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「マクベス」 舞台内容 四幕三場(2)

2009-12-09 22:42:09 | 「マクベス」

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 マクダフが回復すると、新しい知らせが持ち込まれた。それを持って来たのはロスである。
彼は、マクダフの妻子が殺された後にスコットランド国内を脱出してきたのだが、マルカムは彼の知らせは希望に満ちているように思われた。


          'There run arumour
   Of many worthy fellows that were out;
   ……
   Now is the time of help; your eye in Scotland
   Would create soldiers, make our women fight,
   To doff their distress.'
 (国中にいる正義の士たちが
 一挙に立ち上がったと言う噂が流れています。
 ……
 今こそ援軍を送る時です、あなた様がスコットランドに
 お姿を現わしになるだけで、兵はたちまち馳せ参じ、
 女たちも塗炭の苦しみから逃れられるとあれば武器を
 手に取るでしょう)


 これらの者達と、マルコムの要請に応える形でイングランド王が派遣したシュアードを頭とする一万の軍が協力すれば、マクベスを討ち取ることができる見込みがついて来る。


 一方、マクダフにとってロスのもたらした知らせは絶望だった。ロスは、叛乱の原因が、マクダフの妻子が殺されたことによって惹起された憤激であることを告げたからである。
 その知らせを告げるロスと、それを受け取るマクダフとの間に交わされる緊張したやり取り。


Rosse: Your castle is suprised: your wife and babes
     Savagely slaughtered: to relate the manner,
     Were, on the quarry of these murder'd dear,
     To add the death of you.

Malcolm:                   Merciful heaven !
       What, man ! ne'er pull your hat upon your brows;
       Give sorrow words: the grief that does not speak
       Whispers the o'erfraught heart and bids it break.

Macduff: My children too ?

Rosse:               Wife, children, servants, all
     That could be found.

Macduff:             And I must be from thence !
       My wife kill'd too ?

Rosse:                 I have said.

Malcolm:                               Be comforted:
       Let's make us medicines of our great revenge,
       To cure this deadly grief.

Macduff: He has no children. All my pretty ones ?
       Did you say all ? O hell-kite ! All ?
       What, all my pretty chickens and their dam
       At one fell swoop ?

ロス:あなたの城がやられた、残酷にも奥方やご子息に至るまで
   皆殺しだ。これ以上、その様子を聴かせるには、
   無慚な最後を遂げたあの大切な人たちの屍の上に、
   また、一つ御身の死を重ねるようなもの。

マルコム:       神はいないのか!
    顔を隠すな! 存分に泣け、捌け口を鎖された
    悲しみは一杯になれば溢れだして、
    ついには胸も張り裂けてしまうだろう。

マクダフ:       子供たちもか?

ロス:          奥方もご子息も、召使いも、
  そこに居合わせた者全て。

マクダフ:       どうして俺はあそこから逃げたのか! 
    妻も殺されたのか?

ロス:申し上げたとおり。

マルコム:          力を落とすな、
    仇を討って、それを薬にこの悲しみを
    癒やすより他に手はないのだ。

マクダフ:あなたには子がない。俺のかわいい子たちもみんな?
    子たちをみんな? 畜生、地獄の鳶め! みんななのか?
    俺のかわいい雛も母鳥も、その鋭い爪で、一掴みに
    していったというのか?


 マクダフは咳き込んで、同じことを何度も尋ねるのだった。彼の驚愕と深い悲しみがよく描かれていて、妻や子のいないマルカムには悲哀の深さが解らないのだ。

 慰めるつもりで言っている彼の言葉も、今のマクダフには煩わしいだけだった。「あなたには子がない」と言うのは、マクダフの苛立ちの言葉であり、子ないマルコムには理解できない。

 このHe has no children.Heをマクベスのことであるとし、子がない男は、情け知らずでどんな残酷なことでもするのだ、という意味にとる人もいるが、ここはマルコムのことを言っているのであって、マクベスとするのでは辻褄が合わない。




 マクダフの妻子を殺して人民の反感を買い、叛乱軍を誘発させてしまったことは、明らかにマクベスの失策であった。


 もしマクダフの逃亡の八つ当たりを彼の妻子に行なわなかったならば、マクベスはまだ王位に座っていられたかもしれない。


 マクベスがマクダフの妻子を無意味に殺してしまったことは、彼をスコットランド中を敵にしてしまったのみならず、マクダフに対するマルコムの疑いをすっかり晴らしてしまったのだった。
Malcolm:             This ture gones manly.
       Come, go we to the king; our power is ready;
       Our lack is nothing but our leave: Macbeth;
       Is ripe for shaking, and the powers above
       Put on their instruments. Receive what cheer you may;
       The night is long that never finds the day.

