ある冬の日の午後
小学校の帰り道、一人の子どもが他の子どもたちに罵られていた。
お前、ウザイんだよ。こっち来んな。
幽霊なんている訳ねぇだろ、嘘つくんじゃねぇよ。
嘘じゃないよ、本当にあそこに・・・。
後ろを歩く男の子は、用水の土手の上から斜め前方を指さす。
お前、ウゼぇんだよ。消えろっ!
今度嘘ついたらぶっ殺すかんなっ。
そう言って、後ろにいた彼を肩を小突いて、近寄るなとばかりに置き去りにして行った。
1人残された少年。
強い風が吹きつける中、彼が見つめる先には用水の濁った水が光っていた。
数年後
色白で物静かな、眼鏡姿の若い男性:三角康介(みかど こうすけ) - 志尊淳
スクランブルの交差点を渡ろうとして、何かの気配に気づき息をのんだ。
横断歩道の向こう側に、他の人には気づかれてはいないが
彼には眼鏡を外すと明らかにその姿や気配が見える・感じられるのだ。
長い髪の毛は乱れ、破れたような帽子をかぶった黒ずんだ女性。
人とも影ともつかない。
彼が驚いて後ろによろめき、後ずさりしようとして他の歩行者とぶつかってしまう。
その様子を眺めている男:冷川理人(ひやかわ りひと) - 岡田将生 がいることも気づかないほどだ。
冷川は丸い縁のサングラスをずらし、結局交差点を渡れないで戻る康介の様子を見ていた。
勤務先の書店で、デニムのエプロン姿で本を並べる康介。
ふと、何かの気配に気づき眼鏡を外して本棚の先を見ると、棚の前の通路を黒く煤けてモザイクがかかったような影が
こちら側へ向かってやってくる。
康介は慌てて陳列用の本をその場に置くと、反対側(書店の出入り口側)へ逃げようとする。
すると彼の前に立ちふさがるように、あの男、交差点で康介を見ていた冷川がいた。
何故、眼鏡を外すんですか。
えっ。
冷川は、胸に着けた康介の名札を読む。
サンカク君。
あ、いや、ミカドです。
冷川は、左手で康介の右肩をそっと掴み、康介の後ろ側に目をやった。
凄い、こんなにはっきり見える。アレが・・・。
アレとは、かかっていたモザイクから徐々に姿が濃くなっていくアレ。←(殴)
どうやら眼鏡をかけており、斜めかけたバッグのベルトも見えてくる。
近づく気配が恐ろしくて、冷川の後ろへ逃げようとする康介。
彼の両肩を抱き、その彼が恐れている後方へ向きを変えさせる冷川。
いきなりでごめんなさい。
後ろから康介の耳元で話しかける冷川が、康介の右肩に置いていた手を
彼の胸の中心・・・そう、心臓のあたりに置く。
すると書店であったはずのその空間は暗くなり、三角形の白い光りが
康介と彼を後ろから抱く冷川を囲み、まるで宙に浮いた結界のように見えた。
タートルネックセーターを着た、丸眼鏡の男性。(やや髪の短いジョン・レノンといった風貌)
上司らしき男性に「言ったことくらいやれよ。」と、書類を目の前のデスクに叩きつけられている。
自席に戻って見た彼のスマホには、
沖田康夫:@福田浩二 修正した記事を見たけど全然ダメだな。
すみません。
山城:こんな使えねえ記事よく出せるな。
たま:福田のせいで記事まとまんねーじゃんか!マジ辞めてくんねえかな。
佐藤茂:クズがいなきゃ仕事も部屋ものびのびできるよな?福田?
MAKIO:福田みたいな奴雇うところもねえだろうけど(笑)
SAKAI:この世に居場所ねえだろ笑笑
などと、ひどい言葉が並んでいる。
いたたまれなくなった彼はその後、会社の屋上から飛び降り自殺をしたのだ。
それが現在、この書店を彷徨う男。
冷川が康介の胸に右手をあてたまま、左手を彷徨う福田の霊に向かって差し伸べると
彼のモザイクのようになった姿は、煙が消えて行くように徐々に吹き消されていくのだった。
恐ろしさに息遣いが荒くなり、呆然とする康介。
反対に冷川は自分が導き出した結果に満足したように微笑み、康介にこう告げる。
最高だ、君はまさに僕の運命だ。
あり得ない、これまで見たこともない出来事に康介は思わず冷川から離れる。
そんな康介に向かい、一歩前へ近づいた冷川。
僕の助手になってくれませんか。
はぁ?
状況がのみ込めない康介に、冷川は自分の名刺を差し出す。
そこには、
物件鑑定・特殊清掃 COOLEAN
冷川 理人 REHITO HIYAKAWA
090-642-874
〒231-1021 神奈川県横浜市南桜区新元町2-4-3 田渕ビル3F
coolean_hiyakawa@glacemail.co.om
そう書かれていた。
仕事内容は、簡単な除霊作業です。
時給は今の倍、出します。
何ですか、これ。
受け取った名刺を見てもまだ康介は混乱し、信じられない気分だ。
適当な事言わないでください。
さっきのは、俺の幻覚・・・ただの幻覚ですから。
渡された名刺を返そうとする康介に、驚く冷川。
君は自分が今まで見てきたものを否定するんですか?
俺は、ずっとアレが怖くて堪らないんです。
眼鏡を外すのは、他の者と区別できるから。
アレに・・・近寄らないためです。
そう言って眼鏡をかけ直し、 すみません と冷川の横を通り抜けていこうとした康介。
立ち去ろうとする彼に、冷川はこう告げたのだった。
怖くなくなります。
その言葉に、振り向けないままで立ち止まる康介。
康介の背中に向かって、冷川が言葉を続ける。
大丈夫、僕といれば怖くなくなりますよ。
その言葉に、ゆっくりと振り返る康介だった。
ここから、オープニング映像ですが
この続きは、また後日。