加齢により萎縮していく脳を若く保つための『6つの習慣』バランスのいい食事、十分な睡眠、継続的な運動…そして一番大切なことは
婦人公論 より 241031 瀧靖之
記憶力の衰えや認知症が心配、という人に朗報です。何歳になってもワクワクしたり趣味に没頭したりすることは、脳の機能低下を抑えます。
自身も数多の趣味を持つ脳のスペシャリストに話を聞きました(構成=山田真理)
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◆今すぐ見直したい6つの習慣
私は、「生涯を通じ、いかに脳の健康を保つか」を研究テーマにしています。
その一環として、これまでに約16万枚におよぶ脳のMRI画像の研究や診断を行ってきました。
人間の脳は、誰でも加齢によって徐々に萎縮していきます。
それに伴い、「意味理解」「処理速度」「記憶」「知識」「流暢性」といった脳の認知力(高次認知機能)も低下してしまうのです。
脳の萎縮は20代後半から少しずつ始まりますが、萎縮が速い人と、遅い人に分かれていきます。その差に大きく影響するのが日々の生活習慣です。
たとえば過度の飲酒や喫煙は、脳の萎縮を促進。
また、糖尿病や脂質異常症のような動脈硬化に関わる病気は血管の老化を進め、脳の血流が低下することで神経細胞の減少を招くのです。
ほかに過度のストレス、睡眠不足、変化や刺激の少ない生活も脳のさまざまな部分の萎縮に繋がることがわかっています。
そうした萎縮を少しでも遅らせ、脳の健康を維持していくためにおすすめの6つの習慣をお伝えしましょう。
(1) バランスのいい食事。多くの品目をまんべんなく食べること、腸内環境を整えることが脳の健康に役立ちます。「脳に良い」などといわれる特定の食品ばかりを食べるのは、脳にとって逆に良くありません。
(2) 十分な睡眠。脳の疲れを取るだけでなく、アルツハイマー型認知症の原因といわれる老廃物の排出を促す役割があります。6時間以上の睡眠を心がけましょう。
(3) 運動は、無理なく継続することが大切。
全身を動かす早歩きや軽いジョギングなどの有酸素運動を、1日30分、週2回行うのが理想です。ただ最近の研究では、散歩の途中で100mだけ早歩きをするといった低強度の運動でも、習慣化すると一定の効果があることが明らかに。
(4) コミュニケーションは、脳の健康維持に大切な習慣です。会話をするときに私たちは表情や声のトーンから相手の気持ちを理解し、適切な対応を取ろうとします。このとき脳の中ではあらゆる領域が活発に活動し、刺激を受けているのです。
食事や運動にもいえることですが、好きでないことをいやいや続けるのは脳の健康に良くありません。これをすると「嬉しい、楽しい」と思えるような習慣を持ち、
(5) 主観的幸福度を高めることが、ストレスを低下させて脳の健康維持に役立つことも明らかになっています。
最後に、脳にとって最高の習慣としておすすめしたいのが
(6) 趣味・知的好奇心を持つことです。脳内の情報処理や情報伝達を担う神経細胞には、使えば使うほど変化する「性」という特徴があります。新しく趣味を始めたり、上達したいと努力をすることで、脳が変化する力を高めることができるのです。
◆受動より能動、一人より仲間と
では具体的に、どんな趣味がいいのでしょうか。
ご自身が楽しむことができればどんな趣味でもいいのですが、脳にとってより良いのは受動的なものより能動的なもの。
スポーツならば、観戦だけでなく自分も体を動かす。
美術が好きなら、美術館めぐりより絵画や陶芸を習ってみる。
ガーデニング、料理、旅行など、自分から何か行動することで楽しめる趣味が、脳の健康維持に役立つといわれます。
運動の項でもおすすめしましたが,有酸素運動や軽い筋トレを趣味として楽しむことで,記憶を司る海馬の神経細胞の新生を促し,記憶力の向上に繋がるという研究結果があります。
また、テニスなど仲間と行うスポーツは、コミュニケーションの機会に。勝ち負けのあるスポーツでは、戦略を立てることも脳への刺激になるでしょう。
語学は、言語を司る領域をはじめ脳を大いに活性化します。その国の文化や歴史に興味を持ったり、名物料理のレストランを訪れたり、さらには旅行に出かけるなど好奇心が刺激され、行動の幅が広がるという意味でも非常にいい趣味といえます。
音楽は、脳の欲求にかかわる「報酬系」と呼ばれる領域を刺激し、幸福感やモチベーションを上げる効果が。近年では認知症の予防や進行抑制に活用されています。
私はピアノが趣味なのですが、楽器演奏は手指を動かすことが脳への刺激になるだけでなく、楽譜を理解して弾くのは実行機能、曲を奏でるという創造性が前頭葉の働きを高めるなど、いいこと尽くめです。
近年の研究の一つに、「趣味と回想(ノスタルジー)が脳に与える効果」があります。
たとえば若い頃に好きだった曲を、友だちとカラオケで歌う。
夫婦の思い出の場所へ旅行する。昔の趣味を再開する。
そうして「楽しかったあの頃」を懐かしみ、主観的幸福度を高めることが、脳を活性化するのです。
新たな趣味に挑戦するのは、ストレスもそれなりにかかるもの。
気軽に始めて、面白そうなら続ける、合わないと思えばやめる。
三日坊主でも構わないので、まずはいろいろと試して、自分に合った趣味を見つけてはいかがでしょうか。