城内の一室でオセローとエミリアが話していた。
オセローの悪夢を醒ます者は誰もいないのだろうか。彼の眼を真実に向けさせる者はいないのか。
この場では、その問いを答えるものがエミリアなのだが……
オセローが恐るべき行為に移る前にデズデモーナの侍女エミリアを訊問し、エミリアは、彼の疑っていることを否定する。
イアーゴーが注ぎ込んだ毒が効果を発揮する前に、オセローは、その証拠を掴みたいと熱望したこともあったが、既に遅すぎた。
完全に妄想に取りつかれている彼には、火に油を注ぐことになってしまう。
'I durst, my lord, to wager she is honest,
Lay down my soul at stake: if you think other,
Remove your thought: it doth abuse your bosom,
If any wretch have put this in your head,
Let heaven requite it with the surpent's curse !
For, if she be not man happy; the purest of their wives
Is foul as slander.'
(旦那さま、奥さまに限って間違いないことをお誓い申します。
わたしの命を賭けてお請け合いいたします。奥さまをお疑いなら、
そんなお考えをお捨てくださいませ。御心に背くことですわ。
どこかの悪党がそんなお考えを吹き込んだのでしたら、
そんな奴は楽園の蛇のように天罰を受けるがいい!
あの奥さまがお心の清く、正しい方でないとしたら、
幸せな男なんてこの世に一人もございませんよ。どんな貞節な奥さまでも
ふしだらな女ってことになってしまいますもの)
オセローは聞く耳を持たない。
Othello: Bid her come hither: go.
{Exit Emilia.
She says enough; yet she's a simple bawd
That cannot say much. This is a subtle whore,
A closet lock and key of villanous secrets:
And yet she'll kneel and pray; I have seen her do it.
(オセロー:妻に、ここへ呼んで来い、早く。
〔エミリア退場〕
あの女もなかなか言いよるわ。だが、
あれくらい口が上手くないと、
取持ち役は勤まらんからな。ずる賢い女だ、
不埒な秘密の鍵を握っておる。
あれで、しおらしくひざまついて、祈ることもある。
そういうところを見たことがある)
エミリアがデズデモーナを連れて戻ってくる。
デズデモーナにとっては、彼の身振りも言葉も怖い。恐るべき妄想が、彼をすっかり変えてしまった。
'Had it pleased heaven
To try me with affliction; had they rain'd
All kinds of sores and shames on my bare head,
Steep'd me in poverty to the very lips,
Given to captivity me and my utmost hopes,
I should have found in some of my soul
A drop of patience: but, alas, to make me
A fixed figure for the time of scorn
To point his slow unmoving finger at !
Yet could I bear that too; well, very well:
But there, where I have garner'd up my heart,
Where either I must live, or bear no life;
The fountain from the which my current runs,
Or else dries up; to be discarded thence !
Or keep it as a cistern for foul toads
To knot and gender in ! Turn thy complexion there,
Patience, thou young and rose-lipp'd cherubin,――
Ay, there, look grim as hell !'
(それが神の思召しならば、
また、どのような試練を受けようとも、たとえありとあらゆる
苦悩と恥辱の雨をこの頭上に降らせようとも、
貧苦のどん底に沈み、窮乏に責め立てられようとも、
奴隷の身となり、生涯のすべてを引き渡そうとも、
私の心のどこかに、その苦しみを耐え忍ぶ
辛抱のひとかけらを見つけるだろう。しかし、それが世間の
嘲笑の的となり、人に指差される身になるとは!
だが、それも堪えてみせる、立派に堪えてみせよう。
しかし、私の心に大事にしまっておいた、それを頼りに生き、
それを離れては生きられぬ、と決めたこの場所、
その生命の泉から湧き出す水しだいで、私の命の川は潤いもするし、
涸れもする、それを、そこから放り出されてしまうとは!
また、その場所を不潔なガマが交尾したり卵を産んだりする池にしようとは!
そうであるならば、初々しい薔薇の唇の天使である忍耐よ、
私の形相を変えろ―― そうだ、悪魔の顔となれ!)
この後、売り言葉に買い言葉で、かなり下品な言葉飛び交うが、割愛する。
とても書けない。言葉の暴力であるんだよ。
そしてオセローはまたもや飛び出して行ってしまった。
ここで入れ替わるように、イアーゴーが登場し、自分が作り出した状況を楽しげに眺めるのだった。
しかし、イアーゴーは、油断しない。
いち早くことを片付ける必要があると考え、ロダリーゴーにキャシオー殺害を持ちかける。
つまり、オセローには訓示がきて、アフリカ行きを命じられたと言い(本当はヴェニスへの帰還)、妻のデズデモーナも同行する。そうなれば、二度とデズデモーナを口説くチャンスがなくなる。
しかし、今ここで事件が起これば、足留めを喰らうので、時間稼ぎができ、まだチャンスが残っていると言いくるめるのだ。
そして、そのためには、オセローの変わりにこの地の長官の職に就くキャシオーを殺害してしまうのが、最も効果的であると。
ロダリーゴーは、イアーゴーに言いくるめられて、キャシオー殺害を承諾してしまった。
普通に考えれば、どんなにひいき目に見ても、殺人を犯した者を、しかもキャシオーを殺した奴をデズデモーナが、振り向くことがないなんて、考えれば分かるものだよね。
しかし、悲劇、分からないのだ。
そしてイアーゴーは、内心でキャシオーのみならず、ロダリーゴーまで亡き者にしようと企むのだった。
そうとなればイアーゴーが、長官職を手に入れることは、容易なこととなる。