“クレイジー”な日本の避難所を救う 「ムービングハウス」とは何か
ITmedia Online より 240110 窪田順生
世界有数の「地震大国」というわりに、なぜこの分野はいつまでも進歩しないのか。
1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」による被災者の多くが、いまだ体育館に身を寄せて、冷たい床にマットを敷いて雑魚寝をするような形で過ごしていることだ。
⚫︎「体育館で雑魚寝」スタイルが続く被災地
外国人から「クレイジー」と絶句される日本の避難所
これは続発する地震で恐怖や不安のどん底に追いやられて、体やメンタルがボロボロになっている人々が過ごすにはあまりに過酷な環境だ。実際、避難所に身を寄せたことで「2次被害」ともいう経験をしている人が少なくない。
『地震後に近くの学校に避難した自営業の50代男性は「被災者で混み合い玄関で寝るしかなかった」と話す。一夜を明かした後は帰宅して発電機と備蓄していた水や食料でしのいでいる。「余震は怖いが、人の多い避難所では気持ちが落ち着かない」』(日本経済新聞 1月7日)
気持ちが落ち着かないどころか最悪、命まで奪われてしまう。石川県が1月9日に発表したところによれば、珠洲市内で避難生活に伴う体調悪化などで亡くなる「災害関連死」が6人発生しているという。ただ、このような悲劇は起こるべくして起きている。
実は以前より日本の避難所は、先進国の中でもかなり劣悪な環境だという指摘が多い。
避難所の環境改善を訴えている新潟大学大学院 医歯学総合研究科 特任教授の榛沢和彦氏は、過去のインタビュー記事『「体育館を避難所にする先進国なんて存在しない」災害大国・日本の被災者ケアが劣悪である根本原因』(プレジデントオンライン 2022年3月10日)の中でこのように述べている。
『3.11の避難所を撮影した写真をアメリカやヨーロッパの支援者に見せたところ「クレイジー……」と絶句された経験があります』
東日本大震災の震災関連死は令和5年3月31日時点で3794人だが、その原因の1つに「体育館で雑魚寝」というクレイジーな日本の避難所を挙げる専門家もいる。
もちろん、このような厳しい指摘を受けて、「体育館の雑魚寝」を少しでも快適にしようという取り組みが進んでいる。今回も一部の体育館では、プライバシーを守るためのテントや段ボールベッドが設置されている。また、輪島市の避難所となっている輪島中学校の体育館には、名古屋工業大が開発し、断熱性などに優れた段ボール製の簡易住宅「インスタントハウス」が設営されたという。
ただ、いくらテントやついたてをしたところで、「体育館の雑魚寝」という事実は変わりがない。日本の避難所の“クレイジー”さが劇的に改善されるわけではないのだ。
⚫︎プライバシーの問題だけではない
筆者も実際にある被災地を取材していた時にプライバシーテントの中に入ったことがあるが、あそこで長時間過ごすのはかなり息苦しい。プライバシーの問題は解決されるが、やはり音の問題がある。避難所でよく聞くのは、子どもや乳幼児の声、周囲の人々のおしゃべりや生活音が常にあって、ただでさえ疲弊したメンタルがさらに追い詰められるといった悩みだ。
つまり、これらのテントでは「体育館で雑魚寝」という状況を改善させているだけであって、心身を追い詰められた被災者の心身を守る点では不十分というわけだ。
では、このように被災者を2次被害的に苦しめる「体育館で雑魚寝」という避難スタイルをどう解決すべきか。個人的には国が「ムービングハウス」の普及を加速させていくべきだと考えている。
⚫︎「ムービングハウス」とは
ご存じの方も多いだろうが、ムービングハウスとは国際規格の海上輸送コンテナと同じサイズ(長さ12メートル、幅2.4メートル)の移動式木造住宅のことだ。コンテナと同サイズということで大型トレーラーに積載してそのまま輸送できるので、これまで多くの被災地で仮設住宅などとして活用されている。
