場所は、キプロス島サイプラスの港。
埠頭に近い空き地にて、駐留軍がヴェニスの援軍を出迎えていた。
はじめに到着したのが、キャシオーである。
彼は、オセローが間もなく来ることを告げ、駐留軍の総督モンターノの「オセローに奥方がおられるのか」という質問に答えるのだった。
'Most fortunately: he has achieved maid
That paragons description and wide fame;
One that excels the quirks of blazoning pens,
Does tire the ingener.'
(それが、運よく、素晴らしい奥方を手に入れましてな。
何ともたとえようのない、評判以上のご婦人です。
月並みの形容をいくら並べ立てようとも足りぬ、
その生まれながらの美しさは、画家の筆を投じて、
ただ、溜息するばかりという女性です)
何という褒めようなのだろうか? 歯が浮くというものだ。
それほど美しいのなら、一度、お目に罹って見たいほどだ。
次に上陸したのは、デズデモーナとイアーゴー、それに妻のエミリアである。
そしてキャシオーは、デズデモーナに対して熱烈な歓迎の挨拶を述べた。
'O, behold
The richrs of the ship is come on shorel !
Ye men of Cyprus, let her have your knees.
Hail to thee, lady ! and the grace of heaven,
Before, behind thee and on every hand,
Enwheel thee round !'
(おお、見たまえ、
宝船の本体がご入来です。
サイプラスの人々よ、彼女の前にひざまづけ。
ようこそ、デズデモーナ様!天のご加護が、
四方八方から、あなた様をとりまきますように!)
そしてエミリアに対しては、親しみの接吻をするのだった。
こんなことをするから誤解されるのだ。まあ、イタリア男は、こんなものかもしれない。
ここでデズデモーナとイアーゴーが、世の女性について、押し問答するのだが、イアーゴーの毒舌には、誰も太刀打ちできない。
Iago: She that was ever fair and never proud,
Had tongue at will and yet was never loud,
Never lack'd gold and yet went never gay,
Fled from her wish, and yet said 'Now I may,'
She that being anger'd her revenge being nigh,
Bade her wrong stay and her displeasure fly.
She that in wisdom never was so frail
To change the cod's head for the salmon's tail,
She that could think and ne'er disclose her mind,
See suitors following and not look behind,
She was a wight if ever such wight were,――
Desdemona: To do what ?
Iago: To suckle fools and chronicle small bear
( イアーゴー:器量がよいのに、高慢ではなく、
舌は回るが、お喋り嫌い、
金に事欠かないが、おしゃれせず、
「今なら、何でもできる」といいながら、気ままにせず、
腹を立てても、根に持たず、
じっとこらえて、怒りを棄てる、
不味い物と美味い物とを取り替えるほどの才があっても、
思い立って直ぐべらべら喋らない、
他所の男にゃ振り向かず、もしもそんな女があったら、
そんな女は――
デズデモーナ:どうなさいますの?
イアーゴー:馬鹿な子供に乳を飲ませ、家事に追われて苦労しまさあ)
つまり、女のおよぶ力は、子供部屋と台所だけだといっている。
よく嘘つきは、舌が二枚あるというが、イアーゴーは、百枚くらいありそうだ。
そして、オセローが上陸する。
デズデモーナは、彼を迎えるのだが、オセローは、彼女に対する情熱が満ち溢れていて、周りの人の心に激しく嫉妬を抱かせるものだった。
'If it were now to die,
Twere now to be most happy; for, I fear,
My soul hath her content so absolute
That not another comfort like to this
Succeeds in unknown fate.'
(今この場で死ねたら、
最高の幸せだ。そんな予感がする。
こんなに心の底から満ち足りた想いは、
なにが起こるかわからぬこれからの生涯に
もう二度と味わうことはあるまい)
オセローやデズデモーナ等が退場してしまうと、イアーゴーは、悪巧みの続きを話し出すのだった。
他人の幸福を見ると激怒し、遠慮は消え、純粋な悪意に取って代わるのだ。
骨の髄まで、悪の塊のような奴。
先ず、イアーゴーは、ロダリーゴーの愚鈍な頭を刺激して行動させること。
キャシオーに対する嫉妬や、オセローに対する憎悪や、デズデモーナを上手く操ることができるなどと吹き込んで、ロダリーゴーの心を悪巧みへと駆り立てるのだった。
もちろんイアーゴーは、ロダリーゴーに全部を話はしない。所詮、彼も捨て駒に過ぎず、用がなくなれば、切り捨てるまでだと考えていたのだ。
イアーゴーは、ロダリーゴーに番所の見張りつくように命じ、キャシオーが来たところを、ロダリーゴーが規則をわざと破り、彼を怒らせて喧嘩を仕掛けるというものだった。
そうすれば、万事思い通りになるという計画だ。