9月初め、北海道旅行から帰ったら、ポストにこの本が届いていて、小春日和の金木犀の香り漂うなかで、この本を手にした。一首一首味わいながら、3日間かけて読み終わるのを惜しむように読んだ。
尊敬できる人との出会いは、人生で最も貴重なものだ。60歳を過ぎて、人生を振り返ってみると、そんな出会いはそう多くはない。それらの出会いが今の自分を形作ってきたと言っても過言ではないと思える。
そんな貴重な出会いの一人が小林勝人氏である。飯田日中友好協会の理事長で、満蒙開拓平和祈念館の立役者でもある。彼は、平岡ダム建設(1938年に着手。中国、朝鮮半島の人々、捕虜などを強制連行。非人道的な方法で建設工事に使役した。)にまつわる郷土史の負の遺産を冊子にまとめている。緻密な取材調査によって書かれたこの冊子には、深い郷土愛を読み解くことができる。是非インターネットで公開していただきたいものだと思っている。また数年前には、当時、強制連行された中国人を数名長野に招待したりもしている。
日本が強制連行せし終始 通訳介し四人より聞く
2年前、彼の地で中国残留孤児、残留婦人にインタビューをさせていただいた。多くの方々の彼への厚い信頼を肌で感じた。インタビューのなかでも時折彼の名前が出て来た。例えば、法務省の担当者から、日本国籍がありながら中国籍があるからという理由で帰化を余儀なくされた婦人は、「彼は自分の事のように一生懸命、法務局の人や担当部署の人と何度も何度も掛け合ってくれた。自分のために親戚もしてくれないことを誠心誠意してくれる姿を見て、日本に帰って来てもよかったんだ。と、思えた。」と言っていた。
彼はまた歌人として、平成19年歌会始お題「月」で佳作。平成24年歌会始お題「岸」入選を果たした実力者でもある。
モンゴルの黄砂あらしも夜は凪ぎて植林隊のゲルに月照る
ほのぼのと河岸段丘に朝日さしメガソーラーはかがやき始む
この歌集の中から、どれか一首を選ぶのはすごく難しいけれど、敢えて一首。私の好きな歌です。
憲法の前文の如き気を放ちおほみづならは空に枝張る
歌はすべて「伊那の谷びと」(小林勝人著 信濃毎日新聞社刊)より転載