コンテナと同サイズの「ムービングハウス」(出典:日本ムービングハウス協会の公式Webサイト)
ムービングハウス最大の強みは「スピード」だ。完成されている住宅なので交通が確保できればすぐにトレーラーに乗せて被災地に行けるし、設置後は電気・上下水道、ガスに接続すれば、すぐに生活ができる。これが「体育館で雑魚寝」を強いられる被災者たちにとって、どれほどありがたいことかは説明の必要がないだろう。
「ムービングハウス」1K(19.0平米)タイプの間取りイメージ(出典:日本ムービングハウス協会の公式Webサイト)
「ムービングハウス」2DK(27.1平米)タイプの間取りイメージ(出典:日本ムービングハウス協会の公式Webサイト)
『3.11の避難所を撮影した写真をアメリカやヨーロッパの支援者に見せたところ「クレイジー……」と絶句された経験があります』
東日本大震災の震災関連死は令和5年3月31日時点で3794人だが、その原因の1つに「体育館で雑魚寝」というクレイジーな日本の避難所を挙げる専門家もいる。
もちろん、このような厳しい指摘を受けて、「体育館の雑魚寝」を少しでも快適にしようという取り組みが進んでいる。今回も一部の体育館では、プライバシーを守るためのテントや段ボールベッドが設置されている。また、輪島市の避難所となっている輪島中学校の体育館には、名古屋工業大が開発し、断熱性などに優れた段ボール製の簡易住宅「インスタントハウス」が設営されたという。
ただ、いくらテントやついたてをしたところで、「体育館の雑魚寝」という事実は変わりがない。日本の避難所の“クレイジー”さが劇的に改善されるわけではないのだ。
⚫︎プライバシーの問題だけではない
筆者も実際にある被災地を取材していた時にプライバシーテントの中に入ったことがあるが、あそこで長時間過ごすのはかなり息苦しい。プライバシーの問題は解決されるが、やはり音の問題がある。避難所でよく聞くのは、子どもや乳幼児の声、周囲の人々のおしゃべりや生活音が常にあって、ただでさえ疲弊したメンタルがさらに追い詰められるといった悩みだ。
つまり、これらのテントでは「体育館で雑魚寝」という状況を改善させているだけであって、心身を追い詰められた被災者の心身を守る点では不十分というわけだ。
では、このように被災者を2次被害的に苦しめる「体育館で雑魚寝」という避難スタイルをどう解決すべきか。個人的には国が「ムービングハウス」の普及を加速させていくべきだと考えている。
⚫︎「ムービングハウス」とは
ご存じの方も多いだろうが、ムービングハウスとは国際規格の海上輸送コンテナと同じサイズ(長さ12メートル、幅2.4メートル)の移動式木造住宅のことだ。コンテナと同サイズということで大型トレーラーに積載してそのまま輸送できるので、これまで多くの被災地で仮設住宅などとして活用されている。
コンテナと同サイズの「ムービングハウス」(出典:日本ムービングハウス協会の公式Webサイト)
ムービングハウス最大の強みは「スピード」だ。完成されている住宅なので交通が確保できればすぐにトレーラーに乗せて被災地に行けるし、設置後は電気・上下水道、ガスに接続すれば、すぐに生活ができる。これが「体育館で雑魚寝」を強いられる被災者たちにとって、どれほどありがたいことかは説明の必要がないだろう。
「ムービングハウス」1K(19.0平米)タイプの間取りイメージ(出典:日本ムービングハウス協会の公式Webサイト)
「ムービングハウス」2DK(27.1平米)タイプの間取りイメージ(出典:日本ムービングハウス協会の公式Webサイト)
車中泊の継続や体育館での生活は災害関連死や健康被害のリスクを高めるといわれている。ムービングハウスを早急に被災地に送ることは、命を守ることでもあるのだ。
⚫︎自治体も注目
