開発者が語るがん「光免疫療法」 治療の簡便さと費用の安さが画期的
Newポストセブン より 220311
「光免疫療法」を開発した小林久隆博士
今はまだすべてのがんに適応しているわけではないが、5年後には……そんな期待を抱かせる革新的な治療法の研究が進んでいる──。がん治療法は長年にわたって手術、抗がん剤、放射線の「3大療法」が標準とされてきたが、新たな治療法の登場により、これまで3大療法では命が救えなかった症例に光が差している。
【図解】薬剤使用→近赤外線照射、という、「光免疫療法」の仕組み
2020年9月、ビッグニュースとなったのが世界初となる「光免疫療法」の日本での承認だ。毎日新聞医療プレミア編集長で『がん治療の現在』の著書がある永山悦子氏が、説明する。
「光免疫療法は、がん細胞にだけ結びつく抗体薬を患者に投与し、その後、光を当てて薬に化学変化を起こさせ、がん細胞をピンポイントで壊す画期的な治療法です。免疫療法に次ぐ、“第5のがん治療法”と呼ぶ人もいます」
楽天グループ創業者・三木谷浩史氏が設立した「楽天メディカル」と、米国立衛生研究所・国立がん研究所(NIH/NCI)主任研究員の小林久隆博士が開発したその薬はアキャルックスと名付けられた。
現在の適応は顔や首にできる頭頸部がんだが、全国約40の病院で治療が可能となり、昨年末までに約40回の治療が実施されたという。『親子で考える「がん」予習ノート』の著者で国際医療福祉大学病院教授の一石英一郎医師は、こう話す。
「この薬は効果が高く副作用が少ない上に、治療の『簡便さ』と、費用が『安価』で済むところが画期的です。地域や施設でバラつきがある日本のがん治療を『どこでも、どんな医師でも効果が望める』ものに変える可能性があります」
放射線治療や重粒子線治療、中性子捕捉療法(BNCT)もがん細胞に狙いを定め光化学的に行なう治療法だが、用いる機器が数億~数百億円と高価で、実施できる施設は限られる。一方、小林博士の「光免疫療法」に用いるレーザー光発生装置は、1台約300万円程度と桁違いに安い。
この「光免疫療法」を開発した米国の小林博士に話を聞くことができた。
実用化され1年余りが経ち、医師や患者からの反響を聞くと「テレビ番組を観た印象では、概ねポジティブに考えていただいているよう」と控えめだが、光免疫療法には大きな自信を覗かせた。
「これまでのがん治療ではなかなか実現できなかった『がん細胞だけを選べる薬』を、『光を当てないと薬が機能せず、がん細胞を壊す方向に動かない』形で作りました。
皆さんご存じの新型コロナ治療薬はウイルスにくっつく抗体で効きますが、今回は『がんにくっつくが正常な細胞にはつかない抗体』を使い、それに『IR700』というがん細胞を壊す仕組みを持つ物質を載せました。
『IRIS700』は細胞にくっついただけでは働かず、時間が経てば水に溶けて尿として排出されるような種類の物質です。がん細胞にくっついたと思われる辺りで、テレビのリモコンにも使われる人体に無害な『近赤外光』を当てると、5~6分でがん細胞は物理的にパンッと破裂し、壊れます」
狙ったがん細胞を破壊するだけでは終わらない。
「バラバラになったがん細胞は、身体の免疫が認識しやすくなります。光を当てて死滅できるのは通常6~9割のがんですが、そこから免疫細胞が活性化し、転移がんや再発がんを攻撃するようになる。また、光免疫療法で“がんの共犯者”である免疫抑制細胞を破壊すれば、がん細胞の防御を崩すことができ、数十分のうちに本来持つ免疫システムが、がん細胞に対して働き始めます」(小林氏)
患者はどのように治療を受けるのか。
「現在の適応は再発がんの方に限られるため、入院中の患者さんが主です。アキャルックスを点滴投与後、翌日に手術室に移動し、患部に近赤外光を当てます。患部が深い時は超音波などで見ながら、光ファイバーを仕込んだ針を刺して光を数分当てます。処置後は1週間くらい、太陽光を避けてもらいます」(小林氏)
難しい手技は必要とされないため、どの医師でも行なえるという。今後は適応拡大が望まれる。
「食道がんと胃がんはすでに治験が始まっています。今後は子宮頸がん、肺がん、大腸がん、難治性の乳がんなどは適応拡大ができそうな話もあります。また、前立腺がんに対する抗体を新たに作ることも考えています」(小林氏)
※週刊ポスト2022年3月18・25日号
「この薬は効果が高く副作用が少ない上に、治療の『簡便さ』と、費用が『安価』で済むところが画期的です。地域や施設でバラつきがある日本のがん治療を『どこでも、どんな医師でも効果が望める』ものに変える可能性があります」
放射線治療や重粒子線治療、中性子捕捉療法(BNCT)もがん細胞に狙いを定め光化学的に行なう治療法だが、用いる機器が数億~数百億円と高価で、実施できる施設は限られる。一方、小林博士の「光免疫療法」に用いるレーザー光発生装置は、1台約300万円程度と桁違いに安い。
この「光免疫療法」を開発した米国の小林博士に話を聞くことができた。
実用化され1年余りが経ち、医師や患者からの反響を聞くと「テレビ番組を観た印象では、概ねポジティブに考えていただいているよう」と控えめだが、光免疫療法には大きな自信を覗かせた。
「これまでのがん治療ではなかなか実現できなかった『がん細胞だけを選べる薬』を、『光を当てないと薬が機能せず、がん細胞を壊す方向に動かない』形で作りました。
皆さんご存じの新型コロナ治療薬はウイルスにくっつく抗体で効きますが、今回は『がんにくっつくが正常な細胞にはつかない抗体』を使い、それに『IR700』というがん細胞を壊す仕組みを持つ物質を載せました。
『IRIS700』は細胞にくっついただけでは働かず、時間が経てば水に溶けて尿として排出されるような種類の物質です。がん細胞にくっついたと思われる辺りで、テレビのリモコンにも使われる人体に無害な『近赤外光』を当てると、5~6分でがん細胞は物理的にパンッと破裂し、壊れます」
狙ったがん細胞を破壊するだけでは終わらない。
「バラバラになったがん細胞は、身体の免疫が認識しやすくなります。光を当てて死滅できるのは通常6~9割のがんですが、そこから免疫細胞が活性化し、転移がんや再発がんを攻撃するようになる。また、光免疫療法で“がんの共犯者”である免疫抑制細胞を破壊すれば、がん細胞の防御を崩すことができ、数十分のうちに本来持つ免疫システムが、がん細胞に対して働き始めます」(小林氏)
患者はどのように治療を受けるのか。
「現在の適応は再発がんの方に限られるため、入院中の患者さんが主です。アキャルックスを点滴投与後、翌日に手術室に移動し、患部に近赤外光を当てます。患部が深い時は超音波などで見ながら、光ファイバーを仕込んだ針を刺して光を数分当てます。処置後は1週間くらい、太陽光を避けてもらいます」(小林氏)
難しい手技は必要とされないため、どの医師でも行なえるという。今後は適応拡大が望まれる。
「食道がんと胃がんはすでに治験が始まっています。今後は子宮頸がん、肺がん、大腸がん、難治性の乳がんなどは適応拡大ができそうな話もあります。また、前立腺がんに対する抗体を新たに作ることも考えています」(小林氏)
※週刊ポスト2022年3月18・25日号