マルコム:                      それでこそ男だ。
    さあ、イングランド国王の下へ行こう。
    兵たちが待っている。後は国王に暇乞いをするだ。
    マクベスは熟れた果実、一揺りすれば落ちるばかり。
    天使たちはこちらの味方、我々を励ましている。
    出来るだけ元気を出すのだ。どんなに長い夜も、
    いつかは必ず明ける。


 この場は希望に満ちた未来への予想で終わる。




 ここで四場が閉じる。



「マクベス」 舞台内容 四幕三場(1)

2009-12-08 17:45:18 | 「マクベス」

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 イングランドのエドワード懺悔王の宮殿前にてマルコムとマクダフが登場。


 魔女たちによって予言された運命が、マクベスの敵たちの動向いかんに関わらず動いている。
マクダフはイングランドに援けを求めるためマルコムの下へ赴いていた。


 ところが、マルコムはマクダフの真意を疑っていた。彼はマクダフがマクベスの命を受けて、自分を誘き出しに来たと考えていて、マクダフが妻子をスコットランドに残して逃げて来たことを、人質として残して来たものと解釈した。


 マクダフは自身の誠実を疑われて悲しむが、それを見てもマルカムの疑いは解けない。彼は王位簒奪を説くマクダフに向かって、自分がどんなに国王として不適格であるかということを誇張して話す。
                'The king becoming graces,
   As justice, verity, temperance,stableness,
   Bounty, perseverance, mercy, lowliness,
   Devotion, patience, courage, fortitude,
   I have no relish of them; but abound
   In the division of each several crime,
   Acting it many ways. Nay, had I power, I should
   Pour the sweet milk of concord into hell,
   Uproar the universal peace, confound
   All unity on earth.'
         (国王にふさわしい美徳、
 すなわち正義、真実、節制、信念、寛容、
 忍耐、慈悲、謙譲、敬虔、我慢、勇気、
 不屈の精神など、これらすべて一切、
 私は持っておらず、それどころか、
 この胸の内には、ありとあらゆる
 種類の罪に満ちている。もしこんな男が権力を握ったら、
 心を和ます甘い乳を地獄に注ぎ込み、
 内外の平和を掻き乱し、
 地上の調和をぶち壊してしまうだろう)


 マルコムの言葉にマクダフの勇気が挫けてしまう。暴君マクベスか、怪物マルコムか、どちらを選ぶにしろ、スコットランドに未来はない。栄光の日々への再生は望み薄であるからだ。


                         'Fare thee well !
   These evils thou repeat'st upon thyself
   Have banished me from Scotland. ――O, my breast,
   Thy hope ends here !'
                (もうお暇を!
 マルコム様ご自身がが今お挙げになった悪徳の数々、
 おかげで、このマクダフも、スコットランドに
 二度と帰れなくなりました。 ――ああ、この私の胸よ、
 お前の希望は、ここで費えた!)


 マクダフの悲嘆の真実の言葉によってマルコムの心を揺り動かして、とうとうマクダフに対する疑惑が解ける。いま言ったことは全て嘘である、と言い、すでにマクベスを討つための軍備を整えていると打ち明けた。


 しかし、今度はマクダフが疑いを持ち、沈黙してしまった。
 'Such welcome and unwelcome things at once,
   Tis hard to reconcile.'
 (希望と絶望とが同時にやって来て、
 どうしたらよいのか)


 マクダフの回復に時間を与えるために、ここで一見、劇とは全く関係ない話が入っている。
この劇の上演当時のイギリス国王・ジェイムズ一世へのお世辞である。

 ジェイムズ一世は、King's evil(るいれきに触れる)だけで病気を治す力があると信じられていたのだが、その話が挿入されているのだ。





「マクベス」 舞台内容 四幕一場~四幕二場

2009-12-07 13:56:50 | 「マクベス」

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・四幕一場
 とある洞窟の中、中央に穴が開き、火焔が立ち上っている。その上に煮えたぎる大鍋がある。
雷鳴とともに、火焔の中から三人の魔女が一人ずつ現れた。