ということで今、多くの自治体がムービングハウスに注目している。ムービングハウスの普及・推進を進めている日本ムービングハウス協会の公式Webサイトによれば現在、102の自治体が協定を結んでいる。残念ながら、石川県は協定を結んでいないが、以下のように声がけをしている。
『一般の被災者も入居する仮設住宅については、県はプレハブ協会やムービングハウス協会に協力を依頼。建設候補地は県有地の活用も含め検討する。今後、被災自治体側の要望を聞きながら戸数を決める方針だ』(北国新聞 1月5日)
プレハブ住宅は建てるのにどうしても時間がかかるし、多くの作業員や重機が入らなくてはいけない。ホテルや旅館を被災者の避難所として活用するには、休業補償をどうするのかなど、どうしても調整に時間がかかる。
体育館などでの過酷な避難生活が長引けば長引くほど、被災者は心身を蝕(むしば)まれていく。つまり、災害関連死をこれ以上出さないためには「時間」との勝負なのだ。ムービングハウスは移動できるのだから学校の校庭や、自治体が管理する公園などに急いで設置すれば、どれほどの人々が助かるか。
熊本県球摩村で設置した多目的広場仮説団地イメージ(出典:日本ムービングハウス協会の公式Webサイト)
設置イメージ(出典:日本ムービングハウス協会の公式Webサイト)
⚫︎自治体も注目
ということで今、多くの自治体がムービングハウスに注目している。ムービングハウスの普及・推進を進めている日本ムービングハウス協会の公式Webサイトによれば現在、102の自治体が協定を結んでいる。残念ながら、石川県は協定を結んでいないが、以下のように声がけをしている。
『一般の被災者も入居する仮設住宅については、県はプレハブ協会やムービングハウス協会に協力を依頼。建設候補地は県有地の活用も含め検討する。今後、被災自治体側の要望を聞きながら戸数を決める方針だ』(北国新聞 1月5日)
プレハブ住宅は建てるのにどうしても時間がかかるし、多くの作業員や重機が入らなくてはいけない。ホテルや旅館を被災者の避難所として活用するには、休業補償をどうするのかなど、どうしても調整に時間がかかる。
体育館などでの過酷な避難生活が長引けば長引くほど、被災者は心身を蝕(むしば)まれていく。つまり、災害関連死をこれ以上出さないためには「時間」との勝負なのだ。ムービングハウスは移動できるのだから学校の校庭や、自治体が管理する公園などに急いで設置すれば、どれほどの人々が助かるか。
熊本県球摩村で設置した多目的広場仮説団地イメージ(出典:日本ムービングハウス協会の公式Webサイト)
設置イメージ(出典:日本ムービングハウス協会の公式Webサイト)
さて、こういう話をすると決まって、「莫大な数の被災者がでる中で被災地に大量にムービングハウスを運び込むなど現実的ではない」とか言う人がいるが、運び込むと思うからそういう結論になる。
全国の自治体で「備蓄」をしておけばいいのだ。
⚫︎平時はホテル代わりに
例えば、石川県が数千棟単位でムービングハウスを備蓄しておく。平時は県内の市町村に分散して、それそれの職員の研修や出張の宿泊施設として活用したり、県内で大型イベントがあった時などのホテル代わりにしたりすればいい。実際、ムービングハウスを活用したホテルもある。
そして石川県内で何か災害が発生すれば、その地域にムービングハウスを集結させる。それだけでは足りないというのなら、近隣の都道府県のムービングハウスも持ってくる。そこで被災者に生活をしてもらうのだ。
復興が進み“お役御免”になったムービングハウスは、それぞれの場所に戻って再びホテルや宿泊施設として活用する。このようにそれぞれの都道府県で「防災備蓄品」として大量に購入しておけば、移動は最小限で済むし、互いにムービングハウスの貸し借りもできる。
テレワーク施設として活用している事例も(出典:日本ムービングハウス協会の公式Webサイト)
「現実的ではない」としてムービングハウスの可能性から目を背けているうちは、われわれはいつまでもたっても先進国から「クレージー」と驚かれる「体育館で雑魚寝スタイル」の避難を続けるしかない。
