「言う方は簡単に『やってこい』と云うけれど、やる方は、色々考えるよ。
相手が、他の組だったら問題ないけど、同じ組の顔なじみだと、躊躇するよ。
それも、可愛がってくれるような人だったりすれば、『簡単にはい!』とは言えないだろ?」
「言えないね~、云えれば、それこそ仁義に欠けるよね」
「殴りこみの時、中々獲物が手に入らない。
そう云う時は、ノコギリとか、台所の包丁とか直ぐ手に入る物を使う時もあるよ」
「は~、映画とは違うのね~。ノコギリで乗り込んだ事があるの?」
「そりゃ~あるよ、手に入るのがノコギリだったら、
それで行くしかないもの。手拭いで、巻いてさ~」
「顔を切りつけりゃ、後で手当てが大変だ~、傷跡が残ってさ~」
「ギザギザに残りそうだね」
「刀で頭を切り付けた事があるけどさ~、刀が跳ね返って切れなかった。
相手にさ~、『お前、刀は初めてだろ!』って言われたよ。
腰を入れないと切れない事が分かった。恥ずかしかった』
「そんな事を経験したんだ~、怖かっただろうね~」
「そりゃ~、怖かったさ、生きるか死ぬかだよ」