【日本の造船業】世界シェア1位から3位に転落した理由
ダイヤモンドonlain より 210831宮路秀作
世界の「今」と「未来」が数字でわかる。印象に騙されないための「データと視点」 人口問題、SDGs、資源戦争、貧困、教育――。膨大な統計データから「経済の真実」に迫る! データを解きほぐし、「なぜ?」を突き詰め、世界のあり方を理解する。
書き手は、「東大地理」を教える代ゼミのカリスマ講師、宮路秀作氏。日本地理学会の企画専門委員としても活動している。『経済は統計から学べ!』を出版し、「人口・資源・貿易・工業・農林水産業・環境」という6つの視点から、世界の「今」と「未来」をつかむ「土台としての統計データ」をわかりやすく解説している。
⚫︎日本、中国、韓国に三つ巴状態!
高度経済成長時代、日本の主力産業は鉄鋼業や造船業、アルミニウム工業といった重厚長大型産業でした。1960年代後半、日本の造船業は飛躍的な発展を遂げました。
日本の造船竣工量は1965年の553万総トンから、1973年の1419万総トンへとおよそ3倍に増加。世界シェアの48.5%を占めました。
この間、船舶輸出量は1965年の299万総トンから1973年の968万総トンへと急速な伸びを示し、花形の輸出産業として日本経済を支えていました。
これは、この間の世界経済の成長による海上輸送の規模拡大のみならず、1967年の第三次中東戦争にともなうスエズ運河の閉鎖も影響しています。
スエズ運河の閉鎖は海上輸送ルートの長距離化を発生させ、特に鉱油兼用船の建造需要を生み出しました。大型タンカーの需要が高まり、早くから大型船の建造体制を整えていた日本には大変有利でした。
日本の造船業は長崎県や瀬戸内地方に集中しています。長崎県はリアス海岸が発達して入り江が深く、波が穏やかであるため大型船の建造に適しています。瀬戸内地方は南北を山地に囲まれて、日本の中では年降水量が少ない気候です。
船の建造は溶接をともない、また外での作業が多いことから晴天日数の多い地域が選好されます。
⚫︎中国と韓国が台頭。今後の世界の動きは?
世界の造船竣工量(2019年)は、中国、韓国、日本の3ヵ国で92.2%を占めます。長らく日本が世界最大でしたが、2000年代に中国と韓国が急成長を遂げました。
韓国は第二次世界大戦後に建国されますが、初代大統領の李承晩が海運業を重要視し、1960年代の「造船5ヵ年計画」により造船事業が始まり、現在にいたります。
海上荷動き量は増加傾向にありますが、リーマン・ショック以降、2011年をピークに新規造船受注量は減少傾向にあります。
現在、新型コロナウイルスの影響で石油価格が下落傾向にありますが、エネルギー関連企業は二酸化炭素排出量が少ない液化天然ガス関連事業に力を入れていて、LNG専用船の需要は増大すると考えられています。
LNGは天然ガスをマイナス162℃で加圧・圧縮して液状にしたもので、液状化の過程で酸化物が除去されるためクリーンエネルギーとして認識されています。
LNG専用船は、マイナス150℃を下回る極低温タンクに天然ガスを保存するだけの強度が求められるため、高い建造技術を要します。かつては日本企業の得意分野でしたが、現在では中国や韓国でも建造されています。
2021年1月、日本で造船業界最大手の今治造船と2位のジャパンマリンユナイテッドの資本提携によって「日本シップヤード」が設立されました。中国や韓国に対抗しようとしていますが、道のりは険しそうです。
2020年の新規受注は、前年比で73%も減少しています(韓国は16%、中国は19%減少)。これは日本の造船業界の技術者不足が背景にあると考えられています。
(本原稿は、書籍『経済は統計から学べ!』の一部を抜粋・編集して掲載しています)
@宮路秀作
代々木ゼミナール地理講師、日本地理学会企画専門委員 鹿児島市出身。「共通テスト地理」から「東大地理」まで、代々木ゼミナールのすべての地理講座を担当する実力派。地理を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。生徒アンケートは、代ゼミ講師1年目の2008年度から全国1位を獲得し続けており、また高校教員向け講座「教員研修セミナー」の講師や模試作成を担当。いまや「代ゼミの地理の顔」。2017年に刊行した『経済は地理から学べ!』はベストセラーとなり、これが「地理学の啓発・普及に貢献した」と評価され、2017年度の日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」にも加わり、2021年より日本地理学会企画専門委員会委員となる。「Yahoo! ニュース」での連載やラジオ出演、YouTubeチャンネルの運営など幅広く活動。
著者からのメッセージ
はじめまして、宮路秀作と申します。代々木ゼミナールで地理講師をしています。この度『経済は統計から学べ!』を出版しました。
本書の目的は、「人口」「資源」「貿易」「工業」「農林水産業」「環境」という6つの切り口から知られざる統計データを示し、”経済の真実”に迫ることです。現在注目されているSDGsの問題にも切り込みます。
みなさんは学生時代、「歴史」や「地理」の授業で、多くの統計を丸暗記してきたはずです。私が小学生のころは「世界一の米輸出国はタイ」と習いました。しかし現在、インドがタイを抜きました。世界各国の人口や資源の産出量、工業製品の生産量、穀物の輸出入量など、さまざまな統計は日々変化しています。本書を通して、ぜひ知識をアップデートしてください。
経済を正しく理解するには、何より「土台としての統計」が大切です。統計のドラマティックな変化を見ていくと、経済は一気に面白くなります。
現代世界は、自分の生活や社会、国を幸せにするために鼻息の荒い人たちが日夜努力をする社会の集合体です。そしてその結果こそが、統計データであるといえます。
統計データを丸暗記するのではなく、鼻息の荒い人たちの熱い息吹を感じてほしい。だからこそ、本書では統計データの背後に見え隠れする、彼らの経済活動を詳細に追いかけました。
本書を読み終えるころには、これまで頭の中でバラバラになっていた知識が結合し、「1枚の絵」として完成しているはずです。そのとき、みなさんは「経済の真実」に近づいているでしょう。
【『経済は統計から学べ!』の章構成】
序章 経済を読み解く「6つの視点」とは?
1章 人口とデーターー残酷な未来と課題
2章 資源とデーターー争奪戦はさらに激しく
3章 貿易とデーターー国家間の思惑が透ける
4章 工業とデーターー「世界の工場」の行く末
5章 農林水産業とデーターー人類は生き残れるか
6章 環境とデーターー神が与えた「地の利」