 魔女たちは魔法の大鍋に様々なものを入れながら掻きまわす。魔女の女王であるヘカティーに言われたとおりにマクベスを刺激して向こう見ずにすると同時に、心を惑わす新たなる託宣をもたらそうとしていた。


 マクベスはバンクォーの亡霊によってもたされた彼にとって気になる暗示に神経質になっていた。そこで今一度洞窟に訪ね、魔女に事の真意を問い質す。


 すると魔女たちは、大鍋からそれぞれ幻影を呼び出し三つの託宣を語りだした。
              'Beware Macduff;
   Beware the thane of Fife.'
       (マクダフに気をつけろ、
 ファイフの領主に気をつけろ)

 'Be bloody, bold, and resolve; laugh to scorn
   The power of man, for none of woman born
   Shall harm Macbeth.'
 (どんな残酷なことも臆せず大胆にやってのけるのだ
 高の知れた人間の力など鼻先で笑ってやれ、
 女の産み落とした者にマクベスを倒す者はいない)

 'Be lion-mettled, proud; and take no care
   Who chafes, who fret, or where conspirers are:
   Macbeth shall never vanquished be, until
   Breat Birnam wood to high Dunsinane hill
   Shall come against him.'
 (獅子の心を身につけ、傲然と構えているがよい、
 誰が怒ろうとも、誰が悩もうとも、
 裏切り者が何を企もうとも、一切気にかけるな、
 マクベスは滅びはしない、大バーナムの森が
 ダンシネインの丘に攻め寄せて来ぬ限り)


 つまり、
1.ファイフの領主マクダフを警戒する。
2.女から生まれた者にはマクベスは倒せない。
3.森が移動することがない限り大丈夫である。
と、予言したのだった。

 とくに2、3を満たす条件などありえないので、マクベスは万全なのではないかと思わせるのだが、話の展開上そうとはならないのが見ものなのであるのだ。




 マクベスはどうしても気になることがあった。それはバンクォーの子孫(フリーランス)たちのことであった。


 マクベスの要請に応える形で、新たなる幻影を呼び出す。そしてその幻影を八人の王の影が現れ、その後に血だらけのバンクォーが続いていた。
 つまり先の予言は、いまだに有効であるということなのだ。マクベスはバンクォーの血の系統に怯え続けるということである。




 これだけの事を告げると、魔女たちは忽然と消え去り入れ替わるようにレノックスがやって来て、マクダフがイングランドへ逃亡したと告げに来たのだった。


 そしてマクベスは魔女たちの下した託宣通りマクダフを始末するため動き出す。



・四幕二場
 ファイフのマクダフの居城、マクダフの妻と子供、そして使者のロスが登場する。


 ロスはマクダフがイングランドに落ち延びたことをマクダフ夫人に知らせに来たのだった。
マクダフ夫人は、夫の不甲斐なさを嘆いているところへ、新たなる使者が危険を知らせ、退去するようにと訪れるのだが、時すでに遅く、刺客たちによって城内の者たちは、皆殺しにされてしまう。
 前場によってマクベスが考えたことは、自身を妨げるすべての者に、徹底した鉄槌を下すことであった。

 最初の犠牲になったのがマクダフであるのだが、彼はイングランドへ逃亡してしまったので、その怒りの矛先がマクダフの妻子へと向けられたのだ。

 



「マクベス」 舞台内容 三幕五場~三幕六場

2009-12-04 09:48:33 | 「マクベス」

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・三幕五場
 雷鳴が轟く荒地にて、マクベスに予言を与えた3人の魔女が、魔女の女王であるヘカティーに出会う。
 前場が、マクベスと超自然的な敵(亡霊)との闘争を見せる場であったならば、この五場は今回の悲劇の元凶になった魔女たちを登場させて、今再びマクベスの運命を翻弄させるのであるのだ。




