二章:Late-night Confusion ! Ⅰb《深夜の混乱! Ⅰb》
「運動は食欲を生じせしめ、食欲は運動を必要とする」--ピエール・アンブロワズ・フランソワ・コデルロス・ド・ラクロ
「このあと、街中で上条 当麻(あいつ)と出会って、勝負の決着をつけようとしたのに、あの女(脱ぎ女)を押しつけられるし…… おかげで人目をはばからずに、服を脱ぎだすんだから、あたしの方が恥ずかしかったわよ、もう!」
美琴は、パジャマに着替えおわり、ベットの上に座った。
「でも…… ちょっと常識はずれだけど、本物の怪物っていうわけでもないし。それより、上条 当麻(あいつ)よ。あいつ!」
こみ上げてくる怒りを枕にぶつけた。
「上条 当麻(あいつ)の方が怪物よ。あんな、とんでもない能力を持っているなんて…… 」
彼女は、当麻との勝負したときのことを思いだす。
それは、街外れの河川敷での勝負のことだった。
「言われなくても、こっちは、ずっとこのときを…… 待ってたんだから!!」
美琴は、身体から発する空中放電の電撃を、当麻にぶつけた。
「うっ!」
辺りは、当麻にぶつけた電撃で煙に包まれるが、彼が突きだした右手にすべての電撃を無効化された。
「やっぱ、電撃は効かないか…… 、なら!」
右手の電撃を地面に向けて放出する――
放出された電撃は、地中に含んだ砂鉄を空中に巻き上げ、彼女の右手で刀に形成されていった。
「えっ? なに!? ちょっと、おまえ得物つかうのズルイんじゃねぇ!!」
「能力で作ったものだもん」
振りまわした刀は、触れた草むらの葉っぱを真っ二つに引き裂いた。
「ええっ!?」
「砂鉄が振動してチェーンソウみたいになっているから、触れたりすると、ちょっと血とかでるかもね!!」
美琴は、当麻めがけて走りだす――
「どう考えても、それだけじゃー、すまないと思うんですけど!」
当麻は、美琴のくりだす刀を避けつづける。
「ちょこまか逃げ回ったって、得物(こいつ)には、こんなこともできるんだから!」
美琴は、刀していた砂鉄をムチのように形を変える。そして逃げ回る当麻に振り下ろす。
「入った!! かわせるタイミングじゃ……」
ムチは、完全に当麻に当たるかと思った、しかし、その瞬間、彼の右手がムチを打ち消した。
「強制的に砂鉄に戻された!? ……でも、ここまでは予想どおり」
強制的に元に戻された砂鉄は風にのって、空中に舞っている。驚きをかくせない美琴だったが、次の手を考えていた。
「し・勝負あったみたいだな……」
「さあ? それはどうかしら!!」
美琴は、いま一度、放電を発生させて空中に舞う砂鉄を操るのだった。
「おまえ…… 風のった砂鉄まで……」
砂鉄が、束になって当麻を襲う――
「こんなこと! 何度やったって同じじゃねぇーか!!」
今までと同じように右手を振るって、砂鉄を振り払った。
しかし、これは美琴の作戦であり、本当の狙いは当麻の身体に接触することだった。
つまり、彼が砂鉄を振り払うことに集中している間に右手をつかみ、直接電流を流せ込めば勝てると考えてのことだった。
「とった!! 飛んでくる電撃は打ち消せても…… えっ!? (電流が流れていかない…… 何なのよ!? こいつ!!)」
『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を宿す当麻は、右手で触れるものは、どんな特殊能力も打ち消すことができるのだが、美琴は知る由もなかった。
当麻の右手を握りしめたことを思い出し、美琴は怒りの対象だった枕を抱きしめながら、顔を赤く染めた。
「あんな…… とんでも能力を持っていたなんて…… し…… 知ってたら、あんなに思いっきり上条 当麻(あいつ)の右手を握ったりなんてしないわよ……」
美琴は高まりゆく自分の気持ちに動揺する。
「あ・ありえないから…… もう!」
そして、自分の中の芽生えた複雑の想いを振り払うかのように、抱きしめていた枕を投げつけるのだった。