三章:I have thought to never forget it. b《忘れえぬ思い b》
「神様と肉屋だけがソーセージの中身を知っている」--スウェーデンのことわざ
「暴走能力の法則解析用誘爆実験(能力体結晶投与実験)」――
それは表むき、AIMを制御するための実験として行なわれ、被験者である子供たちになんら問題の起こるものではなかったとされていた。
しかし、実情は、AIM拡散力場を刺激し、暴走の条件を知ることが本当の目的だったのだ。
しかし、実情は、AIM拡散力場を刺激し、暴走の条件を知ることが本当の目的だったのだ。
暴走は、人為的に発せさせられたもので、人道を無視した人体実験だったのだ。あの子らを使い捨てのモルモットにしたのだ。
実験に使用された子供たちは、重度の昏睡状態に陥り、数年経った今もなお、一度も目覚めることなく植物状態のままになっている。
木山 春生が、実験の本当の目的を知ったのは、後になってからであり、こんな結果になるとは夢にも思っていなかった。
しかし、彼女は、自分が仕出かしたおこないに恐怖し、自分を責め、その行為を悔いた。
しかし、彼女は、自分が仕出かしたおこないに恐怖し、自分を責め、その行為を悔いた。
そして彼女は誓った。あの子たちを必ず元に戻すと……
しかし、それは容易なことではなかった。23回―― 子供たちを回復手段を探るために世界一の演算能力を持つ学園都市のスーパーコンピューター、「樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)」を使用しようと試みたが、すべて使用却下されてしまった。
なぜなら、実験に学園都市の運営を司る最高機関『統括理事会』が関与していて、あの実験自体を隠ぺいしておきたかったからである。
「もう一度、あの子たちに日のあたる場所を走らせてやりたい……」
木山 春生は、目の前のパソコンを操作し、プログラムを立ち上げた。それは、『幻想御手(レベルアッパー)』のソフトだった。彼女は、みずから高性能な演算装置を作ることを思い立ったのだ。
『幻想御手(レベルアッパー)』とは、聴くだけで簡単にレベルを引き上げるという効果を持った音楽ファイルのことだが、本当は使用者の脳に干渉することで、脳のネットワークを構築し、その演算能力を使って、「樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)」の代わりにしようと考案されたものだった。
「わたしは、あの子たちを救うためなら何だってある…… そのためなら、たとえ学園都市のすべてを敵に回しても、止めるわけにはいかない!」
パソコンを見つめるその瞳は、みずから固く誓った決意の色をあらわしていた。