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『とある化学(分子美食学)の調理法(レシピ)』Vol1.4

2012-01-21 21:22:39 | とある化学
四章:Ramen Wars Ⅰ Agin《ラーメン戦争1 再び》


 「美味とは食物そのものにあるのではなく味わう舌にあるものである」--ジョン・ロック




 その頃、上条 当麻の部屋では、調理(キッチンファイト)を終え、なべのラーメンをドンブリへ移し、きざんでおいた少量のネギを入れて野菜ラーメンを完成させていた。


「へへ…… 一丁あがり~」


 そして熱々のラーメンを食卓テーブルに運んでいる、そのときに停電(ブラックアウト)した。


「なにっ!?」


 部屋は一転して暗闇に包まれる。


「うっ!」


 これが停電(ブラックアウト)だけなら、人並み以上の運動神経をもつ当麻には、何の問題がなかったに違いない。けれど、このときは足元にケータイが落ちていた。暗闇の周りが見えない状況で、不運にもケータイを全体重をかけて踏みつけてしまったのだ。


「いてーー! あちちちーーーーーーっ!!」


 全体重をかけられたケータイは不気味な音を立てて破壊され、当麻は足を滑らして見事に転倒した。手に持っていた熱々のラーメンは空中に放り出されてシャワーとなって当麻に降り注いだのである。
 全身ラーメンまみれになって、空になったどんぶりを頭に被った当麻は、暗闇包む部屋の中で叫ぶ。


「ふ・ふ・ふ・ふこうだーーーーーーー!!」


 悲痛な叫び声は、寂れた部屋にむなしくこだまする。


 だが、彼は知らない。転倒した拍子に、ズボンの後ろのポケットに入れていた財布の中身、生活費(現金)を引き下ろすためのキャッシューカードを割ってしまっていることに。
 彼は知らない。先ほど掛かってきたケータイは、悪友にしてクラスメート土御門 元春からの夕食の誘いであったことを。
 そして、彼はまだ知らない。翌日、部屋のベランダに引っかかっていた白い修道服を着た不思議少女(インデックス)と運命的な出会いをすることに。







『とある化学(分子美食学)の調理法(レシピ)』Vol1.3

2012-01-21 04:17:12 | とある化学
三章:A Skill and Close Friends and Rice Gruel Ⅰ《能力と親友とお粥1》


 「ジゴよ、私の賞賛を受けてくれ。私は君のためにしばしば袖にしたのだ。男爵夫人や公爵夫人の食卓で、最高の美味なる肥育鶏を、そして山鶉のキャベツ添えさえも」--ジョゼフ・ベルシュー




 御坂 美琴が、第7学区一帯を停電(ブラックアウト)させてしまう少し前。初春 飾利の部屋で、佐天 涙子が台所(キッチン)に立っていた。
 夏風邪を引き、学校を休んだ初春を涙子がお見舞いに訪れていたのだ。


 涙子は長い黒髪に白梅の花を模した髪飾りを着けている女の子。初春は黒髪のショートヘアに彩り鮮やかな花のカチューシャを付けていた。二人は、ともに柵川中学の1年生の同級で親友同士だった。


 実は、ここに先ほどまで美琴と黒子もいた。初春と黒子は、同じ『風紀委員(ジャッジメント)』に属し相棒(コンビ)を組んでいて、黒子は初春のたってのお願いから美琴を二人に紹介した。
 四人はすぐにうち解けた。知り合ってまだ日が浅かったが、年齢も近かったし、美琴は人見知りなど縁がなく、涙子も同様だった。


 そんなとき、初春が風邪を引き、三人でお見舞いに来たのだが、『幻想御手(レベルアッパー)』の情報を得たため、二人は飛び出していってしまい、初春と涙子が残されたのだった。


