ぶんやさんち

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大沢在昌著『海と月の迷路』(毎日新聞社)

2014-04-10 09:18:36 | 雑文
大沢在昌著『海と月の迷路』(毎日新聞社)久しぶりに本格的な推理小説を読み、久しぶりに興奮を覚えた。私自身が2~3年前に軍艦島に上陸し、島内を歩いた経験もあり、この作品に興味をいだいたのであったが、この島の様子を克明に描きつつ、密集した人口密度の高い人間関係の中で、いわば「部外者?」である派出所の若いお巡りさんの悪戦苦闘が興味深い。
以下、ポイントを書き出しておく。


◎港から西へ18.5キロ。定期船で1時間少し、石炭の三種が始まったのは江戸末期、明治時代に本格的な炭鉱として操業開始、昭和49年に閉山。国内でも有数の良質の石炭と言われていた。
◎昭和34年ころは、最盛期で24時間、三交代勤務で石炭を掘っていた。端島はあとからあとから継ぎ足すように建てられたアパートが迷路のようで、鉱員の生活にあわせるから、ひと晩中、明かりが消えることはなかった。海上に、こうこうと光の灯った窓が並んでいて、それが決して消えることがない、島の形ともあいまって、「軍艦島」岸と呼ばれるようになった。p10
◎島の大きさは南北480メートル、東西160メートル。歩き回れば、あっというまに一周できる。p28
◎ここに住民約5000人、島全体が一つの企業の所有である。島には小学校、中学校があり、病院も完備、公衆浴場は3~4箇所あって、24時間無料。映画館も食堂も飲み屋もある。

◎こうゆう状況において13歳の少女が満月の夜溺死し、その死体が翌日発見された。警察、医師等の所見は海中への転落による事故死とされた。その事件について主人公である派出所の若い警官である主人公は不審に思い、単独捜査が始まる。捜査は困難を極める。
物語の展開と結びは推理小説だから省く。
◎主人公の年齢は、敗戦のとき10歳(私と同じ歳である)。
その中で、非常に印象的な一文がある。そこだけは引用しておこう。

◎こうしてみると、島の中は上下左右に建物が蝟集(いしゅう、ハリネズミの針が密集している様)し、そのすきまを縦横に階段と通路が結んでいた。どこにいても、どこからか人の目が届くような地形になっていて、犯人が誰にも見とがめられることなく凶行に及べるとは思えなかった。
が、一方で、これほど何もかもが見えてしまう土地では、よほど奇異な行動をとるか、大声でもあげない限り、人は人に関心を抱かないのかもしれない。ここでは常に誰かが見え、誰かに見られているのだ。
人目を気にしていては暮らしていけないし、 また見るものすベてに気を回していては、 疲れてしまう。ここほど、 暮らしと労働が密接に結びついている士地は、おそらく世界中を探してもないだろう。一日中稼働しているベルトコンべアと海鳴りは、この島の風景の一部であるし、定刻のサイレンとともにヤマヘと移動する人の流れが、 浅い川底のように岩ならぬ建物と建物のあいだをすり抜けていく。
人の姿を見ない区画や、寄せつけない結界のような土地に人がいれば、それは目を惹くし、興味の対象ともなるだろう。だが他人の存在を常に感じざるをえないようなここでは、むしろ人は他人ヘの興味をもたなくなるのではないか。人が、人を、見えなくするのだ。p436

この文章がこの物語の鍵である。

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