夏
見た鰻が頭から離れない。鰻を捕るには、つけ針をしておく方法があるので人の
少ない大橋川の方がよさそうだ、三十本ほど、つけ針を作ってやってみたが徒労
に終わってしまった。待つのではなく、こちらから仕掛けてみよう。ウナギを探し出
してモリで突けば捕れるかもしれないと思い立った。丁度その場所は岩の下が砂
地っぽいので外れてもモリ先端を痛めることはなさそうだし。岸辺から中を照らし覗
き込む、ユラユラと陽炎のような流れに鰻を発見した。
岩の間から頭をチョコンと出している。すぐに明かりを消してモリのゴムを一杯に絞
り見定めておいた場所を再び照らし、ゆっくりと鰻の上に運ぶ。『名無さん』とモリを
放つ、ズバッと当たった瞬間に鰻が暴れそこら中は濁り何も見えなくなる。流れが
濁りを流し元の姿を取り戻すと頭の近くにモリの刺さった鰻が見えた。鰻は岩の中
に残された身体に渾身の力を振り絞って岩肌に踏ん張って外には行くまいとして
いる。引っ張っても一向に動かない。時折、岩の中の身体が濁りを送り出してくるだ
けの膠着状態が続いた。シビレを切らして無理して引き出そうと引っ張ると皮一枚
の状態で突かれていただけだった為、そこが切れて姿が見えなくなっていた。
モリが身体の中心近くに刺されば少し時間はかかるがウナギは体力が無くなり穴
から引っ張り出すことができる。中心を狙っているつもりでも命中率は低い。また別
の場所では持ち上げようとして外れてしまったりして中々うまくいかない。そこでモ
リをもう一本使用するようにしたら、ほぼ完璧になった。一の矢の後に二の矢を放
ち捕獲を確実にする。つまりモリを2本つかう。例え最初のモリのささり具合が悪くて
も、濁りが流され鰻を確認できれば2本目のモリを打ち込むことができ、ゲットできる
確率はぐんと増す。この方法で大きいものは八十センチ近いものを捕ることがあっ
た。天然物の鰻は脂が適量で養殖物とは比べものにならない。大きさでいえば五
十センチ級が一番おいしい。持ち帰り、長い板の上にキリで頭を刺し新聞紙で身
体を押さえ背中から包丁を入れて三枚におろす容量で骨を外す。慣れないと肝
心な身が骨につき骨の蒲焼きを頂かなければならなくなってしまう。
毎晩のように大橋川畔に通っていたが、この辺りで自殺者が上がったと聞いてか
ら気持ち悪くなり行く気がしなくなった。