょう。
📗平澤精一『老化を「栄養」で食い止める 70歳からの栄養学』(アスコム)
平澤 精一(ひらさわ・せいいち) 医師 テストステロン治療認定医
日本医科大学卒業。日本医科大学大学院医学研究科にて、医学博士号取得。日本医科大学付属病院、三井記念病院などの勤務を経て、1992年に「マイシティクリニック」を開業。現在では新宿区医師会会長をつとめ、東京都医師会、新宿区医歯薬会、新宿医療行政関連の委員、役員を兼任。所属学会・医学会は日本泌尿器科学会、日本メンズヘルス医学会等多数。健康寿命に深くかかわる「テストステロン」の研究者として、「男性更年期障害」の治療、高齢者の健康を守る取り組みを数多く実践。著書に『 60代からの最高の体調 ミネラル・ホルモンで「老いない体」を手に入れる』がある。
日本医科大学卒業。日本医科大学大学院医学研究科にて、医学博士号取得。日本医科大学付属病院、三井記念病院などの勤務を経て、1992年に「マイシティクリニック」を開業。現在では新宿区医師会会長をつとめ、東京都医師会、新宿区医歯薬会、新宿医療行政関連の委員、役員を兼任。所属学会・医学会は日本泌尿器科学会、日本メンズヘルス医学会等多数。健康寿命に深くかかわる「テストステロン」の研究者として、「男性更年期障害」の治療、高齢者の健康を守る取り組みを数多く実践。著書に『 60代からの最高の体調 ミネラル・ホルモンで「老いない体」を手に入れる』がある。