旅の目的は統一展望台を訪れることで、イムジン河を挟んだ北朝鮮を見てみたかった
からだ。私たち戦後直に生まれた者が過ごした子供の頃、朝鮮民族との関係は余りい
いものではなかった。その大半は大人から聞かされる噂話や勝手な憶測で朝鮮人を卑
下したり差別することは当たり前のようになっていた。子供の間で朝鮮人だからという理
由で直接的ないじめや差別のようなことは少なかったが、それは私が朝鮮人ではない方
に居たからのことで、逆ならば大きな痛みを感じていたかもしれない。小学校5~6年の
頃、友人の一人が北朝鮮に帰った。彼の家族構成がどうだったのか、帰国を決心させて
ものはまさか『極楽の国』を信じての事ではなかったことを今は願うばかりだ。
北と南に限らず韓国と北朝鮮は未だ休戦中にあり、終戦には至っていないから随所に警
備兵がいたり、鉄条網による侵入防止など、明洞で平和を満喫している風景とは別の緊
張した場面を見ることが出来る。統一展望台では数キロ先に見える北朝鮮の様子を写した
ビデオでレクチャーを受けた後に、屋外の展望台からイムジン河越しの北朝鮮を見る。以
前は大音量の音楽や韓国を愚弄するような放送を流していたが、近年は納まっているから、
とても静かだそうだ。幾つかの建屋があり以前は農民の働く姿も見られたが、今は人影を見
ることはなく、夜になっても灯りさえ点かず無人状態だと説明があった。北側は農民でも豊か
だと言うようなことを表現したかったのか、農業機械なども動かしていたのだが燃料不足にな
ったのか、最近はそうしたものを見ることもなくなった。韓国側の山には緑の木々があるのに
対し、北朝鮮側の山には1本の木さえ見ることは出来ない。冬場の薪に使ってしまったから
だ。それにしても、丸裸の山々が連なっている景色は殺風景で、人の生活感は何も感じられ
ない。これが韓国と北朝鮮の差だとはっきりと見て取れる。北の挑発は日常茶飯事であった
らしいが、最近は際立った動きは少ないものの、警備は万全の体制が敷かれている。
イムジン河を渡って韓国への侵入を防ぐため何キロも鉄条網を張り、数100m間隔で警備小
屋があり兵隊が任務に就いている。イムジン河水清く、とフォークソングにあるイメージと現実
では緊迫感に大きな差があり、来てみて知る典型的なケースだと思った。ここから帰り、街に
戻ってくるとある施設の前では20才そこそこの若い兵士が銃を持ち警備をしていた。日本で
は、この年代の若者が束縛されることなく自由気ままに暮らしている、韓国でも兵役について
いない若者たちも同様だが彼らには義務があるから必ず経験しなければならない。こうした事
実を知り日本の平和の有り難さを知って欲しいものだと思う。
統一展望台からイムジン河越しに見る北朝鮮