 ヘカティーは、魔女たちが勝手にマクベスを喜ばせるような予言をしたことに腹を立て、今度は彼を破滅させるために動き出すのだった。
             'draw him on to his confusion:
   He shall spun fate, scon death, and bear
   His hopes 'bove wisdom, grace, and fear:
   And you all know, security
   Is mortal's chiefest enemy.'
           (奴を破滅の淵に引きずり込むのだ。
 奴は狂うて己の運命を足蹴に掛け、
 死をも嘲り、あだな高望みに全てを賭けて
 神の恵みも、分別も、恐怖心すらそっちのけ、
 知っての通り、生き身の人間、
 自惚れこそが、何より大敵なのさ)


・三幕六場
 スコットランド内のとある城、レノックスともう一人のある貴族が登場する。
 前場を受けて、ここからマクベスに対して風向きが変わる。


 ここまでマクベスの行為が臣下の疑念を招くことがなかったが、レノックスは彼がダンカンの二人の家来を殺すところを目撃した人物で、このことについてもう一人のある貴族と語りだす。
 'My former speeches have but hit your thoughts,
   Which can interpret further: only, I say,
   Things have been strangely borne: the gracious Duncan
   Was pitied of Macbeth:―― marry, he was dead:――
   And the right valiant Banquo walked too late;
   Whom, you may say, if't please you, Fleance killed,
   For Fleance fied. Men must not walk too late.
   We cannot want the thought, how monsterous
   If was for Malcolm and Donalbain
   To kill their gracious father ?―― damned fact!
   How did it grieved Macbeth ! did he not straight,
   In pious rage, the two deliquents tear,
   That were the slave of drink, and thralls of sleep:
   Was not that nobly done ? Ay, and wisely too;
   For 'twould have angered any heart alive
   To hear the men deny it.'
 (私が以前に申し上げたこと、一々お考えと一致します。
 その先も解釈次第で色々と見方はあろう、自分としては、
 ただ一言、諸事不可解のまま、そう言いたいだけだ。
 仁徳高いダンカン前王を、マクベス王が哀悼する、
 ―― それも結構、ダンカン前王は亡くなりましたからな。
 一方、猛将バンクォーの夜歩き―― もちろん、考えようでは、
 フリーランスが手を降したとも言える。逃げてしまいましたからな。
 とにかく、うっかり夜歩きもできない。ま、誰だって怪しまざるえまい、
 マルコムやドルヌベインが、情け深い父親を殺したと言われれば?――
 忌まわしいにも程がある! マクベスがどんなに怒り悲しんだことか!
 怒り狂って、その場で犯人二人を滅多斬り、これも当然、酒や眠りの
 奴隷になるような奴なら、マクベスの果断はむしろ称すべきと言えようか?
 その通り、また賢なり明なり、なぜなら、もし奴らが犯行を否定したなれば、
 生き身の人間、誰だって腹が立つ)


 レノックスは、マクベスの一連の行動に理解を示すのだが、余りにもことが彼に対して上手く運び出す。その偶然に対し疑惑を呼び起こしたのだ。
                 'So that, I say,
   He has borne all things well: and I do think,
   That, had he Duncan's sons under his key
   (As, an't please heaven, he shall not), they should find
   What 'twere to kill a father; so should Fieance.
   But, peace !―― for from broad words, and 'cause he failed
   His presence at the tyant's feast, I fear,
   Macduff lives in disgrace.'
                   (要するに何もかも
 王は万事上手く片付けたものだ。思うに、こうとも言える、
 もしダンカン前王の息子たちも、マクベス王の掌中に落ちたとしたら、 
 (まあ、そうも何もかも都合よく運ばぬだろうが)しかし、万が一そうなったら、
 父殺しの大罪が如何なるものか、思い知ったことだろう。
 フリーランスとて同じこと。しかし、待て!―― 例のマクダフ、噂によれば、
 余りにも大っぴらに喋りたてたうえに、僭王の宴会にも出席しなかったので、
 ひどく不興を蒙ったとか)


 ここである貴族は、そこから一歩進んで、新事実を述べる。




 マクダフらマクベスに追われた者たちがは、マクベスの不興に堪えられずイングランドから逃げ出して、僭王マクベスを糺すため外国の援助を求めようとしているということであった。


