真鍮の空気の奥で
眠っていた青い百合が
小さなつりがねそうのため息で
目を覚ます
樹脂を塗った海
動くことのない青磁の空
百合はそっと歩きだす
風の残した気配をたどり
死んだ船のそばを通り過ぎ
かすかな波の寝言をやりすごし
はたはたとひらめく
海の果てのほころびを抜けて
百合は世界の外へ
そっと抜け出していく
星々の夢の中で
燃えているガラス器の中の
金のネジにさわれるのは
ただその百合だけだったから
燃え尽きぬ明かりのような
金のネジを
水晶の布で磨いて
ちりちりとまきはじめる
するとおるごおるのように
空がまわりだし
太陽は小鳥のように
歌いながら舞い戻った
あくびをしながら
野を歩く少年のかたわらの
何げない草むらの奥に安らいで
百合はまた明日の朝のために
夢の中で水晶の布を織る
(花詩集・34、2006年3月)