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日本が先行しているアンモニア発電は脱炭素の切り札となるか 202111

2021-11-10 12:08:00 | なるほど  ふぅ〜ん

日本が先行しているアンモニア発電は脱炭素の切り札となるか
  EnergyShift編集部 より 211110


 燃やしても二酸化炭素を出さないアンモニアを発電に活用する動きが加速している。2021年10月から石炭に代わる脱炭素燃料として、日本最大の石炭火力発電所での燃焼実験がはじまった。
 経済産業省は最大700億円を投じて、2030年までにアンモニアだけで発電する技術を確立させる目標を掲げる。アンモニアは脱炭素の切り札となりうるのか。

⚫︎アンモニア発電とは
 政府は、今年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画の電源構成に、水素やアンモニアによる発電をはじめて盛り込んだ。
 水素と窒素の化合物であるアンモニアは燃えても、下記の化学式の通り、窒素と水しか生成しない。
     4NH3+3O2→2N2+6H2O

 既存の石炭火力発電所で、アンモニアを粉状の石炭に混ぜて燃やすと、アンモニアを混ぜた分だけ、CO2排出量を減らすことができるため、石炭火力に代わる新たな発電方式として期待が高まっているからだ。

 だが、燃やしてもCO2を出さないという点では、水素も同じ。では、なぜ、アンモニアを使うのか。水素の沸点がマイナス252.6℃であるのに対し、アンモニアはマイナス33℃。つまり、液化しやすく取り扱いやすい。また輸送や貯蔵のインフラも整っている。
 しかも、アンモニアは製造技術が確立されており、化学肥料の原料や樹脂、殺虫剤、火薬の原料として、国内ですでに年間約108万トン(2019年)使用されている。水素より実用的で、アンモニアをそのまま火力発電に転用できれば、そのメリットは大きい。

◆日本が先行しているアンモニアを使用した発電。世界初の燃焼試験も・・・

⚫︎世界初の燃焼試験がはじまった
 石炭からの燃料転換に向け、日本でもアンモニア発電の実証試験が2021年10月からはじまった。
 東京電力ホールディングスと中部電力が共同出資するJERAは、大手機械メーカーのIHIと協力して、日本最大の石炭火力発電所である、碧南石炭火力発電所(発電出力800万kW)で世界初の燃焼試験をはじめた。

 JERAは、まずは少量の混焼からはじめ、2024年度にはアンモニアの比率を20%まで引き上げ、CO2の排出を削減する計画だ。そして2050年の脱炭素に向け、アンモニア100%の火力発電を目指す。

 一方、ガス体であるアンモニアは石炭だけではなく、天然ガスの代替燃料としての利用も期待されている。

 三菱重工は、100%アンモニアで稼働するガスタービンの実用化に向け、4万kW級のガスタービン開発に乗り出している。
 ところが、アンモニアは燃焼時にCO2が出ない一方、有害な窒素酸化物(NOx)が出ることが課題となっている。三菱重工では空気の量を調整することでNOxの発生を抑え、2025年以降に実用化し、発電所へ導入する計画だ。

 アンモニアを使った発電技術は日本が先行しており、海外展開も期待されるだけに、日本政府も支援強化を図っている。
 経済産業省は脱炭素技術の開発や普及を促す国の2兆円基金から最大700億円を投じ,
2030年度までにアンモニア100%発電の技術を確立し,2040年代に実用化する目標を掲げる。

 日本でアンモニア発電に対する動きが加速する背景には、火力発電、とりわけCO2排出量が多い石炭火力への国際的な批判が高まっていることがある。

 日本も2030年までに効率の悪い石炭火力を廃止する方針だが、まだ150基(2020年7月時点)の発電所があり、電源構成の32%を占めている。
 さらに天候などで出力が変動する再生可能エネルギーを調整する役割があるとして、2030年時点でも19%の電源を残さざるをえない状況だ。
 そのため、既存の石炭火力を活用しながら、CO2排出量を可能な限り減らすためにアンモニア発電の実用化が急がれている。
 さらに、アンモニア発電の技術が確立できれば、石炭火力への依存度が高い、アジア各国に輸出し、CO2の排出量を削減できる可能性が広がる。

