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小天使シリクの仕事は、天国における神の花園で、白いひなぎくを育てることでした。ひなぎくはとても規律正しい花で、それを雪のように白くすることは、正しいことをもっと正しくすることだったのです。
「まことの道は美しい。まことの道はすきとおる」
シリクは歌いながら、ひなぎくたちに、蜜を混ぜた水をやりました。川底からとってきた藻を乾かし、それをくだいて肥料にしました。時に吹き付ける冷たい風から守ってやるため、葦の茎で硬い布をこしらえ、それをついたてにしました。
「ああ、神の愛のために働くのは、なんと幸せなことだろう。このひなぎくたちがもっと白くなれば、まことの道がもっと世界に広がるのだ」
シリクは言いながら、ひなぎくの顔をもっと見るため、足を前に出しました。そのとき、ふと足の下で、何か小さな音がしました。シリクは気付いて足元を見ました。するとシリクは、自分の足が、小さなコオロギを踏んでいることに気付いたのです。
「おや、これはいけない」
シリクはあわてて、小さなコオロギを拾いました。コオロギは、シリクに踏まれて足を一本失っていました。シリクは突然泡がはじけるような悲しみを感じて、あわてて謝りました。
「ああ、ごめんよ、気付かなかったのだ。どうすればいいだろう」
足を失ったコオロギの気持ちを思うだけで、シリクの心は破れそうにつらくなるのでした。
「どうすればいいだろう。君の失った足はどこだろう」
シリクは足元の草むらを探って、コオロギの足を探しましたが、それはどうしても見つかりませんでした。シリクは涙を落としました。
「どうすればいいだろう。どうすればいいだろう。何かよい方法はないものか」
草むらを探しながら、シリクは言いました。するとシリクの指に、細い針のような薔薇の小枝が触ったのです。それはとても小さく、枯れていましたが、とげはなく、かすかに薔薇の香りを残していました。シリクは突然顔を明るくしました。
「そうだ、これを細工して、君の足にしてあげよう。わたしはすてきなものを作るのがうまいのだ。工房で長いこと、神の歌を奏でるオルゴールのばねを作る修行をしていたことがあるのだよ」
そういうとシリクは、片手の人差し指と中指を使って、小枝をちょいちょいといじりました。すると小枝は、たちまちのうちに、すてきなコオロギの足の形になったのです。
シリクはそれを、コオロギにつけてやりました。そして愛の呪文をコオロギにかけてやると、それはもう、立派なコオロギの足になったのです。コオロギは前よりも自分がすてきになったと言って、とても喜びました。
「ああ、よかった。本当によかった」
そう言ってシリクは、コオロギを放してやりました。コオロギは喜んで、天使のためにお礼の歌を一節歌って、草むらの中に消えていきました。
「よいことをするのは幸せだな。みんなが幸せになって、わたしの中にも幸せが満ちてくる。ずっとよいことをしていきたいな」
シリクはそう言って、またひなぎくの方に向き直りました。
(つづく)