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「秘密の心臓」

2010-09-19 20:49:36 | デイビィッド・アーモンド

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 『秘密の心臓』、デイヴィッド アーモンド著、山田 順子訳、東京創元社


<あらすじ>
 さびれた村ヘルマス。少年ジョーは、吃音のためにうまく喋ることができない。自分の想いをちゃんと表現できずにいた。唯一の理解者は、母親のみ。しかし、父親は、誰だか分からない。
 そんな悩みを抱えている彼は、周りに解けこめずに、学校も不登校を続けていた。


 ある日、ジョーは不思議な夢を見る。トラの夢だ。それも巨大なトラで、ドラゴンやユニコーンといった想像の世界でのみで生きているトラだった。
 同時に村の空き地へ落ちぶれたサーカス団がやってくる。彼は空中ブランコ乗りの少女コリンナと出会う。
 二人は、今までに一度も逢ったことなどないはずなのに、なぜか懐かしさを覚えた。以前から知っているような気がした。


 ジョーは、コリンナによって不思議なサーカス団員のもとへと導かれていった。そして彼の中に眠る秘密の心臓が動き出す…… 。




<感想>
 アーモンドの長編4作目にあたる本作品です。彼の作品には、共通して不思議な生き物が登場します。『肩甲骨は翼のなごり』では、天使をイメージする翼を持った生き物スケリグ。本作では、想像上の巨大なトラです。
 このトラは、夢の世界と現実の世界を行き来します。姿を見ることができるのは、特別な目を持った人にしか見れないのです。
 さらに秘密の心臓を持ったジョーは、そのトラを呼び寄せることができるのです。


 ジョーは、周りから白目で見られる負い目と、反面、特別な人間であるという自負のギャップで揺れ動きます。
 今までは、どちらかというと負い目であると感じていました。しかし、サーカス団の少女コリンナとの出会いによって変わりはじめる。そんな過程を描いています。


 寂れた町に落ちぶれたサーカス団。作品全体に滅びの雰囲気がかもし出されていて、活き活きとしたジョーとコリンナとは対照的で、そのコントラストが素晴しい。
 文章の簡潔さと相まって絵本を読んでいるかのような感じの作品です。



「肩胛骨は翼のなごり」

2010-09-17 21:32:39 | デイビィッド・アーモンド

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 『肩胛骨は翼のなごり』、デイヴィッド アーモンド著、山田 順子訳、東京創元社


<あらすじ>
  主人公のマイケルは、家族とともに新しい家に越してくる。彼はサッカーが好きで、作文が上手い少年。環境の変化のせいで多少の不安や寂しさがあっても、本来なら楽しい気持ちでいっぱいのはず。
 でも、生れて間もない妹は、生命が危ぶまれるほどの心臓の病気を患っていた。マイケルやお父さん、お母さんにも、その暗雲がのしかかっていた。


 引越し先の家の裏庭には、古ぼけて、今にも崩れそうなガレージがあった。お父さんには、危険だから中に入ってはいけないと止められていたが、マイケルはこっそりと入ってしまう。
 そしてガラクタと埃まみれの中から、翼を持った生き物スケリグと出会う。マイケルは、とても衰弱していたスケリグを、新しい友だちの少女ミナとともに命を助けようとした。



<感想>
 デイヴィッド アーモンドの処女作で、カーネギー賞とウィットブレッド賞を受賞した英国児童文学の新しい傑作。
 主人公マイケルの目を通して描かれる物語は、夢と現実の間にあって、繊細で美しく、まるで澄み切った満月の晩に水面に映った月のように、ときには美しく。風が吹けば、波紋が起きれて消えてしまうようなに、ときにはかなさを感じる作品です。


 短い章(多くても4~5ページほど)をいくつも積み立てて構成されていて、すべてを語らずに曖昧な部分を故意に(たぶん)入れている。
 こうすることでゆれる少年の心の繊細さ、物語り全体における神秘さをかもし出しています。


 なんでもない出来事が、10歳の少年には、大きな不安ともたらすことを気づかされる。
 そんなピュアな時が、自分にも有ったんだと思い起こさせてくれた、心洗われる作品でした。