 台所(キッチン)に立つ涙子は、テキパキと調理していく。彼女も例に洩れることなく小学生の頃から学園都市に来て、一人暮らしをしていたからである。


 彼女は、風邪引きの初春のために、消化によいネギ粥を作っていた。



【風邪のお粥:薬膳ネギ粥】


【材料】
  ネギ →2本
  米  →50g
  砂糖 →スプーン1杯
  水  →500~600cc おかゆの固さはお好み


【作り方】
  1.ネギの白い部分を適当な長さに切る
  2.土鍋(どんな鍋でも可)にお米を入れ約500~600ccの水で煮る
  3.お湯が沸騰したら、弱火にして、米粒がくずれて粥状になるまで煮る
  4.そこへ、ネギ・砂糖を入れて、そのまま弱火で煮る
  5.ネギが柔らかくなったらネギ粥の完成



 サクサクと、包丁が、ネギを小刻みにきざむ音がする。


「そう、その『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』…… 勉強しとけ~って言われても、よくわかんないのよね~」


  涙子は、調理を続けながら、学校で出された宿題を初春に聞いていた。


 『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』。それは異能力者が個々に持つ特殊な感覚であり、現実や常識から切り離された独自の、自分だけの世界を指し、これを得ることが超能力を獲得するための必須条件だ。


 初春は起き上がり、ベット横の小さなテーブルの前に座っている。


「う~~ん。何でしょうね…… 自分だけの現実って、知識としてはあるんですけど……」


 涙子が学校から持ち帰った宿題ノートを見ながら答えた。涙子はネギをきざみつつ、つぶやく。


「自分だけか…… 初春だけ。あたしだけ。そんな現実って、何だろうね? 妄想とか?」


「あ、 近いかも!」


 初春の言葉に思わず手を休めて涙子は振り返った。


「えっ?」


「妄想はアレですけど、思いこみとか、信じる力とか、そういう強い気持ちじゃないですかね~」


「へぇ~ 信じる力か……」


 彼女はふたたび手を動かし始めてネギを入れ、オタマでなべをかきまわした。


「わたし自身、レベル1なので、ぜんぜん説得力ありませんけど……」


「うう~ん。ありがとー! 正直、自分だけの現実って言われて、チンプンカンプンだったけど…… 何となくわかった気がする」


 おたまですくった熱いお粥を、ふう~ふう~と冷まして味見する。


「あたしも信じていれば、いつかレベル上がるかな?」


「たいじょ~ぶですよ。佐天さんは思い込みの激しい女(ひと)ですから」


「何気にひどいことを言うね~ キミは」


「へへへ……」


 涙子はできあがったお粥を初春の待つテーブルへと運んでいった。作ったお粥を二人で食べて、あと片付けも終わり、ひと息ついた頃。


「そうだ。初春、背中拭いてあげようか? 風邪引いて、お風呂入っていないんでしょ」


 初春は、涙子の言葉に驚いた。


「え~! そんな悪いですよ。佐天さん」


「なに遠慮しんのよ。困ったときは、お互い様。親友でしょ!」


 少し戸惑いながら初春は小さな声で答えた。


「じ・じゃ~ お願いします……」


 初春は少し頬を染めて、照れながら涙子を見つめる。


「よし! きた! 上着を脱いで、ここに座ってて。準備するから~」


 そう言った涙子はバスルームへ行き、洗面器にお湯を張って戻ってきた。そしてパジャマの上着を脱いで、それで前を隠した初春のうしろにに座り、彼女の背中を拭き始めたのだった。


「初春はさぁ~ 高レベルの能力者になりたいって、思わない?」


「え~?」


「御坂さんや白井さんみたいな」


「う~ん? そりゃ~ 能力が高いことにこしたことないですし、進学とか、その方がだんぜん有利ですけど~ 」


「やっぱりさぁ~ ふつうの学校生活なら、外の世界でもできるし、超能力に憧れて学園都市に来た人、結構いるでしょ」


 涙子は、初春の背中を拭いていたタオルを洗面器にひたしてしぼって、ふたたび彼女の背中を拭き始める。


「あたしもさぁ~ 自分の能力って何だろう? どんな力が秘められているんだろう…… って、ここに来る前の日は、ドキドキして眠れなかったよ。それが最初の身体検査(システムスキャン)で、あなたにはまったく才能がありません。レベル0です…… だもん。あ~あぁって感じ…… 正直へこんだし……」


