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「冥府の河の渡し守・カローン」

2010-07-31 00:22:41 | ギリシャ神話

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 「俺は地獄の渡し守。年寄りで悪かったな」


 ハーデースのところで少し紹介したカローン。さしずめハーデースが悪代官とすれば、カローンはあこぎな廻船問屋。


 「銀貨一枚も用意できねえだとぉ? なめとんかい! だめだめ。ここから一歩も通しゃしねーぜぇ」


 死者から渡し賃をぼったくる、冥界の河スチュクスの渡し守なのだ。


 冥土の土産に銀貨を持ってこなかったホトケは、死者の国へ行けないで、この河の人間界側で永遠に彷徨わなければならないのだ(よって西洋では、お葬式のときに銀貨を棺おけに入れる習慣が残っていて、この銀貨を葬送銀貨という)。
 まさに死者にムチ打つ所業―― 、地獄に落ちろカローン! ってすでに落ちているって…… 、失礼しました。


 「じゃが、俺が渡すのは、あくまでも死者だけだ。生きている奴は入れねえってのが、お決まりだからな」というのがカローンの口癖だった。


 ところが、この世はやっぱり面白い。このお決まりを知りながら、あえて挑んだ者がいた。オルペウス、オデュッセウス、ヘーラクレースの三人だ。


 最上の詩人であり、音楽家であったオルペウスは、毒蛇に咬まれて死んでしまった最愛の妻エウリュディケーを追ってハーデースの死者の国へ行こうとする。
 もちろんカローンが三途の川をすんなり通してくれるはずがない。そこでオルペウスは見事な竪琴を弾きながら、カローンの若いころの舟歌を歌った。
 カローンは、つい日頃の憂鬱で陰険な気持ちを忘れ、涙を流して感動し、思わずオルペウスを船に乗せて渡してしまう(この後のエピソードは、以前紹介したとおり)。


 あと二人はどうしたのか? トロイア戦争の武将オデュッセウスは、カローンをだまして渡り、ヘーラクレースは、コブシにものを言わせて脅迫して渡った。
 まったくギリシャ神話屈指の英雄も、こういったところでは、結構酷いことをしているのだ。


 「正攻法でいっても、埒が明かない奴なんだよ。でも、正義は最後に勝たなきゃいかないからね」と語るのはヘーラクレース(オデュッセウスはノーコメントだった)。


 あこぎな三途の川の渡し守には説得は効かないもの。でも、カローンだって淋しい男なのだ。毎日死者ばかりをお客にしていると陰険にもなるさ。カローンを更正させるには、転職が必要なのかもしれない。
 とにかく、あのハーデースの近くにいるようじゃ見込みはないけどね。



「虹の神・イーリス」

2010-07-30 01:38:25 | ギリシャ神話

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 「あのおっかな~いヘーラーの秘書さん」


 女神仲間のKさん、イーリスを評して曰く。


 「とっても優しくて、いつも喧嘩の仲裁役ってところかしら。何てたってあの怖~いヘーラーさまの使者をやっていて、命を落とさないだけでも特筆に価するわ。だからある意味、イーリスって凄い女神なのよ」


 こんな感じでイーリスの評判をとても良かった。


 彼女は虹の神さま。ヘーラーを中心に色々な神の使者役となって今日は東、明日は西と大活躍をしていたのだった。


 神と神の間に虹の架け橋を架けるように、善良な心で様々に尽くしていたのだ。
 例えば、大きな嵐があれば、荒れ果てた大地を照らす光を使って、七色のアーチを架けて人々の心に希望と暖かさで満たした。


 ところが、そんな優しいイーリスにとんでもない事件が勃発する。いつものように、この手の事件の首謀者はゼウスだった(このヒヒ爺は何を考えているんだか、えっ、頭は使わずに下半身を使ってるって…… 失礼しました)。


 こともあろうに、全能の神ゼウスは、この評判の良いイーリスをとんだスキャンダルに引きずり込んでしまうのだ。
 ゼウスは、アプロディーテーと危険なアバンチュールの真っ最中。もちろんそれは世間、特に妻のヘーラーには内緒のこと。
 しかし、いつものことというか、毎度のことというか、二人の間に息子のエロースができてしまう(これには諸説があります)。


 しかも、その辺をしらっと、惚けておけばよいものを、何を慌てたのかゼウスは、苦し紛れに ――エロースは、虹の神イーリスと西風の神ゼピュロスとの間にできた子供である―― などと、とんでもないことを言い出したのだ。


