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量子センサーで電波の代りに「重力波」でスペースデブリを検知できる 202306

2023-06-05 02:48:27 | ¿ はて?さて?びっくり!

量子センサーで電波の代りに「重力波」でスペースデブリを検知できる
川勝康弘
  ナゾロジー編集部 より 230606  


⚫︎質量さえあれば、検知できるようです。
 オランダのフローニンゲン大学(UG)で行われた研究により、スペースデブリのような小さな物体の重力を検知・追跡する量子センサーが、理論上開発可能であることが示されました。
 これまで移動する物体の検知や追跡は電波の反射によって行っており、電波反射を妨害するステルス技術などによって無効化されてしまう場合もありました。
 しかし重力波を用いる方法では質量を消さない限り検知でき、無効化される恐れはありません。

 今回の研究で示されたのはあくまで理論に過ぎませんが、小さな物体の発する微かな重力をいったいどんな方法で検知するのでしょうか?

研究内容の詳細は2023年5月25日に『Physical Review D』にて掲載されました。
ーー目次
⚫︎量子センサーで電波の代りに「重力波」でスペースデブリを検知できる

 現在、地球の軌道には崩壊した衛星やロケットから放出された破片など、直径1~10センチほどの小さなスペースデブリ(宇宙ゴミ)が50万個以上あると推定されています。
 
 一部の危険度の高いデブリは地上のレーダーによって常に位置が追跡されていますが、将来、電波探知を困難にするステルス技術が用いられた軍事衛星などが放棄された場合には、既存のレーダーでは追跡困難なデブリが数多く生まれる恐れがあります。
 そうなれば宇宙開発が進むにつれて、デブリによる衝突の危険はさらに多くなっていくでしょう。

 そのため近年では電波の代りに重力波を検出する量子センサーが提案されています。
既存のレーダーでは跳ね返ってきた電波を探知します。

 ステルス戦闘機などは、外装に電波吸収材を利用したり、レーダー反射断面積の少ない形状に設計することで自身の存在をレーダー上から隠しています。

Credit: Wikipedia
一方、量子センサーは物体が発する重力波の変動を検知し、位置を特定します。

 重力波は質量を持つ物体が空間を移動することで発生する時空の波紋です。

 量子センサーを使った重力波探知から逃れるには「質量を世界から隠す」しかありません。

 当然、そんなことは不可能です。

 重力は基本的に何物にも遮られることなく伝わっていくため、ほぼ全ての物体を、いかなる障壁にも邪魔されず検知できます。

Credit:Canva . ナゾロジー編集部

 しかし重力波は電波のようにアンテナをつければ検知できるものではありません。

 重力波は時空の波紋として伝わってくるため、検知するには何らかの方法で「時空の歪み」を見つけ出さねばなりません。

 そこで米国はレーザー干渉計重力波観測所「LIGO」が建設されました。

LIGOは、上の図のように、直交する経路に2つに分岐させた光を照射し、先端で反射させた後、帰ってくるまでの時間が測定されます。

 もし重力波がなければ、発射された光は予想通りの時間で検出されるハズです。
 ですが重力波によって空間ごと実験装置が歪んだ場合、光の経路が波打って伸びてしまい、予定する到達時刻に遅れが生じて観測結果が異なってきます(異なる干渉波が作られます)。

 LIGOでは光の持つ粒子と波の2つの性質のうち、波としての性質を使って、重力波を検出しているのです。

 この方法を使って、LIGOは2015年に互いの周りを回転しながら衝突しようとする2つのブラックホールの重力波を捉えることに成功しています。

 LIGOの他にも、フランスではMIGAと呼ばれる重力波検出装置が作られています。

 LIGOとMIGAの最大の違いは内部を通過させる波にあります。

 LIGOでは光の波「光波」が用いられていましたが、MIGAでは物質(ルビジウム原子)の波「物質波」が用いています。

 形のある物質を波にすると言うと奇妙に思えるかもしれません。

 しかし光に粒子としての性質と波としての性質があるように、あらゆる物体には本質的に粒子としての性質に加えて波としての性質が存在しており、特定の物質が波としての性質を発揮した時に観測されるのが「物質波」と呼ばれるものの正体になっています。

