人工衛星の数が増えすぎることで引き起こされるさまざまな問題とは?
GigaZain より 211213
1957年に世界初の人工衛星である スプートニク1号がソ連によって打ち上げられて以降、数多くの人工衛星がさまざまな目的で打ち上げられています。宇宙開発が進んで地球の軌道上を周回する人工衛星が増えることの問題について、科学系メディアのLiveScienceが解説しています。
How many satellites orbit Earth? | Live Science
https://www.livescience.com/how-many-satellites-orbit-earth
スプートニク1号の打ち上げによってアメリカとソ連の宇宙開発競争がスタートし、その後は2010年代まで年間10~60機のペースで人工衛星が打ち上げられてきました。
ところが、近年になって急速に人工衛星打ち上げのペースが上昇しており、2020年には1300機以上、2021年には1400機以上の人工衛星が打ち上げられているとのこと。
マサチューセッツ大学の物理学教授であるSupriya Chakrabarti氏は、2021年9月の時点で7500機以上の人工衛星が、地球表面からの高度が2000km以下の地球低軌道(LEO)に存在していると 記しています。
多くの民間企業が数千~数万もの衛星を協調させてシステムを実行する メガコンステレーションにより、インターネットサービスの提供や気候変動の監視などを行おうとしているため、LEOに存在する人工衛星の数は今後も指数関数的に増加するとみられています。
多くの民間企業が数千~数万もの衛星を協調させてシステムを実行する メガコンステレーションにより、インターネットサービスの提供や気候変動の監視などを行おうとしているため、LEOに存在する人工衛星の数は今後も指数関数的に増加するとみられています。
ブリティッシュコロンビア大学の天文学者であるAaron Boley氏は、SpaceXやAmazonなどの民間企業が計画する衛星プログラムにより、合計10万機もの人工衛星の打ち上げが計画されていると指摘しました。
また、近年急速な経済発展を遂げているルワンダは、初の人工衛星「RWASAT-1」を東京大学の全面的な支援の下で開発し、2019年9月に 打ち上げに成功しました。
また、近年急速な経済発展を遂げているルワンダは、初の人工衛星「RWASAT-1」を東京大学の全面的な支援の下で開発し、2019年9月に 打ち上げに成功しました。
さらに2021年10月には、「Cinnamon」という合計32万機もの人工衛星を含むメガコンステレーションの計画を 発表しており、これまで宇宙開発に進出してこなかった国々も人工衛星の打ち上げに乗り出しているとのこと。
ところが、新たな人工衛星が次々と打ち上げられることはメリットだけでなく、以下のようなさまざまな問題も引き起こすことが指摘されています。
◆宇宙空間の渋滞とスペースデブリ
今後数十年間でますます多くの人工衛星が打ち上げられるにつれ、人工衛星同士の衝突事故が増加し、宇宙空間をただよう宇宙ゴミ(スペースデブリ)も増加することが予想されています。
ところが、新たな人工衛星が次々と打ち上げられることはメリットだけでなく、以下のようなさまざまな問題も引き起こすことが指摘されています。
◆宇宙空間の渋滞とスペースデブリ
今後数十年間でますます多くの人工衛星が打ち上げられるにつれ、人工衛星同士の衝突事故が増加し、宇宙空間をただよう宇宙ゴミ(スペースデブリ)も増加することが予想されています。
記事作成時点でも、LEOには少なくとも1億2800万個ものスペースデブリが存在しており、そのうち3万4000個は10cmを超える大型の破片だとのこと。Boley氏は、「多くの衛星を安全に運用することは大きな課題になるでしょう」「特定の軌道で大きなスペースデブリを発生させる事故が起きた場合、広範囲の軌道に影響を与える可能性があります」と述べています。
また、スペースデブリは衝突事故によってのみ発生するわけではなく、強烈な紫外線にさらされて劣化した人工衛星の部品が、自然に分解することでも発生し得るとBoley氏は指摘しています。
また、スペースデブリは衝突事故によってのみ発生するわけではなく、強烈な紫外線にさらされて劣化した人工衛星の部品が、自然に分解することでも発生し得るとBoley氏は指摘しています。
スペースデブリは他の人工衛星だけでなく、人間が乗っている宇宙船にも被害を及ぼす可能性があります。2021年5月には、国際宇宙ステーション(ISS)のロボットアームに、スペースデブリが衝突したことによる損傷が見つかりました。
(「宇宙ゴミ」が国際宇宙ステーションに衝突してロボットアームが損傷 - GIGAZINE)
