超空洞からの贈り物

様々なニュースや日常のレビューをメインに暗黒物質並に見つけ難い事を観測する、知識・興味・ムダ提供型共用ネタ帳です。

新しい点眼薬で緑内障の視力が回復する可能性

2009年09月06日 10時34分19秒 | 健康・病気
 神経成長因子(NGF)を用いた新しいタイプの点眼薬に、網膜細胞および視神経細胞を保護する作用がみられ、緑内障患者の視力を回復させる可能性もあることが、イタリアの研究で示された。NGFの点眼により緑内障を治療できる可能性を示した研究は今回が初めてであると、イタリア、ローマ大学のStefano Bonini博士は述べている。

 米緑内障研究財団(Glaucoma Research Foundation、カリフォルニア州)によると、緑内障は視神経が徐々に侵され視力低下や失明の原因にもなる眼疾患で、年齢問わず発症するが、特に高齢者ではリスクが高い。世界で失明原因の第2位となっており、米国では約400万人が罹患し(約半数は自覚がない)、約12万人が失明している。米国では緑内障が失明原因の10%を占めているという。最新の治療によって眼圧を軽減し、進行を遅らせることはできるが、失われた視力を回復する治療法はこれまでなかった。

 著者らは、過去の研究でヒト組織中にみられる蛋白(たんぱく)であるNGFがパーキンソン病やアルツハイマー病患者の脳組織の治療に有益であることが示された点に着目。発症の仕方が似ていることから、緑内障は「眼のアルツハイマー病」とも呼ばれるという。今回の研究では、緑内障を誘発したラットにNGFの点眼薬を2通りの用量で投与した結果、特に高用量で網膜神経が死滅する比率が有意に低下することがわかった。

 次に、進行した緑内障患者3人を対象にNGF点眼薬を使用し、治療前、治療開始後3カ月、治療終了後3カ月に眼機能を検査した結果、2人に視力の改善が認められ、もう1人は治療後に視力の安定がみられた。さらに、視野、視神経機能、対比感度および視力の改善は、初回の点眼薬投与から18カ月後でも維持されていた。

 ただし、Bonini氏によると、現在NGFは臨床で使用できず、今回の結果についても大規模な臨床試験による裏付けが必要であることから、この治療法がすぐに利用可能になるわけではないという。しかし、理論的にはこの知見が眼疾患のほかさまざまな神経変性疾患の新しい治療選択肢につながる能性があると、研究チームは述べている。

米国科学アカデミー発行の「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」オンライン版より

メタボリックシンドロームの原因タンパク特定

2009年09月06日 10時27分49秒 | 健康・病気
メタボリックシンドロームを引き起こすタンパクを尾池雄一・熊本大学大学院医学薬学研究部教授が突き止めた。

このタンパクはアンジオポエチン様タンパク質2(Angptl2)と呼ばれるもので、血管新生因子のアンジオポエチンに構造が似た分泌型タンパクの一種。尾池教授は、Angptl2が肥満の人々の脂肪組織に多く見られることに着目、マウスとヒトでどのような働きをしているかを調べた。

肥満になると内臓脂肪組織で慢性炎症が起きており、それが動脈硬化症や糖尿病など生活習慣病を引き起こすことがここ数年の研究で明らかになっている。尾池教授は、肥満や、インスリンの働きが低下して糖尿病、動脈硬化症になっているマウス、ヒトいずれにおいても血液中のAngptl2濃度が高くなっていることを突き止めた。また、本来、Angptl2があまり見られない皮膚にAngptl2が過剰に現れるマウスをつくると、皮膚に炎症が生じた。逆にAngptl2を欠くマウスでは肥満で見られる内臓脂肪組織の炎症の程度が正常な野生型マウスに比べ軽度で、糖尿病を発症しにくいことも分かった。