ただし、普及に向けては残された課題も多い。

◆普及に向けた2つの課題・・・

⚫︎普及に向けた課題とは何か
 課題のひとつが、供給量だ。
世界のアンモニア生産量は年間2億トン程度で、貿易量は2,000万トンにとどまり、日本の消費量は約108万トン。
 一方、石炭火力1基に20%のアンモニアを混ぜる場合、年間50万トンのアンモニアが必要になり、わずか2基で今の国内消費量に相当してしまう。
 国内生産だけではまかないきれず、安定調達に向けては世界的な供給網を構築する必要がある。

 二つ目の課題が、アンモニアの製造過程にある。
アンモニアは400℃〜500℃の高温、しかも、100気圧〜300気圧という高圧下で窒素と水素を合成して、製造される。窒素は空気中に大量にあるが、問題は水素だ。
 現状は石炭や天然ガスを改質してつくった水素を原料としている。

 つまり、化石燃料由来のアンモニアを使う限り、脱炭素燃料とはいえず、アンモニア発電を完全な脱炭素電源とするためには、水から再生可能エネルギーを使った電気分解で水素を取り出すグリーン水素や、製造過程で出てきたCO2を地中に埋めるブルー水素を使うことが欠かせない。
 つまり、グリーン水素やブルー水素の供給が拡大しなければ、カーボンニュートラルなアンモニア発電は実現できないというわけだ。
 アンモニアの脱炭素化に向けた取り組みは、原油や天然ガス、石炭の産出国である中東やオーストラリアなどではじまりつつある。

⚫︎産油国ではじまったグリーンアンモニア製造
 産油国のアブダビでは化石燃料からの構造転換に向けて、グリーンアンモニア製造のプロジェクトに取り組む。80万kWの大規模な太陽光発電所の電気を使って、水を電気分解し、年間4万トンのグリーン水素をつくり、この水素から20万トンのアンモニアを合成するという。
 世界有数の石炭とガスの産出国であるオーストラリアでも、Asian Renewable Energy Hubと呼ばれる計画が進行中だ。2,600万kWの風力発電、太陽光発電のうち、2,300万kWの再エネから大量のグリーン水素やグリーンアンモニアの製造を目指している。

 このほか、欧州では洋上風力の電気を利用したグリーン水素・グリーンアンモニアの計画が複数進行している。

 IEA(国際エネルギー機関)は、世界が2050年カーボンゼロを本気で目指すのであれば、2030年までに約18EJ(エクサジュール、ジュールの10の18乗)のブルー水素およびグリーン水素が必要となるが、現状の政策ではまったく足りないと予想している。

2030年のシナリオ別の低炭素水素および水素ベースの燃料供給

出典:IEA(国際エネルギー機関)

◆日本は世界をリードできるのか・・・

⚫︎日本も安定調達に向け供給網を構築へ
 日本もアンモニアの安定調達に向け動き始めた。政府は天然ガスなどの産出国であり、大量の再エネも利用できる可能性がある中東などで生産段階から日本企業が関わることで、供給量の確保を急ぐ。

 JERAと資源開発企業INPEXは、UAE(アラブ首長国連邦)の国営石油会社と連携してアンモニアを製造、輸入し、火力発電の燃料としての利用を目指している。
 提携にあたっては経済産業省が仲介役を果たした。

 伊藤忠商事は東シベリアからアンモニアを日本に輸送しようと、事業化調査を進めている。IHIは、マレーシア最大の電力会社、テナガ・ナショナルと提携し、アンモニア発電を共同で取り組む方針だ。再エネを使ったアンモニア製造も実施する。
 今後も日本が先行するアンモニア発電技術をもとに、石炭火力への依存度が高いアジア各国との連携は深まる見込みだが、政府にはグリーンアンモニアの確保に向けた新たな燃料・エネルギー外交が求められている。

 経産省の試算では、発電コストは水素と比べれば大幅に安いが、石炭や天然ガスよりは高く、コスト低減も欠かせない。
 また再エネをそのまま使うのではなく,水素をつくり,その水素からアンモニアを合成するため,エネルギー効率も悪い。
そのため,電力需給がひっ迫する冬や夏など,特定の季節に使うといった工夫も必要だろう。

 アンモニア発電は、将来のカーボンゼロ発電としてその注目度は高い。
 しかも、日本が世界に先行する技術でもあり、マレーシアでの展開もはじまった。
 コストや効率性、資源調達など課題は抱えるものの、官民あげての技術開発に今後も期待したい。

出典:経済産業省

(Research:本橋恵一)

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