あなたが金沢に向かうとき、風
景はどんなふうだったでしょうか。
あの日と変わりはなかったです
か?
といっても私には、あの日の風景
を、思い出すことはできません。
だって車窓の外のことなど、眼中
には、なかったのですから。
だから今、あなたの旅の風景を
浮かべるかわりに、一編の詩を、
味わっています。
ここにあるのは荒れはてた細な
がい磯だ
うねりはかるかな沖なかに湧
いて
よりあいながら寄せて
くる
そしてここの渚に
さびしい声をあげ
秋の姿でたおれかかる
そのひびきは奥ぶかく
せまつた山の根にかなしく
反響する
がんじょうな汽車さえもため
らいがちに
しぶきは窓がらすに霧のように
まつわってくる
ああ越後のくに 親しらず
市振の海岸
ひるがえる白浪のひまに
旅の心はひえびえとしめりを
おびてくるのだ
中原重治がこの詩を書いたころ
は、旧北陸本線の車窓から、海
が見えたそうです。
私たちの旅では、ありえなかった
はずですが、
けれど今、なぜか心の中に、日
本海が見えてきます。
あなたは、何の影におびえているの
でしょうか。
影なんてないのに、あなたがそこ
に影を見るから、影が生まれてし
まうんですョ。
あなたの心配は馬鹿げているけ
ど、そんな心配をするあなたを
心配して、私はコロコロ笑えな
くなってしまいます。
もしも、もしもこの恋が終わる
としたら、それはあなたが私を
失うという形でだ、そんなふう
に決めていませんか?
いつか失うものという前提で、
私が輝いているのだとしたら、
それはとても悲しいことです。
私にだって、あなたを失うと
う可能性(いや、権利かな?)
は、あるのですから。
米原まわりで、金沢に向かいます。
「天狗舞」という朗らかな名前
のお酒で、酔いたいな、と思って
います。