これらの結果から尾池教授は、肥満の内臓脂肪組織ではAngptl2が増加しており、脂肪組織の慢性炎症を引き起こしていること、その結果、全身でインスリンの働きが低下、糖尿病の発症につながっていることが分かった、と結論づけた。Angptl2の発現を抑えることで、メタボリックシンドロームや、糖尿病、動脈硬化症の発症を抑える治療薬の開発につなげることが期待できる、と尾池教授は言っている。

科学技術振興機構(JST)

電子たばこの有害性をFDAが警告

2009年08月10日 02時35分49秒 | 健康・病気
 e‐シガレット(e‐cigarette)の名で知られる電子たばこには、発癌(がん)性物質をはじめとする毒性物質が含まれることが示されたと、米国食品医薬品局(FDA)が報告した。電子たばこは、ニコチンを霧状にして吸引する電池式の機器。FDAのJoshua Sharfstein氏によると、世界保健機関(WHO)、米国疾病管理予防センター(CDC)および米国癌協会(ACS)などの各専門機関が、電子たばこの安全性のほか、若年者でのニコチン依存を増大し、最終的には喫煙促進につながるリスクについて懸念を示しているという。

 FDA医薬品評価研究センター(CDER)のBenjamin Westenberger氏によると、同局が米NJOY社(アリゾナ州)およびSmoking Everywhere社(フロリダ州)の販売するe‐シガレット2銘柄を対象に少数の標本の成分を分析した結果、1点から不凍剤の成分であるジエチレングリコールdiethylene glycolが検出されたほか、複数の標本からニトロサミンnitrosamineなどの発癌性物質が検出されたという。電子たばこは米国内で販売されているが、主に中国で製造されており、「今回の結果から品質管理のずさんさが示された」と同氏は指摘している。

 米国肺協会(ALA)はFDAの見解を支持し、FDAによる審査および承認がされない限り電子たばこの販売を直ちに中止すべきだと述べている。FDAによると、今回の試験に加えて電子たばこの出荷時の検査を実施しており、これまでに50件の出荷が足止めされている。しかし、FDAが電子たばこは薬剤かつ医薬デバイスであり連邦食品・医薬品・化粧品法(FFDC)の規制下に置くと主張する一方、販売元のSmoking Everywhere社は4月下旬、FDAの出荷の禁止は越権行為であるとしてFDAを提訴したという。

 電子たばこが青少年に販売されていることも、専門家の間で懸念されている。電子たばこはオンラインやショッピングモールで買うことができ、見た目や使い方がたばこに似ているほか、カートリッジにはチョコレート、ミント、風船ガムなどの香りがあり、若者にとっては魅力があることから、子どもや少年が喫煙する最初のきっかけとなる可能性もあると専門家は指摘している。

 NJOY社は先ごろ声明を発表し、2007年4月の発売以降、同社の製品について健康被害の報告はされていないこと、未成年に販売しないよう十分な対策を講じていることなどを主張している。今回のFDAの試験結果には驚いており、近く社内での試験結果について情報を提供する予定であると同社は述べている。Smoking Everywhere社からはコメントを得られていない。

※画像と本文は関係ありません。

緑茶の癌(がん)予防効果の確証得られず?

2009年08月10日 01時29分36秒 | 健康・病気
 過去20年にわたる51件の研究を対象としたレビューの結果、緑茶の癌(がん)予防効果については、未だ明確な答えが出ていないことが示され、医学誌「The Cochrane Database of Systematic Reviews(コクランシステマティックレビュー・データベース)」7月8日付オンライン版に掲載された。

 今回のレビューでは、肝癌、乳癌および前立腺癌については緑茶による予防効果がある程度認められたものの、膀胱癌リスクは逆に増大する可能性が示された。食道癌、大腸(結腸直腸)癌、膵癌など消化管の癌では一致する結果が得られず、著者らは肺癌、膵癌、大腸癌の予防効果については限定された証拠しか認められなかったと記している。「これほど多数の研究について検討しても、緑茶の癌予防効果については明確にできない」と、筆頭著者であるドイツの癌研究グループ(Oncology Study Group)の一員、Katja Boehm氏は述べている。

