ウィリアム・ドグーヴ・ド・ヌンク
原題「芸術家の母」。
これは偽物の人間である。他人から姿を盗み、自分とは違う自分を作り、その中に入っているわけだが、実に苦しそうな顔をしている。
何もないからだ。夫にも、子供にも、恵まれない。いることはいるのだが、思うように自分を愛してはくれない。何もいいことをしてくれない。
友達もおそらくいない。なぜならばその人生は盗んで得た人生だからだ。人はこの人を見て、何か違和感を感じ、決して親しもうとしないのだ。
影のように自分が薄っぺらなものになっていくのに、何をすることもできない。冷たい虚無感にむしばまれていく人生に、じっくりと浸かり込んでいくだけだ。
それはこの人が、何もしないからだ。だれも愛そうとしないからだ。だから何もないのである。
すべてを人からの盗みで得た。姿かたちも、よい人生も、環境も、ほどほどに豊かな暮らしも。だが何もないのだ。得たものはどんどん風にかすめとられるようになくなっていく。だが何もしようとしない。
恨むという感情さえまだ幼い魂は、虚無にたたまれていくばかりなのである。