ホルモンのような働きをする化学物質
ホルモンは,体内でメッセージを伝達する重要な化学物質です。ホルモンは血流を通して人体の他の部分へ移動し,体の成長や生殖周期など一定の機能を刺激したり抑制したりします。
興味深いことに,世界保健機関(WHO)の最近の新聞発表によると,「急増している一連の科学的証拠」が示すように,ある種の合成化学物質は,体内に取り入れられると,ホルモンの働きを有害なかたちでまねたり阻んだりして,その働きを妨害します。
そうした化学物質としては,PCB(下記、脚注参照),ダイオキシン,フラン,そして残留DDTを含む数種の殺虫剤があります。これらの化学物質は内分泌攪乱物質(環境ホルモン)と呼ばれ,体の中でホルモンの出てくる内分泌系の正常な働きを混乱させる可能性があります。
これらの化学物質がまねをするホルモンの一つに,女性ホルモンのエストロゲンがあります。医学専門誌のピディアトリックス(Pediatrics)に発表されたある研究は,
多くの少女の間で思春期が早まる傾向が増大しているが,それはエストロゲンを含む整髪剤や,エストロゲンに類似した環境化学物質と関係があるかもしれないと述べています。
男性も,成長段階の重要な時期に一定の化学物質にさらされると,悪影響を受けることがあります。ディスカバー誌(英語)のある報告は,「幾つもの実験が示すように,雄のカメやワニの成長段階の特定の時期にPCBを加えると,それらは雌や“中間型”の個体になる」と述べています。
さらに,毒性化学物質は免疫機構を弱めるため,動物はウイルスに感染しやすくなります。確かにウイルス感染は,かつてなく広範かつ急速に広まっているようで,とりわけイルカや海鳥など食物連鎖の高位に位置する動物についてはそう言えます。
人間の場合も,ホルモンのような働きをする化学物質によって最も大きな影響を受けるのは子供たちです。幾年も前,PCBに汚染された米ぬか油を摂取した日本の女性から生まれた子供たちは,
「身体精神的成長の後れ,活動低下や過活動を含む行動上の問題,異常なまでに小さい陰茎,平均より5も低い知能指数といった害を被った」と,ディスカバー誌は伝えていました。
オランダや北米で高レベルのPCBにさらされていた子供たちを対象に行なわれた調査でも,やはり身体精神的成長に関する同様の悪影響が認められました。
WHOによると,乳ガン,睾丸腫瘍,前立腺ガンなど,“ホルモンに敏感な”ガンが成人の間で増加していることも,化学物質と関係している可能性があります。
加えて,多くの国で,男性の平均精子数と精子の質が低下する傾向が長年続いているようで,これも化学物質の使用の増加と関係しているのかもしれません。ある国々では,平均精子数が過去50年間でほとんど半分に減少しています。
前の記事で,わたしたちは「実験台の世代」に属している,という一医師の言葉を引用しました。その医師はどうやら正しいようです。確かに,人間が造り出した化学物質の中には大きな見返りのあったものも少なくありません。
しかし,そうでなかったものもあります。ですから,害を及ぼしかねない化学物質に不必要に身をさらさないのが賢明です。意外かもしれませんが,わたしたちの家庭にもそうした化学物質の多くが存在する場合があるのです。
次の記事では,危険をはらむ化学物質から身を守るために何ができるか考えます。
[脚注]
1930年代以降盛んに使用されるようになったPCB(ポリ塩化ビフェニル)は,潤滑油,プラスチック,電気の絶縁油,殺虫剤,食器用洗剤,その他の製品に使われる200種以上の油性の化合物のグループから成ります。現在多くの国でPCBの生産は禁止されていますが,これまでに100万から200万㌧が製造されました。投棄された後に環境に流れ出したPCBによる有害な影響も生じています。