 今回の研究では、緑茶を日常的に飲んでいるアジア人計160万人を対象とする研究をレビューした。Boehm氏によると、緑茶の摂取量やさまざまな癌の成長(増殖)の仕方が一定でないために、緑茶の癌予防について決定的な関連性を見出すのは困難であるという。「1つ確かなことは、緑茶の摂取だけでは癌予防にならないということである」と同氏は述べている。

 緑茶には強力な抗酸化物質であるカテキンをはじめ、ポリフェノールが豊富に含まれている。ポリフェノールは同じ植物(チャ)を原料とする紅茶やウーロン茶にも含まれるが、緑茶のポリフェノールには特有の癌予防効果があると主張する研究者もいる。米Moffitt癌センター(フロリダ州)のNagi Kumar氏は「緑茶に含まれる物質には確かに有望性がある。この分野の研究は現在、緑茶成分に似た薬剤を用いて有効性と安全性を試験し、癌予防効果の有無を検討する段階まで進んでいる。時間が経てば答えが出るはずだ」と述べている。

 Boehm氏とGumar氏はともに、この件についてはさらに徹底的な研究が必要であると述べるとともに、仮に利益がなくても適量の緑茶を飲むことは安全であるとの見解を示している。Boehm氏によると、1日の摂取量は1,200ml(カップ5杯強)を超えないほうがよいとのこと。

幹細胞を利用した“生物学的ペースメーカー”

2009年08月10日 01時04分04秒 | 健康・病気
 ヒト脂肪組織由来の幹細胞によって、現在ペースメーカーを用いて治療されている心臓の伝導障害を改善できる可能性のあることが日本の研究チームにより示され、米ネバダ州レイクラスベガスで開催された米国心臓協会(AHA)基礎心血管科学(BCVS)年次集会で報告された。

 今回の研究では、マウスの褐色脂肪組織由来の幹細胞から、心臓の伝導組織に似た特性をもつ“拍動beating”細胞を培養。その細胞を、房室(AV)ブロックと呼ばれる伝導障害によって心拍数の減少したマウスに注入した。1週間後、半数のマウスにAVブロックの完全な回復または部分的な回復が認められたが、対照群のマウスには全く変化がみられなかったという。この拍動細胞は識別しやすいよう緑色に着色されており、心臓の電気伝導系をつかさどる部位の近くに付着しているのが認められた。

 「電子ペースメーカーは、伝導障害のみられる患者の姑息的治療(有用だが治癒にはつながらない治療)によく用いられるが、誤作動の問題や、電池と電極を何度も交換する必要があるなどの短所がある。細胞治療によってこのような問題を克服できる可能性がある」と、筆頭著者である千葉大学大学院医学研究院の高橋聖尚(としなお)博士は述べている。

 褐色脂肪組織から得られる間葉系幹細胞(MSC)は、骨、ニューロン、筋、肝および脂肪細胞などのさまざまな細胞に成長できることがわかっている。今回の研究では、この細胞を単離した後、自発的に拍動する細胞群を培養することに成功。心臓の筋線維に似た管状の細胞群が認められると同時に、どの細胞にも蛋白(たんぱく)などで心臓ペースメーカー様細胞との類似性がみられた。「この知見から、褐色脂肪由来の間葉系幹細胞から抗不整脈治療に有用な細胞が得られる可能性が示される」と高橋氏は述べている。

有望視される新しいアルツハイマー病の治療法

2009年08月10日 00時29分36秒 | 健康・病気
 アルツハイマー病の発症および進行にかかわる2つの異なる脳異常について新しい治療法が有望であることが示され、ウィーンで開催されたアルツハイマー協会2009国際アルツハイマー病学会(ICAD)で発表された。