 粒子である物体に波としての性質を発揮させる方法としてよく使われるのが冷却です。

 たとえばルビジウム原子を絶対零度に近い温度に冷やすと、原子の持つ量子的性質(波の性質)が発揮されて「物質波」にかわり、LIGOよりも遥かに精度の高い観測が可能になります。

 物質の質量が大きくなればなるほど物質の波としての波長は短くなり(より細かい波になり)、微細な重力波の変動も感知できるようになるからです。

 この波長によって検知できる範囲が違うという部分は、ある意味で光学顕微鏡と電子顕微鏡の違い似ています。

 光学顕微鏡が検知できる大きさは光波(可視光)の波長の長さが限界となっています。

 光波の波長より小さな物体は光が通り抜けてしまうため、見分けることができません。
 しかし電子が波として持つ物質波の波長は光波よりも遥かに短いため、より小さな物体を見分けることができます。

 物質波の波長は質量が大きければ大きいほど短くなることが知られており、ゆえに光波を使うLIGOよりもルビジウム原子の物質波を使うMIGAのような高精度の観測が可能になります。

 可視光や電子を使った顕微鏡と重力波観測装置は異なる原理で動いていますが、より小さな波長を使うことで観測性能(分解能)を上げられる点はよく似ています。

 では、波にする物質の質量を増して、重力波の検出精度をさらに高めることはできるのでしょうか?
 その答えは「理論的には可能」となっています。

 物質の波としての性質を持たせる限界値を探る試みは、主に二重スリット実験として進化してきました。

 光源から光子を1つずつ発射していくと、1つの光子が左右2つのスリットを同時に通過するという量子的性質が発揮され、左を通った波と右を通った波が干渉し、着弾地点には波模様が生成されます。

 同様に光の代りに原子や分子を1個ずつ発射っした場合でも、波としての性質が発揮されると、1つの原子や分子が2カ所のスリットを同時に通過し、着弾地点に波模様が生成されます。

 これまで行われた二重スリット実験でも量子的な性質をとれる限界を更新する試みが続いており、1990年には430個ほどの原子がせいぜいでしたが、現在では2000原子を超える物体も量子的な波としての振る舞いをさせることに成功しています。

 理論的にも波としての性質を持たせられる範囲には際限がないことがわかっており、将来的にはウイルス粒子や細胞を使った二重スリット実験を成功させることを目指しています。

 そのためもしLIGOの光波やMIGAのルビジウム原子の物質波の代りに、より大きな質量を持つ物質を波として運用することができれば、重力波検出器の性能は飛躍的に上昇すると考えられています。

 物体の粒子や塊としての側面を無視して、波としての側面を利用することに不思議な感じを覚えるひともいるでしょう。

 確かに物体が大きくなればなるほど、環境からの影響を受けやすくなり、波としての性質を維持することが困難になります。

 1人の人間が家と地球の裏側に同時に存在するといった事件や、金庫の中に入れておいた札束が勝手に消えてしまわないのも、大きな物体ほど波としての振る舞いが困難になるからです。

 しかし条件さえ整えば、物体の粒子や塊としての性質と波としての隠し持っていた性質が分離し、量子的な不思議な振る舞いも(理論上)可能になるはずです。

 ではもし、重力検出器で物質波として使う物体をもっと大きくして性能を限界まで高めた場合、遠くのブラックホールが発する重力波だけでなく、数キロ先の数センチのスペースデブリの重力波も検知できるのでしょうか?

 そこで今回、フローニンゲン大学の研究者たちは、数理モデルを構築し、スペースデブリのような比較的小さい物体の重力波を検出するのに必要な条件を探ることにしました。

 すると現在、量子的性質が確認されている質量記録の100万倍ほどの物質波を絶対零度に近い環境で作れれば、スペースデブリの発する小さな重力波を検出できる、高性能な重力検出器が作成できることがわかりました。

 研究者たちは、量子的状態に移行できる質量記録は次々に更新されているため、数年後にはナノサイズの結晶に量子的な物質波効果をもたせられるようになると述べています。

 もし将来的に重力波を使った質量検知が実用化することがあれば、従来の電波レーダーを置き換える冷たい重力波レーダーが実現するでしょう。


▶︎元論文
Quantum gravitational sensor for space debris https://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/PhysRevD.107.104053

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