 ヘーラーはもちろん怒った。でも彼女は、この噂をすぐに嘘だと見破っていたので(そうそうゼウスの手に騙されないよなぁ)、子供云々で怒ったいるわけではなく ――こんな噂を立てられて黙っているとは何事か―― と、イーリスをなじったのだ。


 イーリスは一切の弁解をしないで、ただそっと涙を流して、そしてヘーラーに微笑みかけるだけ。すると雨上がりの雲の間から虹のような光が、彼女の涙に輝いたのだった。
 このときばかりは、ヘーラーもオリュムポスの記録において、後にも先にも唯一初めて、簡単に怒りを静めたという。


 ちなみに、これが縁かどうかは知らないが、イーリスは、西風のゼピュロスを夫にしたともいわれている。
 それにも一つ。このイーリスは、以前紹介した"臭い、うるさい、意地汚い”の三拍子揃った怪物ハルピュイアのお姉ちゃんともいわれている(う~ん、似ての似つかないとはこのことか)。



第二十五夜 怪談 理科準備室の頭蓋骨

2010-07-29 14:17:46 | 不思議夜話
 今日は雨降りで、幾分か暑さも抑えられたすごし易い日です。雨は憂うつと言うけれど、時折は降ったほうが良いということでしょうか。


 ヴィクターが中学に通っていた頃の理科の先生が、ちょっと変わった趣味の持ち主で、解剖が好きだったんですよ。
 なんでも解剖しちゃうんです。ある時なんか近くでサギ(空飛ぶ鳥の鷺です)が車と衝突して死んでしまったことがありました。
 その場にいた先生は、そのサギの死体をもらい受けて、解剖標本にしたんですよね。そんな感じで、あれらこれやを解剖するんで、理科室にはかなりの数の解剖標本がありました(一人で理科室にいると、かなり不気味なんですよ)


 そして何でも解剖する、つまり切り刻んでしまうので、"切り裂きジャック"とか、ジャックに因んで、理科の先生ということから、いつも白衣を着ていたことから"悪のブラックジャック"とか、"死神ジャック"とか、密かに呼び称されていたんですよね。


 そんなちょっと気色の悪い先生が担当の理科の実験は、当然、理科室で行われるのですが、実験の前準備や後片付けは、持ち回りで生徒たちが行うようになっていました。いわゆる週番というやつです。


 そんなある日、理科室の隣にある理科準備室(例の死神ジャック先生の控え室も兼ねている)で、生徒たちが実験の準備をしていると、薬品棚の上に木箱があるのに気づいたんです。
 2メートルくらいある薬品棚の上に一つだけポツンと、人目につかないように壁に引っ付けるようにして置いてありました(上の方の薬品を取るために職員室から脚立を借りて、その上に載ったことで初めてその箱に気づいたそうです)


 木箱の側面は、当然、木板でできていたのですが、四面の内の一面だけがガラス張りになっていました。
 そのガラス張りになっている面が棚の壁面に向けられていたので、最初は全部が木板で覆われていると思ったそうです。
 ――何だろう?―― と不思議に思った生徒は、木箱をぐるりと回転させると、そこには人間の頭蓋骨が入っていました。
 つまり骨格標本というものです。しかし、よく見ると標本にしてよくできている。本物みたいで(といっても本物の頭蓋骨をじかに見たことがあるわけではないのですが)、TVで見たとおりです。
 しかも、ところどころに土がついていて、妙にリアルなんです。


 なにせ中学生ですから、話題に飢えている時期ですからねえ、あっという間に話に尾ひれ葉ひれがついて、 ――あの死神ジャックが密かに解剖した人間の頭蓋骨に違いない―― ということになったんです。


 しかし、あの頭蓋骨はどういった謂れのものか、まさか、じかに先生に聞くわけにもいかず、謎のままなんですよ…… 。そんな不思議な話でした。



「牧羊神・パーン」

2010-07-28 21:27:57 | ギリシャ神話

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 「明るく陽気な神さまは、笛を吹けば踊りだす」


 パーンというより、パンの方が通りがいい。なんと美味しそうな名前の神さまだこと。


 かのフランスの王妃マリー・アントワネットが、
 「パンが無ければお菓子を食べればいいじゃないの」と、うっかり言ってしまったために身を滅ぼしちゃったパンとはもちろん違う。