 第一の研究では、dimebolin(Dimebon)と呼ばれる薬剤(※ロシアで臨床応用されている抗ヒスタミン薬)がヒトおよびマウスの認知機能を改善する可能性が示されると同時に、この薬剤がアルツハイマー病の顕著な特徴であるプラーク(老人斑)の主要な構成要素である脳内のアミロイドβ(ベータ)のレベルを増大させることが判明した。世界中の製薬会社が脳内のアミロイドβを減少させる物質を突き止めようとしのぎを削る中、今回の知見は「極めて驚くべきものであり、予想外であった」と、研究著者の米マウントサイナイMount Sinai医科大学(ニューヨーク)アルツハイマー病研究センターのSamuel Gandy博士は述べている。

 この知見から、これまでのアルツハイマー病治療薬やアミロイドに関する考え方が変わってくる可能性があるとGandy氏はいう。dimebolinが脳の過剰なアミロイドを中和して排出させる可能性もあれば、アミロイドがニューロンの中ではなく外側にあることが何らかの利益をもたらしている可能性もある。さらに、「アミロイドβがアルツハイマー病の“主犯格”ではないことも大いに考えられる」と専門家は述べている。

 アルツハイマー病協会のRalph Nixon博士によると、複数の製薬会社がこの薬剤の米国食品医薬品局(FDA)承認に向けて取り組んでいるという。「第3相試験でこの薬剤の効果が裏付けられれば、アルツハイマー病の根本的な原因や発症をもたらす因子について手掛かりを突き止めるための強力なツールとなると思われる」とNixon氏は述べている。

 2番目の研究では、アルツハイマー病にみられる脳の神経原線維のもつれ(tangle)を引き起こす「タウ(tau)蛋白(たんぱく)」を標的とするワクチンが、少なくともマウスで有効であることが明らかにされた。イスラエルの研究グループが、遺伝的に神経原線維のもつれを発症するよう操作したマウスを用いて、3種類のリン酸化タウペプチドまたは短縮型タウ蛋白の併用による免疫処置を実施した結果、神経原線維のもつれに40%の減少が認められ、脳炎症は認められなかった。

 このほか、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)による関連研究では、ビタミンD3をクルクミンと呼ばれるスパイスに含まれる物質と併用することにより、脳のアミロイドβを除去する免疫システムが促進される可能性があることが示され、米医学誌「Journal of Alzheimer’s Disease(アルツハイマー病)」7月号に掲載された。

20代で言語スキルが高い人はアルツハイマー病になりにくい

2009年07月22日 13時55分08秒 | 健康・病気
 若い頃に言語能力が優れていた女性は、アルツハイマー病に特徴的な脳の変化が認められる場合でも、アルツハイマー病を発症しにくいことが明らかにされた。このほか、アルツハイマー病の症状のない女性の脳には大きなニューロンがみられることが判明し、米医学誌「Neurology(神経学)」オンライン版に7月9日掲載された。

 研究著者である米ジョンズ・ホプキンス大学(ボルティモア)のDiego Iacono博士によると、アルツハイマー病を示す所見であるプラーク(老人斑)および神経原線維変化を、この大きなニューロンが補っている可能性があるという。また、この知見から20代前半の言語能力が、後の認知症リスクを示す予測因子となることも考えられる。男性を対象とした過去の研究でも、脳にプラークや神経原線維変化があるがアルツハイマー病の症状がない人では大きなニューロンが認められている。

 今回の研究では、Nun Study(尼僧を対象とするアルツハイマー研究)に参加し、死亡した尼僧38人の脳を調べ、記憶障害があり、脳にプラークおよび神経原線維変化のみられたグループと、脳の所見の有無にかかわらず記憶障害のなかったグループとに分けた。被験者が10代後半から20代前半で最初に修道院に入ったときに書いた小論文を分析して、10語当たりの発想数などから言語スキルの豊かさを評価した。その結果、記憶障害のなかった女性は、症状のあった女性に比べて、言語テスト(文法を除く)の成績が20%高いことが判明した。