人工衛星の数が増加しすぎてスペースデブリの密度が臨界値を越えると、衝突によって生成されたスペースデブリが連鎖的に次の衝突を起こし、自己増殖する「 ケスラーシンドローム」という状態になる危険性も指摘されています。
(「宇宙ゴミ」が国際宇宙ステーションに衝突してロボットアームが損傷 - GIGAZINE)
人工衛星の数が増加しすぎてスペースデブリの密度が臨界値を越えると、衝突によって生成されたスペースデブリが連鎖的に次の衝突を起こし、自己増殖する「 ケスラーシンドローム」という状態になる危険性も指摘されています。
こうなると宇宙空間がスペースデブリで遮られた状態になり、人類の宇宙進出が妨げられてしまう可能性もあるとのこと。Boley氏は、宇宙空間における積極的なスペースデブリの除去が必要かもしれないと述べていますが、どのようにスペースデブリを除去するのかといった点は今後の課題となっています。
◆環境への被害
宇宙産業は膨大な炭素を排出する分野であり、イギリスの大手新聞社・ The Guardianによると、平均的なロケット打ち上げは220~330トンもの炭素を地球の大気中に排出するとのこと。
◆環境への被害
宇宙産業は膨大な炭素を排出する分野であり、イギリスの大手新聞社・ The Guardianによると、平均的なロケット打ち上げは220~330トンもの炭素を地球の大気中に排出するとのこと。
平均的な長距離旅客機の炭素排出量が乗客1人当たり2~3トンである点を考えると、想像よりも大したことはないと感じるかもしれませんが、人工衛星の需要が増加するにつれてロケット打ち上げに伴う炭素排出量も増えていきます。
また、ロケット打ち上げに伴う炭素排出だけでなく,地球に再突入する衛星による環境への影響も懸念されています。人工衛星の再突入により,アルミニウムなどの元素や、オゾン層を破壊する クロロフルオロカーボン(CFC)といった物質が放出される可能性があるそうです。
また、ロケット打ち上げに伴う炭素排出だけでなく,地球に再突入する衛星による環境への影響も懸念されています。人工衛星の再突入により,アルミニウムなどの元素や、オゾン層を破壊する クロロフルオロカーボン(CFC)といった物質が放出される可能性があるそうです。
また、人工衛星の残骸はほとんどが海に落下するため、ゴミの多くは回収されず海中に沈むことになります。
◆光害
軌道上を周回する人工衛星の数が増えるにつれて、夜空の見え方もこれまでとは違ったものになると指摘されています。Boley氏らが2021年9月にプレプリントサーバーのarXivに掲載した 論文では、将来的に夜空の光の8%が人工衛星に由来する可能性があると記されています。
◆光害
軌道上を周回する人工衛星の数が増えるにつれて、夜空の見え方もこれまでとは違ったものになると指摘されています。Boley氏らが2021年9月にプレプリントサーバーのarXivに掲載した 論文では、将来的に夜空の光の8%が人工衛星に由来する可能性があると記されています。
これは天文学の研究にも影響を及ぼしかねない問題であり、世界的科学誌のScienceは「もはや地球上に天文台の建設基準を満たす場所がない可能性すらある」と報じています。
(地球全土の天体観測に人工衛星の生み出す「光害」が影響を与えていると判明 GIGAZINE)
多すぎる人工衛星がさまざまな問題を引き起こすとしても、すでに人工衛星によって提供されるサービスは人々の生活に必要不可欠なものとなっており、人工衛星の打ち上げを一律に禁止するといった対策は現実的ではありません。
(地球全土の天体観測に人工衛星の生み出す「光害」が影響を与えていると判明 GIGAZINE)
多すぎる人工衛星がさまざまな問題を引き起こすとしても、すでに人工衛星によって提供されるサービスは人々の生活に必要不可欠なものとなっており、人工衛星の打ち上げを一律に禁止するといった対策は現実的ではありません。
Boley氏は、「私たちは人工衛星と深く結びついています。人工衛星はサプライチェーン、金融取引、気象モニタリング、気候科学、グローバル通信、捜索や救助活動において重要な役割を果たしています」と指摘しています。
そのためBoley氏は、人々が人工衛星のもたらすメリットとデメリットの間で、ちょうどいいバランスを取る方法を見つけなくてはならないと主張し、「人工衛星打ち上げの完全な停止はうまくいくと思えません。
そのためBoley氏は、人々が人工衛星のもたらすメリットとデメリットの間で、ちょうどいいバランスを取る方法を見つけなくてはならないと主張し、「人工衛星打ち上げの完全な停止はうまくいくと思えません。
しかし、より優れた国際的ルールが作られるまで物事を減速させ、10万機の人工衛星の配置を遅らせるのが賢明です」と述べました。