「その気持ち、わかります。わたしも能力レベルはたいしたことありませんから…… けど、白井さんとお仕事したり、佐天さんと遊んだり、毎日楽しいですよ。だって、ここに来なければ、皆さんと会うこともできなかったわけですから…… それだけでも学園都市へ来た意味があると思うんです」


「初春……」


 涙子は、背中から初春を抱きしめた。


「ああっ~~ん! かわいいこと言ってくれちゃって! ご褒美に全身くまなく拭いてあげる~!!」


「え・えー! 佐天さん!! 手の届くところは、自分で拭きますから~」


 初春は、涙子の抱擁から逃げようとするが―― と、とつぜん部屋の明かりが消えた。


「え! 停電!?」


 それは美琴が引き起こした停電(ブラックアウト)だった。








『とある化学(分子美食学)の調理法(レシピ)』Vol1.2

2012-01-20 02:04:31 | とある化学
二章:Electric Princess of The Absoluteness Ⅰ《完全無欠の電撃姫1》


 「料理とは、私にとって毎日、"詩"を編んでいるようなものですね。その日によって、その日に誰と会うかによって、私の心を映して変化してゆく」--ピエール・ガニェール




 学園都市の第7学区――
 ここは中学・高校といった中等教育機関を主とし、同校に通う学生や教師たちの生活の場となっている。
 上条 当麻もこの学区に住しているのだが、最近ある事件が断続的に発生していた。
 いわゆる連続爆破『連続虚空爆破(グラビトン)』事件に端を発し、のちに『幻想御手(レベルアッパー)』事件と呼ばれるものだった。


 『幻想御手(レベルアッパー)』とは、聴くだけで簡単に能力レベルを引き上げるという効果を持ち、都市内で密かに流通している不正な音楽ファイルのこと。
 使用者は、一時的に異能力のレベルが上がるが、他人の脳波を無理に当てはめているので体への負担が大きく、使用一定期間後に昏睡状態に陥ってしまう。そんな物騒な品物(危険物)なのだ。


 『連続虚空爆破(グラビトン)』事件を解決するも、つかの間。『幻想御手(レベルアッパー)』使用による昏睡する生徒たちが多発という重大な事態が発生し、『風紀委員(ジャッジメント)』と『警備員(アンチスキル)』が捜査を進めていた。


 そして、化粧気はほとんどないけれど、端整な顔立ちに肩まで届く短めの茶髪をピンで止め、私立名門女子中学の常盤台の制服に身を包んだ女の子。学園都市に7人しか存在しないレベル5のひとりであり、『超電磁砲(レールガン)』、『発電能力者 / 電撃使い(エレクトロマスター)』、『常盤台のエース』、『ビリビリ(特定の人物より)』など数多くの異名持った御坂 美琴が事件の解決に乗り出していた。


 いま美琴は、革ジャンにジーンズといった、いかにもと言ったいでたちの女と対峙している。


 『幻想御手(レベルアッパー)』の関する情報を得られるとの情報を元に出張ってきたのだが、舎弟たちから『姐御(あねご)』と呼ばれる『武装無能力者集団(スキルアウト)』の女性リーダーに絡まれてしまったのだ。


「くっ!!」


 姐御(あねご)から繰り出された特殊能力『表層融解(フラックスコート)』に対して、美琴は電撃を放ち、空中放電しながらに向かっていく。


「フッ……フフフ」


 姐御(あねご)は、かすかな笑いを浮かべながら、地面(アスファルト)に右手を着き能力を使い、壁を作って電撃を防いだ。
 『表層融解(フラックスコート)』は、アスファルトの粘性を操る能力のことで、その形状を自在に変化させることができるのだ。


