私的海潮音 英米詩訳選

数年ぶりにブログを再開いたします。主に英詩翻訳、ときどき雑感など。

ドーヴァーの浜 29~34行目

2014-10-31 23:34:24 | 英詩・訳の途中経過
Dover Beach

Matthe Arnold

Ah, love, let us be true
To one another! for the world, which seems
To lie before us like a land of dreams,
So various, so beautiful, so new,
Hath really neitherjoy, nor love, nor light,
Nor certitude, nor peace, nor help for pain;


ドーヴァーの浜

        マシュー・アーノルド

愛よ 吾らをおたがひに
信じあわせてくれ 吾らのまへに
よこたわるこの世は さながら夢の地のやうに
くさぐさにうるわしく あたらしく思われるけれども
じつのところはよろこびも 愛もひかりも
たしかさも 憩ひも痛みからの救もないのだから

ドーヴァーの浜 21~28行目

2014-10-25 12:24:03 | 英詩・訳の途中経過
Dover Beach

Matthew Arnold

The Sea of Faith
Was once, too, at the full, and round earth's shore
Lay like the folds of a bright girdle furl'd.
But now I only hear
Its melancholy, long, withdrawing roar,
Retreating, to the breath
Of the night-wind, down the vast edges drear
And naked shingles of the world.


ドーヴァーの浜

       マシュー・アーノルド

信仰の海も
かつてはみちきり くりたたねた輝く帯のひだのやうに
地の岸をとりまいてゐたのに
いまやただきこえるのは
ものうく 長くさかりゆくうねりが
夜風の息吹からはなれて 此岸の漠たる丘のへりと
むきだしの礫の浜へと落ちる音ばかりで



 ※27行目「此岸」は「このきし」とお読みください。
  ついでに22行目「くりたたねた」はいちおう本歌取りです。↓

   君が行く 道の長手を 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも〔万葉集3724』

  意味としてはふつうに「蛇腹に折りたたんだ」のつもりで使いましたが……私のなかに「天の火」の印象が残っているるためか、金色に輝く光のひだが環状の海のまわりをとりまいているイメージに借用したくなりました。
 第一連でも思いましたが、この作品はなによりも視覚的に美しい気がします。

ドーヴァーの浜 15~20行目

2014-10-18 10:42:08 | 英詩・訳の途中経過
Dover Beach

Matthew Arnold

Sophocles long ago
Heard it on the AEgean, and it brought
Into his mind the turbid ebb and flow
Of human misery; we
Find also in the sound a thought,
Hearing it by this distant northern sea.


ドーヴァーの浜

       マシュー・アーノルド

ソポクレスはとほいむかしに
同じ音をエーゲの海できき 澄みやらぬ
潮のおとろへと ひとの惨めさのながれとを
こころにもたらされた 吾らも
このひびきのうちにひとつの念をみいだす
はるかな北の海辺で同じ音をききながら



 ※16・20行目「同じ音」は「おなじネ」、19行目「念」は「オモイ」とお読みください。
  ソポクレスは御存じギリシアの三大悲劇詩人。いま辞書で調べましたら『オイディプス王』の人でした。
   

ドーヴァーの浜 〔9~14行目〕

2014-10-11 15:49:20 | 英詩・訳の途中経過
Dover Beach

Matthew Arnold

Listen! you hear the grating roar
Of pebbles which the waves draw back, and fling,
At their return, up the high strand,
Begin, and cease, and then again begin,
With tremulous cadence slow, and bring
The eternal note of sadness in.


ドーヴァーの浜

       マシュー・アーノルド

耳を澄ましてごらん ただそのみぎわから 擦れあふ小石の
うねりがきこえる 波によせもどされ とびちり
引き残されて 高いなぎさへあがり
はじまり とまり そしてまたはじまり
ゆつくりとをののく抑揚とともに
果てしない悲哀のしらべをもたらす



 ※14行「悲哀」は「カナシビ」とお読みください。
  ……この行の訳は迷いました。
  まず「Eternal」を素直に「永遠」にするか、個人的に定訳と決めている「非時/トキジク」にするか、和語で「永久/トコシエ」あるいは「常/トワ」にするか、音韻を重視して「果てしない」にしてしまうか、これだけで5パターン。
 加えて「Sadness」のほうも、「悲しみ」か「悲しび」か「悲哀/ヒアイ」か、折衷案で「悲哀/カナシミ〔ルビ〕」かと、これまた4から5パターンで迷ったため……順列組合せ的に果てしなく迷いぬきました。ここは後でまた変えるかもしれません。

ドーヴァーの浜 6~8行目

2014-10-03 22:14:44 | 英詩・訳の途中経過
Dover Beach

Matthew Arnold

Come to the window, sweet is the night-air!
Only, from the long line of spray
Where the sea meets the moon-branched land,


ドーヴァーの浜

     マシュー・アーノルド

およりよ窓のそばに 夜の空気が甘い
あわだつ長いみぎわで
海と月に白んだ大地が出会つてゐる



 ※センテンスの途中ですがひとまず切ります。相変わらず心もとない旧仮名づかひ……