私的海潮音 英米詩訳選

数年ぶりにブログを再開いたします。主に英詩翻訳、ときどき雑感など。

失楽園 27~33行目

2019-10-27 22:51:15 | ミルトン〔失楽園〕
Paradise Lost
Book I
John Milton

27 Say first, for Heav’n hides nothing from thy view
28 Nor the deep tract of Hell, say first what cause
29 Moved our grand parents in that happy state,
30 Favoured of Heav’n so highly, to fall off
31 From their Creator and transgress his will
32 For one restraint, lords of the world besides?
33 Who first seduced them to that foul revolt?

27 まず告〔ノ〕れよ 天は何をも汝〔ナ〕が眼から隠していないのだから
28 地獄の深き域さえ まず告れよ いかなる故によって
29 吾らの遠い祖〔オヤ〕たちは あの幸ある様にあって
30 あれほどに天から愛でられていたのに 創り主から
31 引き離され 御心に背いて
32 唯一の戒めを破ったのか? 他のすべての主であったというのに
33 誰が初めに穢れた叛意へ祖らを唆したのか?




*この「汝」は17行目のSpirit〔「魂の息吹」〕への呼びかけです。
虚ろな淵に坐しながらそこを孕ませ、詩人の内なる闇を照らす光となるSpritとは一体何なのか?
私はこのSpritとは己では統御できない体感と結びついた情動から自らを切り離しきってしまった「近代的理性」が、創作の源である内なる混沌へと、すなわち芳醇な無意識へと潜ろうとする非主体的な心の働きの中核をなす何かへと呼びかける言葉ではないかと思いました。そして理性的主体にとっては内なる混沌こそが「失われた楽園」そのものでもある。

失楽園 17~26行目

2019-10-24 13:33:39 | ミルトン〔失楽園〕
Pradise lost:Book I

17 And chiefly thou O Spirit, that dost prefer
18 Before all temples th’ upright heart and pure,
19 Instruct me, for thou know’st; thou from the first
20 Wast present, and with mighty wings outsoread
21 Dove-like sat’st brooding on the vast abyss
22 And mad’st in pregnant: what in me is dark
23 Illumine, what is low raise and support;
24 2That to the heighth of this great argument
25 I may assert Eternal Providence,
26 And justify the way of God to men.

17 そして何より汝ああ魂〔タマ〕の息吹よ いかなる
18 聖堂よりも 歪みなき心と真澄〔マスミ〕を好むものよ
19 導いてくれ 汝の識るものへと 始原から
20 在りつづけ 力ある翼を鳩の如く
21 ひろげて 悩みつつ虚ろな淵に坐しながら
22 孕ませるものよ 吾が内なる闇の
23 光よ 低きを掲げ支えるものよ
24 この大いなる主題の高みのために
25 吾は非時〔トキジク〕の摂理を諾い
26 人の子への神の御業を肯ずるだろう



*正直難航しております。しかし、22行目からの「吾が内なる闇の光」には心ときめきました。
この時点ですでに失明し、おそらくは生涯をささげたのだろう共和制の崩壊後も生き続けなければならなかった詩人が「神の摂理」を受容するには、このParadise Lostを書くためにこそ自分は存在していたのだ……と天啓的な何かを感じる必要があったのかもしれません。


失楽園 6~15行目

2019-10-21 23:56:38 | ミルトン〔失楽園〕
Paradise Lost
Book I
ll.6-15

6 Sing Heav’nly Muse, that on the secret top
7 Of Oreb, of of Sinai, diddst inspire
8 That shepherd, who first taught the chosen seed,
9 In the beginning how the heav’ns and earth
10 Rose our Chaos; or if Sion hill
11 Delight thee more, and Siloa’s brook that flowed
12 Fast by the oracle of God; I thence
13 Invoke thy aid to my advent’rous song,
14 That with no middle flight intends to soar
15 Above th’ Anian mount, while it pursues
16 Things unattempted ye in prose or rhyme.

楽園の喪失
巻一
6~15行目

6 その様を 詠えよ天の詩神(うたがみ)よ 秘められた
7 オラブの あるいはシナイの頂で 牧びとを
8 促し 選〔よ〕られた種にはじめに
9 天地〔あめつち〕のいかにして混沌より
10 成るかの始原を教えた者よ あるいは若しシオンの丘や
11 神の聖所の傍らを迸るシロアの流れが 汝をより
12 歓ばせるなら 願わくば吾が勇み立つ詩(うた)を援けよ
13 生半ならぬ飛翔で イオニアの山を
14 舞い越え 嘗て語りも扱わず 歌も唄わぬ
15 ことどもを 求める吾が詩(うた)を



*便宜的に行番号を振ってみました。


失楽園

2019-10-18 23:58:35 | ミルトン〔失楽園〕
再開がてらの景気づけにロバート・フロストを保留してParadise Lostに挑みます。
……何度挑んでも常に44行目あたりで挫折したのですが……今回はせめて行数三桁まで行きたい。

私事ながら、そしてなぜかは説明しがたいながら、私はこの頃人生をもっと前向きに生きよう! という気分に溢れております。吾がBrave New worldのモットーはmemento mori and Carpe Diem。死を思え、そして今を掴め。が、具体的にどう掴んでいいのやら考えあぐねているため、とりあえず無謀な挑戦に走ります。長文を失礼。夜中のハイテンションです。

Paradise Lost
Book I

Of man's first disobedience, and the fruit
Of that forbidden tree, whose mortal taste
Brought death into the world, and all our woe,
With loss of Eden, till one greater man
Restore us, and regain the blissful seat,


楽園の喪失

人の初めの抵抗〔あらがい〕と 戒められた木の
実の 不死ならぬ味わいとが
この世に死をもたらし 吾らすべてを嘆かせて
楽土を失わせしめた ひとりの更に大いなる男が
吾らを立ち戻らせ 言祝がれた御座〔みくら〕へ着くまで