公設市場の前を通ると、市場の前に並べられたベンチにたくさんの観光客が
休んでいた。買い物帰りに休んでいるのだろう。
建て替えられた市場には、もう昔の活気はない。
市場が島の台所と呼ばれていたあの頃を知っている人も少なくなった。
朝早くから市場の前には行商のオバァたちが肩を押し合うように
野菜や魚、カニなどが売られていた。
カニや魚は久松から、野菜は島のいたるところから集まってくる。
畑から土のついたとれたての野菜を持ってきて、それぞれ行商の
オバァと値段の交渉をして買い取ってもらう。
行商のオバァはその場で仕入れて売る。
売るのも仕事であるが合間にはモヤシのヒゲ取り、そして島ラッキョウの
掃除がオバァたちの仕事だった。当時は安くてもスーパーで
モヤシを買う人はいなかった。自分でもモヤシのヒゲとりをしたこともあるが、
少々高くてもオバァがヒゲとりしたモヤシの方がいい。
ラッキョウもきれいに掃除されて小さなビニール袋に入れて売られていた。
当時の市場には溢れるほどの活気につつまれてていた。
物を売りつけてくるオバァたちをかいくぐって行かなければ
市場の中にはたどり着けない。市場の中はテレビが大きな音を出していたが
オバァたちの声の方が大きかった。
いつまでも日常があると思っていたあの頃は若かった。
肉屋のオバァ、刺身ヤーのオバァ、白髪の双子のオバァ、今でも
一人一人のオバァの顔と声をハッキリと覚えている。
耳をすますとあの喧騒が蘇ってきそうだ。