「こんな攻撃、あたいにゃ…… 」


 壁の一部を砕いた電撃は、姐御(あねご)まで届くことがなかったが、アスファルトを砕いた威力で辺りは煙に包まれた。


「な・何!? 消えた??」


  煙が消え、彼女が周りを見渡すと美琴がいなくなっていた。突然目の前から消えたのだ。


「やるじゃない!」


 意外な方向から声が聞こえる。美琴はビル側壁に立っていた。


「な・何だー そりゃー!! 何でそんなところに!?」


「電流ってね…… 磁場を作るのよ。それを壁の中の鉄筋に向けると、便利でしょ!」


 そう言いながら再び電撃を放つ。


 今度もアスファルトの壁に防がれたが、先ほどよりも威力があった。壁を根元からすべて破壊しアスファルトがはげて地面が露出している。


「なっ!」


「どう~ そろそろおとなしく喋ってくれる気になった?」


 姐御(あねご)は、その威力に驚がくした。


「なるほど…… 最初の一撃は本気じゃなかったってわけだ。そして今の一撃も、わざと外してくれたと」


「そうよ~ わかったら、おとなしく……」


「ふざけんなーー ! あたいはまだ負ちゃいないんだよ。あんたも能力者なら本気で来なーー !! あたいの鉄(くろがね)の意志、そんなちんけな電気ごときで、砕けるもんなら砕いてみなーー!!」


 姐御(あねご)は、両手のこぶしを強く握りしめながら叫ぶ。


「フッ…… 、よっ~~と! 嫌いじゃないわ~。そういうの」


 美琴は不敵な笑みを浮かべながら、ビルの側壁から降りてきた。


 地上に降り立った御坂 美琴の周りでは、空気中に電撃が行き交う。電撃が空気を引き裂く音が徐々に大きくなり、周りの音を包み込んでいった。


「じゃ~ お言葉に甘えて……」


 さらに電撃の威力を増すために左手を頭上に掲げる。


「お姉さまー 待って!」


 そのとき、美琴の背後に『空間移動(テレポート)』してきた者が声をかけた。


 白井 黒子である。美琴と同じ常盤台中学に通う後輩で、第177支部所属の『風紀委員(ジャッジメント)』であり、ルームメイトだった。


「わかってるって…… (手加減しろ、ってことでしょ)」


 言葉の半分は、あえて口にしない。自分が作り出した電撃の威力が、どれほどのものか、しっかり把握していた。
 これほどの威力、直撃しなくとも、相手に致命傷を与えるには、じゅうぶん過ぎるほどなのだ。そこまでする必要はない。ただ相手をビビリさせればいい。


 ふたたび黒子が叫ぶ。


「わかってませんの! お姉さま!!」


  ――と、あたり一帯が、停電(ブラックアウト)した。


 美琴の作り出した強大な電撃は、学区内の数ブロックを停電(ブラックアウト)させた。彼女と姐御(あねご)が抗争していた場所の近くに変電施設があったのだ。


 学園都市は、最先端技術によって整備され、外界にくらべ10年以上も進んでいる。
 とうぜん送電設備においても、いち早く電力制御網(スマートグリッド)が導入されていて、滅多なことでは停電(ブラックアウト)など起こるはずもないのだが、今回はちがった。美琴の電撃が近くにあった変電施設を需要過多(オーバーロード)させたのだ。



 美琴と黒子は、変電設備ちかくの街路を歩いていた。


「だから…… 待って、と言いましたのに~」


「仕方ないじゃない。まさかこんなところに変電施設(こんなもの)があるなんて!」


 美琴は変電設備の案内看板をたたく。


「ですから、わたくしが……」


「あんなギリギリ、間に合うわけないでしょ! それより、どうしてくれんのよ!」


「自業自得というものですわ~」


 『幻想御手(レベルアッパー)』の有力な情報をほとんど得られないまま、二人は帰路につく。寮の門限がさし迫っていたからである。



 そして、ひとりポッツンと、その場に取り残された姐御(あねご)は、呆けて座り込んでいた。


「あたいの…… 負けか……」







『とある化学(分子美食学)の調理法(レシピ)』Vol1.1

2012-01-19 01:25:36 | とある化学
一章:Ramen Wars Ⅰ《ラーメン戦争1》


 「ふだん何を食べているのか言ってごらんなさい、そしてあなたがどんな人だか言ってみせましょう」--ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン




