私的海潮音 英米詩訳選

数年ぶりにブログを再開いたします。主に英詩翻訳、ときどき雑感など。

内戦期の黙想Ⅶ 5~7行目

2011-08-31 20:16:34 | 英詩・訳の途中経過
Meditation in time of Civil War W. B. Yeats


[ll.5-7]

A glittering sword out of the east. A puff of wind
And those white glimmering fragments of the mist
sweep by.



内戦期の黙想   W・B・イェイツ

    Ⅶ
    [5-7行目]

憎みと心の充ちたりと来たる虚しさのまぼろしをみる


東から来たつるぎのように輝いている 風が吹いて
白く煌めくきれはしが千々に
             ながれてゆく

内戦期の黙想Ⅶ 4~5行目

2011-08-30 20:16:31 | 英詩・訳の途中経過
Meditation in time of Civil War W. B. Yeats


[ll.4-5]

I see Phantoms of hatred and of the Heart's Fullness and of the Coming Emptiness

That seems unlike itself, that seems unchangeable,
A glittering sword out of the east. A puff of wind


内戦期の黙想   W・B・イェイツ

    Ⅶ
    [4-5行目]

憎みと心の充ちたりと来たる虚しさのまぼろしをみる

月はひごろの月とちがって 移らぬなにかのように
東から来たつるぎのように輝いている



 ※ 「A puff of wind」以下は次に。

内戦期の黙想 Ⅶ

2011-08-28 22:10:09 | 英詩・訳の途中経過
Meditation in time of Civil War W. B. Yeats



I see Phantoms of hatred and of the Heart's Fullness and of the Coming Emptiness

I climb to the tower-top and lean upon broken stone.
A mist that is like blown snow is sweeping over all,
Valley, river, and elms, under the light of a moon


内戦期の黙想   W・B・イェイツ

    Ⅶ

憎みと心の充ちたりと来たる虚しさのまぼろしをみる


おれは高楼のいただきにのぼってくずおれた石にもたれる
霧がながれる雪みたいにすべてをおおいかくす
谷間や河やにれの木立を 月の明かりのしたに



  ※なぜか長いののパートⅦから。これが気に入ったのです。
   参考書籍によりますと、この作品は1923年発表、前年の1922年からイェイツの故郷アイルランドで内戦が起こっているそうです。原因はむろん英国の支配を受け入れるか否か。あとでもう少し詳しく確かめてみたいところです。
 
 しかし、自分で選んでおいてなんですが、私はどうしてイェイツの一人称をいつも「おれ」にしたいのだろう……? コールリッジなんかは比較的「ぼく」なのですが。日本語はむつかしい。

レダと白鳥 最終連

2011-08-26 19:45:28 | 英詩・訳の途中経過
Leda and the Swan W. B. Yeats


Being so caught up,
So mastered by the brute blood of the air,
Did she put on his knowledge with his power
Before the indifferent beak could let her drop?


レダと白鳥   W・B・イェイツ

         かうしてとらへられて
そらをゆくけものの血にうしはかれて
むすめは知つただらうか ちからによつて
なさけをしらぬくちばしにときはなたれるまへに


  ※終了。つぎはイェイツの少し長めのにします。本当はイニスフリーをやりたいのですが、あれはうら若き高校生のころに読んだ尾島正太郎訳がこびりついていまして、出だしが「いざ立ちて行かばやな」しか思いつけないのです。エリオットの荒地と同じ葛藤ですね。嗚呼西脇順三郎訳。もういっそミルトンあたりにするかな……。失楽園は不倫小説ではないと世に知らしめるのです。一文の得にもならなかろうと有意義な挑戦ではないか。


  ※訳がごそっと一行抜けていました。「So mastered by the brute blood of the air」の部分を8月27日追加。ついでにその前の行「かくもとらへられて」→「かうしてとらへられて」に変更。

レダと白鳥 三連目

2011-08-24 19:09:03 | 英詩・訳の途中経過
Leda and the Swan W. B. Yeats

A shudder in the loins engenders there
The broken wall, the burning roof and tower
And Agamemnon dead.


レダと白鳥   W・B・イェイツ

ほとのおののきともに 生みおとされるのは
くずおれるかべと もゆるいらかと
アガメムノンの死


 ※以下うろおぼえの解説(?)。きわめて大ざっぱな覚書です。検索で迷い込んだ学生さん等、「レポートの参考」とかにはくれぐれもしないでください。

  大神に襲われたレダはたしか卵でディオスクロイ(大神の双子)およびヘレネとクリュタイムネストラを生みます。
  ヘレネはご存知スパルタのヘレネ、メネラオス王の妃ながらトロイのパリスと駆け落ちしてトロイア戦争の引き金をつくった「世界一の美女」。
  そしてクリュタイムネストラはミュケナイのアガメムノン王の妻、トロイア遠征の総大将だった夫が戻ってきたところを不義の恋人と謀って殺害した「悪女」。
  ちなみにメネラオスとアガメムノンは兄弟。それぞれレダの娘を妻にしていることで王権を請け合われている……というのは、むろん私の空想ですが、「レダ」の原型はいわゆる大地母神、土地の主権を体現する旧い農耕社会の大女神だったのではといった説はなにかで読んだ覚えがあります。
 もはや古風な論説かもしれませんが、ギリシア神話の古層に母系継承社会の名残りがあるというのは、そう思ってよめば古典作品のあちこちから感じられる気がします。王女の伴侶こそが正当な主権者だったと考えるなら、娘を生贄にされてしまったクリュタイムネストラが夫を見限って新しい伴侶を選ぶのはごく理にかなった行動ですし、どう考えてもうら若かったとは思えないペネロペーに求婚者が群がりかえった理由もよく分かる。父を殺して母を娶ったオイディプスの物語は継承形体の過渡期の悲劇なのでしょう。母系継承のモラルに反さずに王子が故郷の王位につこうと思ったら母か同腹の姉妹たちを伴侶にするほかない。対して、父を殺した母を屠るオレステスの物語はひとつの社会の終焉を告げる悲劇に感じられます。女性の生殖能力ばかりを強調して「大地の化身」的に崇拝するというのはもはや手垢のついた幻想でしょうが、私はどうも未だにこの「古代の母系継承社会」の幻想に魅力を感じてなりません。どうもちっとも終わらないのでここいらでひとまず終了。その昔ガムのおまけについてきた紙のお家の模型のような解説になってしまった。