 この神さまは食べ物の神さまじゃなく、山羊、羊飼いの神さまという渋い役柄なのだ。どことなくアルプスの山々というイメージがして、妙に子供受けしそうな神さまなのだ。


 実はパーンはすべての神の中で最も年老いていて、元祖・音楽の神なんですね。音楽といえば、アポローンが有名なのだけれど、そのアポローンの笛もパーンが、シューリンクスを追って葦の原に彷徨ったときに、その葦から作った笛、つまりパーンフルートなのだ。
 彼に笛の音は、葦の原をそよぐ風に乗って、その霊感に導かれ、麗しい音色を醸しだすといわれている。
 まさに神業というべき醍醐味だった。でも、その葦の笛が、どうしてアポローンの手に渡ったのだろうか?
 事情は簡単―― 。


 「わしの葦の笛を、ヘルメースの馬鹿が盗んで、アポローンに売っちまったんじゃよ」


 でもね。そこは音楽を人生、いえ、神生の友にしているパーン爺さんのことだから、怒ったりしなかった。


 「まぁ、ええんじゃね~の」と穏やかに周りの人間をなだめちゃったりして。


 長く生きてきてすっかり練れて丸い性格になっているんですね。しかも羊飼いの神さまだから、穏やかで慌てることもないだろうし…… 。


 ところがこんな温厚な彼も歴戦の勇士だったこともある。パーンが活躍したのは、ゼウスと若い神々がクロノスと対決したときのこと。
 勇士といっても、武器を手に持って戦ったわけではなく、自分の音楽の才能を遺憾なく発揮したのだ。
 つまり戦いのときに、大きな閧の声を上げて、クロノス側を圧倒したというのだ。パーンが声を上げれば、たとえ巨神たちであっても、その声に怯え、後ずさりする始末だったという。
 一時は不利な情勢で押されていたオリュムポスの神たちは、このパーンの声で敵が怯んだ隙に優勢に転じた。
 このときの、パーンの声を聞いて驚くという状況から"パニック”という言葉が生まれたというのだ。


 この戦で勝利したゼウスは、パーンの手柄をとても重くみて、彼が多少悪さをしても、多目に見てやったのである。


 まあ、悪さをしても、叱られないというのは、案外味気のないものかもしれない。というわけで、羊飼いの神さまとしてのんびり暮らした。



「疫病犬と呼ばれて」<下>

2010-07-27 19:31:51 | リチャード・アダムス

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 『疫病犬と呼ばれて』下、リチャード アダムズ著、中村妙子訳、評論社


<あらすじ>
 動物生態研究所では、ローフは毎日のように水槽につけられ、溺れるまで泳がされていました。スニッターは頭を開かれて外科的手術を施され実験の日々を送っていました。


 研究所を逃げ出した二匹の犬は、満足な餌を得ることができず、日々衰弱していきます。また、彼らに家畜を襲われ、被害を蒙った農夫たちの犬を討伐する狩猟隊が迫ります。
 そして、二つの不幸がおきました。一つは、銃が暴発しスニッターの前で一人の男が死んでしまいます。
 もう一つは、ローフを撃ち殺そうと狙った男が足を滑らせ転落死してしまったのです。さらには二匹の犬が研究所を逃げる際、ペスト菌に感染しているという疑いも受けてしまいます。


 新聞社がこぞって、このことを記事にして二匹の犬を「疫病犬」と称し追い回し始めました。政府の役人も登場し、事態はとんでもない方向に―― 。そして、軍隊まで出動するはめになるのです。


 果たしてローフたちは、飢餓、狩猟隊や軍隊の銃による死の脅威から逃れ、安住の地を見つけることができるでしょうか?




<感想>
 今回の『疫病犬と呼ばれて』は、著作者の思想や哲学がふんだんに語られていて、『ウォーターシップダウンのうさぎたち』に比べて、大人を意識して書かれている。


 作中にシェークスピア、ミルトン、ディッケンズ等のSFからファンタジーまで、数多くの引用が施されており、歯切れの良い作風に仕上がっていると思う。


 一見すると動物ものファンタジーという感じがするが、実はサスペンス風になっていて、二匹の犬が如何にして、絶望的な状況を乗り越えていくのか―― ということが作品の中心に据えられている。


 現在、この『疫病犬と呼ばれて』は、絶版になっているが、是非とも復刻してもらいたい一冊である。