うんたま森のキジムナー

終わった

カラカラ先生は寝る前に目覚ましをセットする。
毎朝、5時半に起きるのが癖になっているにも
かかわらず、6時半に携帯電話の目覚ましを
セットする。オバァを迎えに行くのが7時15分、
かれこれ10年以上続いた習慣だ。一年に数回、
遅刻することもあった。
オバァはこちらの事情も知らず、考えることも
なかっただろう。いつも7時15分にカラカラ先生が
迎えにくるのを待っている。

私が病気で入院したこともケガをして動けなくなった
ことも知らず、いつものように7時15分に待っていた
当たり前の日常、朝起きてカラカラ先生が家の前で
待っている。「今日は寒いねぇ」「昨日は雨だった」
「家の前にゴミがおかれている」

そんな話しかしたことのないオバァが「ありがとう」と
つぶやいた。この10年の思い出が一気に
よみがえってくる。カラカラ先生は、たったその一言
だけ重い言葉をかみ締めるように聞く。
冬の寒い日などオバァが家からなかなか出てこない
ときはヒヤヒヤしたものだ。
終わった・・・ 
「今日まででいいよ、明日からはもういい」
その言葉を何年も前から心待ちにしていたのに、
オバァの口から「ありがとう」
まさかそんな言葉が出てくるなんて。終わった。
もう明日からオバァを迎えにいくことはない。
「ありがとう」と言われて返す言葉が見つからない。
オバァがアメリカァなら、「ミートゥ」それとも
「グッディ」?
もう明日から会うこともなくなった。
又一つ心に穴が開いたような気分だ。

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