「はあ~~ぁ。不幸だ…… 」


 何度目だろうか。上条 当麻は冷蔵の中をのぞきながら、ため息を吐いた。


「はあ~~ ロクな物が入ちゃ~いねゼェ」


 何度、吐こうが状況は変わらない。


 短めの黒いツンツン髪に学生服といった、一見どこにもいるような少年は、人口230万の巨大な学園都市の中で、唯ひとり、どんな能力でも打ち消すことのできる『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を右手に宿している。


 ある意味、能力者ばかりの学園都市では無敵な力を有しているといえるが、定期的に行われる身体検査(システムスキャン)では、特殊さゆえにどんな能力でも打ち消してしまって、結果はいつも"0"―― 
 つまり無能力者(レベル0)であり、落ちこぼれのレッテルを貼られた平凡な高校生なのだ。


 そんな一人暮らしの、平凡な高校生の、レベル0(落ちこぼれ)の、夏休み前の、しかも月に1度の生活費(現金)支給される前日とあっては食いぶちに困る状況だった。


「はあ~~ あんとき、卵を全滅(皆殺し)させたのは痛かった…… 痛すぎるっ」


 実は数日前、スーパーの特売日の帰り道で転倒し、卵1パックすべてを割ってしまっていた。


「脱ぎ女に遭遇するし、ビリビリに絡まれるわ。ふ・ふこうだ…… 」


 しかもその日は、不幸な一日で、自分が止めた車の場所が分からずに迷っていた女性(お姉さん)に、親切にも場所探しを手伝ってあげたのに、その女性(お姉さん)が突然服を脱ぎだして、周りの人たちにチカンに間違われる。
 さらに学園都市に7人しか存在しないレベル5。『超電磁砲(レールガン)』の異名を持つ中学生少女、御坂 美琴に追いかけまわされるといった具合だった。


 当麻は、いまわしい記憶をふり払うかのように頭をふり、繰り返されるため息を吐きながら、残り物(残飯)をかき集めて冷蔵庫の扉を力強く閉めた。


「しかっ~し、これぐらいで上条 当麻様はめげません! こんなこともあろうかと秘密兵器を常備している」


 気をとり直して台所(キッチン)の下の扉を開け、ダンボール箱を取りだす。そしてダンボールの中からインスタントラーメンの袋を取りだした。
 インスタントラーメンは、ビンボー学生にとって、まさに命をつなぐ食料(マジック・アイテム)である。
 カップラーメンと比べ、まとめ買いすれば格安で、少し手を加えれば立派な料理として飢えを満たすことのできる素材だった。
 しかも保存が利くので、いざという時のために箱買い(大人買い)をしていた。
 ただこの数日間、朝は抜き、昼は学食、夜はラーメンというローテーションが続いている。


「今日までの辛抱。明日になれば口座から生活費(現金)を引き下ろすことができる」


 当麻は立ち上がり、おもむろになべに水を入れ火にかける。そして冷蔵庫にあった残り物(残飯)を適度の大きさに切り分け、フライパンを熱してごま油を引いた。


「ちゃちゃと、おっぱじめますかー♪」



【野菜ラーメンの調理法(レシピ)】 材料 (2人分)
 ラーメンの麺 2玉
 豚バラ肉 100g (下味)塩・こしょう・酒 各少々
 野菜(キャベツ・にんじん・もやし) 合わせて両手1杯
   ◇しょう油・オイスターソース 各小さじ1/2
   ◇塩・こしょう 少々


【スープ】
 ごま油 少々  にんにく・しょうが 各1片  湯 3・1/2カップ強
   ○中華スープの素 小さじ3
   ○塩・砂糖・酒 各小さじ1
   ○こしょう 少々