⚫︎日本中にムービングハウスを
熊本県球摩村での「さくらドーム仮説団地」設置イメージ(出典:日本ムービングハウス協会の公式Webサイト)
日本では南海トラフ巨大地震が発生する可能性がある。多くの人が亡くなるし家も失う。そして、ボロボロに打ちひしがれた被災者は、体育館で冷たい床にマットを敷いて生活をしなくてはいけない。
幸運にもテントが与えられて、その中で段ボールベッドで寝ることができる人もいるだろう。しかし狭い居住スペースと生活音に疲れて、避難生活が長引けば長引くほど、心身が疲弊していく。予測されている被害規模から考えても、東日本大震災の震災関連死3794人以上の「避難生活で亡くなる人」が出るのは確実だ。
こんな「クレージー」な未来がすぐ近くに見えているのにわれわれは、「五輪だ、万博だ、過去最大の防衛費だ」と、国民の命を守ることと無縁なことに税金を使いすぎだ。
今からでもまだ間に合う。「気の毒だけれど地震が起きたら被災者は体育館で雑魚寝するのは当たり前」などというクレイジーな考え方は捨てて、国をあげて日本中にムービングハウスを「備蓄」すべきではないか。
全国の自治体で「備蓄」をしておけばいいのだ。
⚫︎平時はホテル代わりに
例えば、石川県が数千棟単位でムービングハウスを備蓄しておく。平時は県内の市町村に分散して、それそれの職員の研修や出張の宿泊施設として活用したり、県内で大型イベントがあった時などのホテル代わりにしたりすればいい。実際、ムービングハウスを活用したホテルもある。
そして石川県内で何か災害が発生すれば、その地域にムービングハウスを集結させる。それだけでは足りないというのなら、近隣の都道府県のムービングハウスも持ってくる。そこで被災者に生活をしてもらうのだ。
復興が進み“お役御免”になったムービングハウスは、それぞれの場所に戻って再びホテルや宿泊施設として活用する。このようにそれぞれの都道府県で「防災備蓄品」として大量に購入しておけば、移動は最小限で済むし、互いにムービングハウスの貸し借りもできる。
テレワーク施設として活用している事例も(出典:日本ムービングハウス協会の公式Webサイト)
「現実的ではない」としてムービングハウスの可能性から目を背けているうちは、われわれはいつまでもたっても先進国から「クレージー」と驚かれる「体育館で雑魚寝スタイル」の避難を続けるしかない。
⚫︎日本中にムービングハウスを
熊本県球摩村での「さくらドーム仮説団地」設置イメージ(出典:日本ムービングハウス協会の公式Webサイト)
日本では南海トラフ巨大地震が発生する可能性がある。多くの人が亡くなるし家も失う。そして、ボロボロに打ちひしがれた被災者は、体育館で冷たい床にマットを敷いて生活をしなくてはいけない。
幸運にもテントが与えられて、その中で段ボールベッドで寝ることができる人もいるだろう。しかし狭い居住スペースと生活音に疲れて、避難生活が長引けば長引くほど、心身が疲弊していく。予測されている被害規模から考えても、東日本大震災の震災関連死3794人以上の「避難生活で亡くなる人」が出るのは確実だ。
こんな「クレージー」な未来がすぐ近くに見えているのにわれわれは、「五輪だ、万博だ、過去最大の防衛費だ」と、国民の命を守ることと無縁なことに税金を使いすぎだ。
今からでもまだ間に合う。「気の毒だけれど地震が起きたら被災者は体育館で雑魚寝するのは当たり前」などというクレイジーな考え方は捨てて、国をあげて日本中にムービングハウスを「備蓄」すべきではないか。
💋今更ですが明らかに行政の不作為で立法の怠慢!
地震大国で災害大国の本邦は自明なのに、未だに推進せず!
古くから年100億を越す無駄遣いの地震予知予算を使っていれば…
災害そのものに予算を使うが道理!
キャンピングカーとかログハウス等、他にもストック出来る方法論はあるのに…
マスコミももっと普通に被災者支援報道を積極的に、現地を見れば、自分に置き換え思考し発言を!