 これで三幕が閉じる。



「マクベス」 舞台内容 三幕四場

2009-12-01 09:27:21 | 「マクベス」

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 城外でバンクォー親子の殺害が行なわれている時、宮殿内の広間では酒宴が開かれていた。
客たちは円卓の周りに着席し、マクベス王夫妻が登場する。


 マクベスが円卓の席に着こうとする時、殺し屋の一人が入り口に現れると、マクベスは殺し屋の元に赴いて、バンクォーの殺害は成功したが、息子のフリーランスは失敗した報告を受ける。
 肝心のフリーランスが逃げたとあっては、マクベスはがっかりするのだった。


 'Then come my fit again: I had else been perfect;
   Whole as the marble, founded as the rock,
   As broad and general as the casing air:
   But now I am cabined, confined bound in
   To saucy doubts and fears.'
 (そうだったのか、また不安の発作が襲い掛かってくる、
 それさえ上手くいけば、俺は完全だったのだ。
 大理石の硬さに岩のような揺るぎなさ、万物を蔽う
 大気の伸びやかさ、それらを身に着けたであろうに、
 それが今は、息苦しい穴倉に閉じ込められてしまった)


 その間、酒宴の開会が遅れていることをマクベス夫人が夫に思い出させ、夫のマクベスは咄嗟にバンクォーが遅刻して、この場にいないことに対する遺憾の意を述べる。
 'Here had we now our country's honour roofed,
   Were the graced person of our Banquo present;
   Who may I rather challenge for unkindness
   Than pity for mischance.'
 (これで国中の名門が一堂に会したわけだが、
 バンクォーだけが欠けているのが、その不実も、
 なじって済まされるものなら、これに越したことはない、
 彼に不慮の災いなど起こらぬように)


 よく言う。すでにバンクォーは、この世にいない。ただし彼は違った形で参加していたのだが…… 
この辺りはシェークスピアの皮肉さを感じるところだ。

 さらに言えば、もうひとりマクダフが参加していない。ここではそのことには触れておらず、後でマクベスと夫人の会話によって判明し、そのことにマクベスは、マクダフに対して強い不興を抱くのだ。




 主君のマクベスが愛想が良いことに勇気付けられて、ロスが開いている席にマクベスを座るように勧めるのだが、その場所には死んだはずのバンクォーが座っていた。マクベス以外は気がつかない。当然マクベス夫人も見えなかった。マクベスのみが真っ赤な血に染まったバンクォーの亡霊の姿に恐れおののく。
 本来国王たるマクベスが座る場所なのだが、そこにバンクォーの亡霊が座っているということは、魔女たちの予言のとおり、何時かはバンクォーの子孫のための場所であるという暗示なのだ。




 周りの人たちはバンクォーの亡霊に気付かないので、不安がるがマクベス夫人が機転を利かし、その場を取り繕い、夫を嗜めるのだった。
Lady M.:                    My worthy lord: ――
       Your noble friends do lack you.

Macbeth:                             I do forget: ――
       Do not muse at me, my most worthy friends;
       I have a strange infirmity, which is nothing
       To those that know me. Come, love and health to all;
       Then I'll sit down; give me some wine, fill full.
マクベス夫人:            陛下……
      お客さまが貴方をお待ちですよ

マクベス:              そうだったな……
    いや、お歴々、お気になさらぬように。
    妙な持病だが、よくこれにやられる、
    知っている者は、少しも驚くまいが何でもない。
    さあ、酒をくれ、並々と注いで貰おう。
    では、ここにおいでのお歴々全てのために乾杯しよう


 この直後にバンクォーの亡霊が再びマクベスの前に現れ、彼は狼狽するのだ。




 ここに集まった者たちは、マクベスが亡霊を見ていることなど露にも思わないので、マクベス夫人の言葉を真に受けて、散会することになるのだった。


 バンクォーの亡霊が消えると、マクベスは我に返る。人間の策略に対しては、それに対応する策略を持って臨むことが出来た。
警戒を怠らず、また悔悛の念によって行動を阻むこともなかった。
            'I am in blood
   Stepped in so far, that, should I wade no more,
   Returning were as tedious as go o'er.'
             (俺は血の流れに
 ここまで踏み込んでしまった以上は、今さら引き返せるものではない。
 思い切って渡ってしまうのだ)