 脳内に一定量の病理学的所見があるにもかかわらず、認知機能が正常な人がいることは驚くべきことだとIacono氏はいう。予防機序があるはずで、それが遺伝的因子によるものか、20歳前後までの学習量によるものかはわかっていないが、今回の知見は20~30歳前から認知面の予備力が蓄えられ、高齢になってからこの予備力を使うことによって認知症の徴候が現れるのを避けることができるという「認知的予備力(cognitive reserve)」仮説に一致している。

 今回の論文ではこのほか、APO(アポ)E4遺伝子をもつ人は認知障害のリスクが高く、APOE2をもつ人は予防効果があることが明らかにされた。著者らは現在、言語能力とこのような特定の遺伝子との関連を検証しているという。

せん妄に対する新しい治療法の必要性が明らかに

2009年07月22日 10時24分45秒 | 健康・病気
 入院患者のせん妄(delirium)が健康および医療費の面で大きな問題になっているにもかかわらず、その有効な予防法ないし治療法は未だ開発されていないことが、せん妄治療に関する文献のレビューを実施した専門家グループにより報告された。

 せん妄は精神状態の急激な変化により錯乱を来す病態であり、米国では毎年700万人もの成人入院患者がせん妄を経験している。せん妄は認知症とは別のものだが、認知症のある患者には入院中にせん妄が生じる確率が高い。「せん妄を生じると入院が長引き、退院後に介護施設に入るリスクが高くなるほか、死亡リスクが2倍になる」と、著者の1人である米ウィシャード・ヘルスサービスWishard Health Services(インディアナポリス)のMalaz Boustani博士は述べている。「今回のレビューは、新しい治療選択肢を見つける必要性を科学界に投げかけるものである」と同氏はいう。

 レビューの結果、1966年1月から2008年10月の間に、せん妄治療に有望と考えられる薬剤15種類を対象に実施された無作為化対照試験はわずか13件にとどまることが判明。どの薬剤にもせん妄の予防効果は認められていないという。この研究は、医学誌「Journal of General Internal Medicine(一般内科)」7月号に掲載された。

 現在、米国でせん妄の予防薬または治療薬として承認されている薬剤はない。「せん妄に関する研究は、アルツハイマー病研究でいえば30年前の地点にいる」とBoustani氏は指摘する。「科学界および政界から、せん妄の新しい治療法の評価に関する指針を打ち出すよう(米国食品医薬品局FDAに)働きかける必要がある。それによって、早急な薬剤の発見および治療の実現につながることを期待している」と同氏は述べている。

低カロリー食で寿命が延びる可能性

2009年07月22日 04時24分34秒 | 健康・病気
 サルに低カロリー食を与えると、老化プロセス(aging process)を減速できることが新しい研究で明らかにされた。研究著者で米ウィスコンシン大学マディソン校医学部教授のRichard Weindruch氏は、「今回の研究は、霊長類で老化プロセスを減速できることが明確に示された初めての研究であり、生存率の増加、疾患への抵抗性、脳萎縮や筋力低下の減少が認められた。このことから、ヒトでも同じ効果が得られると予測することができる」と述べている。この知見は、米科学誌「Science」7月10日号に掲載された。

 今回の研究を支援した米国立加齢研究所(NIA)のFelipe Sierra氏によると、食事制限によって寿命が延びるとの考え方がすべての種(species)にもあてはまるわけではなく、ラットやマウスの多くの系統(strain)では効果がみられないほか、系統によっては有害であるという。同氏は、「マウスに効果のなかったものがサルでは有効であったことは意外であり、希望を与える結果である」と述べる一方、ますます節度がなくなりつつあるヒトの食生活をいかにして改善させるかについては、あまり希望はもてないと指摘している。別の専門家も、この研究結果を素晴らしいと賞賛しつつも、問題なのはなのはこの事実に無知であることではなく、食事量を少なくさせる点にあると指摘している。

