初秋といえども残暑の残る頃、小鰺が釣れだす。小型で料理するといっても南蛮
漬けにするしかない。鰺は擬似針で釣る。一番下に網カゴをつけ、糸の途中に七
〜八本の擬似針をつける。カゴの中に蒔餌のジャンボ(網蝦の冷凍したもの)を入
れ、竿を上下させるだけで子供でも楽に釣れる。我が家の娘もよく連れて行った
が結構釣っていた。
鰺は引きが強い。顎がすぐに切れてしまうため強く持ち上げると皆外れてしまうの
でゆっくり丁寧に上げる。蒔餌が落ちるので周りにサヨリが寄って来る。本格的な
秋になる頃は三十センチ位になるだろうが今は二十センチの鉛筆みたいなものだ。
境港の通称、カニカゴは鰺釣りの家族連れをよく見かける。ここでは外道のボラが
鰺の仕掛けにかかり大騒ぎとなる。五十センチを越すような大物が食いつき竿を
面白いように曲げる。もったいのは、鰺の仕掛けを切られることでワンセット三百円
ほどの損失になる。
鰺は朝早くか、夕方によく釣れる。擬似針の釣りは五目釣りとなりカマス、力ワコが
釣れるので飽きることはない。
秋が更に深くなると美保湾で本格的な鰺釣りができる。こちらは夜釣りでカーバイ
トを集魚灯に使う。緣日の昔懐かしい臭いのする、あのカーバイトだ。小岩みたい
なカーバイトを下の缶に、上の缶には水を入れる。水の落ちる量をネジで調節しガ
スがたまったら火をつける。ボッと赤びた火が点く。ロープで吊るし海面スレスレの
所に置く。鰺は回遊魚で回ってくると左から右へバタバタと釣れだす。それを繰返
し、一旦去るとみんなが釣れなくなり、その一時に呆けているといくら頑張っても釣
れない。鰺は目がいいので糸は細い方がよく擬似針はサバか力ワハギの皮を使い
蛍光塗料で細工してあるものがいい。しかし、本物の餌に勝るものはなく面倒がら
ずに餌をつけていたので他人よりもよく釣れた。
大きさは塩焼きに丁度いい、二十五センチ弱のものと形が大体揃っていた。
ボラとなれば七類港でボラ専門にやったことがある。ボラにはソウ力ンボラと真ボラ
がおり真ボラは食べられるがソウカンはまずいと敬遠される。引きも味と同じでソウ
カンはどんなに大きくてもドテッと上がってくるのに対し真ボラの引きは強い。
ボラには歯がない為、餌は泥と一緒に口にし餌だけを残し泥を吐き出す。冬には
脂肪が目につく為、目が悪くなると言う。七類港は梅雨開け前はボラ釣り専門の人
で賑わう。外海に面しているので境水道のボラよりズッときれいだ。
歯がない為、ボラは釣餌も舐める感じで食べる。その為、浮木を引かないし当りが
判らない。隣の人は次々と釣り上げるのに私はいつも空振り、餌も同じ、仕掛けも
同じなのに何故もこう違うの?。
調べてみたら『ボラは餌を舐める、浮木に微かな変化があれば合わせる』とあった、
いくら待っても浮木を引き込むことはあまりなさそうだ。そういえば、浮木を持ち上げ
たリ、横にしたりしていたがあれが当りだったのだ。また、ボラ釣りの名人は『気配
で釣る』と難しいことが書いてあった。ここでは餌にイワシの切り身をつけそれを蒔
餌にも使用していた。お手本の通りにやってみたら、本当にその通りでみるみる上
達した。常連のお馴染みさんが、そっと教えてくれた。
『餌はな、ボラの切り身に砂糖をまぶして冷凍したもんがええで』それは事実でよく
釣れた。最初は近所の人に分けてあげていたが、やがては配る所も减り、遂には
釣ったものを放して帰るようになってしまった。