【作り方】
 1.スープ用と麺ゆで用のお湯を沸かし始める。
 2.野菜類は食べやすいように切る。
 3.まずはスープを作る。フライパンを熱し、ごま油を入れ、にんにく・しょうがのみじん切りを入れ炒める。
 4.にんにくの香りが出てきたら、○印の材料を入れ、味をととのえて、こしてスープの完成。
 5.つぎに.麺のゆでるお湯で、もやしをザルのまま、さっと湯どうしをして、麺をゆで始める。
 6.再びフライパンにごま油引き、熱して豚肉を強火で炒める。
 7.軽く炒まったら、にんじん・キャベツ・もやしの順に炒める。
  ◇の調味料を加え、味を見つつ、美味しい野菜炒めになるよう味をととのえる。
 8.先ほど作ったおいたスープを入れてアクを取る。
 9.麺がゆで上がったらよく湯きりをし、麺をどんぶりに移し、スープ・野菜を入れて完成!



「ふ・ふ・ふ~ん、ふ・ふ・ふ~ん♪ ふ・ふ・ふ~~~~ん♪♪」


 調理法(レシピ)には2人分の作り方が書いてあるが、当麻は1人暮らしなので、2人分も作る必要はない。
 材料の分量を半分に、さらにいえば豚肉などという高級食材があるべくもなく、魚肉ソーセージで代用するなど鼻唄まじりに、淡々と調理をこなしていた。
 小学生の頃から学園都市へ来て寮生活を始めた当麻にとって、調理(キッチンファイト)は、もはや日常となっていたのである。


 ―― そのとき、食卓テーブルの上においてあったケータイが鳴ったのだが、マナーモードにしておいたので音がしない。
 そしてバイブ機能のせいでケータイは振動し、徐々にテーブールの端へ移動していき床へ落下した。しかし調理(キッチンファイト)に熱中している当麻は、まったく気がついていなかった。







『とある化学(分子美食学)の調理法(レシピ)』Vol1.0

2012-01-18 06:08:27 | とある化学
序章:Depression of Molecular Gastronomy Ⅰ《分子美食学の憂うつ1》



 「金星の大気温度を測れるというのに、スフレの中で何が起きているかを知らないというのは、我々の文明の貧しさを表している」 --ニコラス・クルティ


 分子美食学(ガストロノミー)―― 料理とは化学であり、その過程において食材の変化の仕組みを分析、解明し、調理技術と美食学(ガストロノミー)上の現象を科学の視点から社会的、芸術的、技巧的な要素で解明するもの。


 1992年、イタリアのエーリチェに科学者と数人の料理の専門家が集まり、伝統的な料理を科学的に分析を行うことを論議するために研究会を開催し、この研究会おいてハンガリーの物理学者ニコラス・クルティは、"Molecular and Physical Gastronomy(分子/物理ガストロノミー)" という造語で命名したことが発端となる。


 分子ガストロノミーの概念は、もっとも有名なフランス料理シェフのアントナン・カレームが19世紀初頭に、スープを煮出す時は「湯をとてもゆっくりと煮ないと、アルブミンのコラーゲンが硬くなってしまう。水が肉に十分浸透する時間がなければ、オズマゾームのゼラチン質が分離していかない」と言ったのがその前触れだったといえる。


 ただ、科学で培われた技術を食の研究に使うという発想は新しいものではなく、ロンドンに保管されている記録によれば、紀元前2世紀頃、天秤を使って腐った肉が新鮮な肉より軽いのではないか試そうとしていた。それ以来、多くの科学者が食と調理に関心を持ってきたのだ。





 そして、ここ―― 総人口230万人弱、東京西部の大部分を占める巨大な都市。人口の8割が学生ということから『学園都市』と呼ばれ、外部より十年以上も進んだ最先端科学技術が研究運用されている科学の街が存在する。


 『学園都市』で暮らす学生たちは、超能力開発という名において人為的な特殊なカリキュラムが組まれ全生徒に実施されていた。
 そして個人ごとに、『無能力(レベル0)』から『超能力(レベル5)』の6段階に振り分けられいる。


 都市は、完全に外の世界と隔絶しており、全ての学生は親元を離れ、自立を余儀なく強要され、一部を除き彼らは自炊していた。


 これは学園都市に生きる者たちの日常を描いた物語である―― "調理"と"化学"が交差するとき、新たな物語が始まる。