 Sierra氏によれば、この研究の最終的な価値は、老化プロセスの減速の背後にある生理学的機序を明らかにし、薬剤などの介入によってこのプロセスをまねる方法を見つけることにあるという。過去の研究では、酵母菌、線虫、ハエのほか、一部のマウスでも、カロリー制限によって寿命が延長し、多数の疾患を回避できることが示されている。

 今回の20年に及ぶ研究は、研究開始時点で成体(7~14歳)であったアカゲザル76匹を対象としたもの。現在も生存している33匹のうち、制限なく食餌を与えたのは13匹、カロリーを30%少なくした食餌を与えたのは20匹で、カロリー制限したサルでは80%が生存しているのに対して、対照群では約半数であった。低カロリー群には癌(がん)や心血管疾患が少なく、脳(特に運動制御と記憶に関与する脳領域)の健康状態が保たれ、サルによくみられる糖尿病がないなどの利益が認められた。

 研究グループは、このサルを対象にさらに15年研究を続けると同時に、新しいサルのグループを用いてさらに詳しいメカニズムを調べる予定だという。NIAは現在、ヒトを対象とした研究を支援しているが、実施は難しいとSierra氏は指摘している。なお、主に移植患者に使用されるmTOR阻害薬薬rapamycinラパマイシン(別名sirolimusシロリムス、日本国内未承認)がマウスの寿命を有意に延長したとの知見が、英科学誌「Nature」オンライン版に7月8日掲載されている。

東北大学、ピロリ菌除菌による糖尿病の一亜型の完治に成功

2009年07月18日 21時09分41秒 | 健康・病気
 東北大学大学院医学系研究科創生応用医学研究センター・片桐秀樹教授、分子代謝病態学分野・岡芳知教授らの診療チームは、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)[*1]を除菌することで、糖尿病の一亜型であるB型インスリン抵抗症の症例を完治させることに成功した。この成果は、英国医学誌ランセット(7月18日号)に掲載予定である。

 B型インスリン抵抗症はB型インスリン受容体異常症ともいわれ、日本糖尿病学会の糖尿病成因分類でIIIB(6)に属する糖尿病の一亜型である。インスリンはインスリン受容体に結合し血糖値を下げる効果を発揮するが、この疾患では、そのインスリン受容体に抗体が作られてしまうことにより、インスリンが受容体に結合できず、インスリンの働きが悪くなる。このため、インスリンの効かない糖尿病となり、糖尿病治療薬の効果も極めて乏しい。一方で、一時的に抗体がインスリン受容体から外れた場合などに、急激な低血糖を生じる。他の自己免疫疾患との合併例も多い。これまで確立された治療法はなく、高血糖と低血糖を繰り返す難治疾患として知られている。

本診療チームは、このB型インスリン抵抗症と特発性(自己免疫性)血小板減少症とを合併した症例にピロリ菌の除菌を行ったところ、糖尿病は正常化し、非常に悩まされていた低血糖発作もなくなり、インスリン受容体に対する抗体も陰性化したことを見出した。
本症例は、治療後1年以上を経ても、糖尿病や低血糖症の再発の兆候はなく、完治したものと考えられる。このことは、ある一部の糖尿病の原因として、ピロリ菌の感染が関与していること、さらに、それを除菌することが、根治治療になりうることを示したものであり、同じ疾患に悩む世界中の患者にとって、大きな福音となることが期待される。


【用語説明】
[*1] ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)
 胃で生育し胃炎や胃潰瘍・胃がんの原因ともなりうることが知られている細菌。オーストラリアのロビン・ウォレンとバリー・マーシャルは、ピロリ菌の培養に成功し、胃炎・胃潰瘍の病原体であることを証明したことで、2005年にノーベル医学・生理学賞を授与されている。最近では、特発性血小板減少症をはじめとする特定の自己免疫疾患とも関連があるという報告もある。