20年程前の事です。
当時私の習っていた空手道場が、ある会場で演舞会を開く事になり、
真剣白刃取りが演目の一つとして決まりました。
それまでも演舞会で真剣白刃取りを時々やっていたのですが、
使っていたのは模擬刀でした。
しかし、その時に限り本物を使うことになりました。
真剣を使いたいと言い出したのは日本刀で切りつける役の方、
真剣白刃取りをする役は私です。
“何を考えとるんじゃい”
と思いましたが、上下関係の厳しい世界です、言えません。
最初、演舞をする前に大根等を上半身裸にした道場生のお腹の上に置き、
刀でそれを真っ二つにすることにより、
これは本当に切れる刀だと思わせるのですが、
そんなもん模擬刀でも十分切れます。
真剣を使う意味がわかりません。
ただ、その方が真剣を振り回してみたかっただけの様です。
ホント迷惑な方です。
という事でやるからには練習練習、
演舞までの日数は練習漬けの毎日になるのだろうと思っていました。
しかし、切りつけ役のこの迷惑なお方、練習嫌いで有名な方です。
最初、真剣白刃取りに至るまでの振り付けを打ち合わせし、
その練習を数回した後、
その大迷惑なお方は自信満々に
「良し、これで本番はOKや」
私はその発言に心の中で、
“何ですと?今何かおっしゃいましたか?”と、
ここはいくら上下関係の厳しい世界といえども私は猛抗議。
しぶしぶその後も練習に付き合ってくれましたが(当たり前じゃい)
やる気の無さは見え見え。
しかも、その後の本番までの間、何かと私との接触を避けたがっている様子。
どうしても練習は面倒くさくて嫌なようです。
そのくせ、毎日嬉しそうに日本刀を触っています。
そうこうしている内にあまり練習もしないまま本番の日がやってきました。
当日、その大大迷惑なお方はニコニコと満面の笑顔を見せてやって来ました。
その腑抜けた顔に一抹の不安を感じた私は、
もう一度本番前に最終確認を兼ねて練習をやりましょうとお願いしました。
そのお方は見るからにイヤイヤといった感じで練習に入りました。
一応、見せ場の真剣白刃取りに行くまでに私が刀を二度、三度と避けて最後に真剣白刃取りと言う構成です。
まず、上段から振り下ろされる刀を私が横にステップして避けて・・・、
刀は私が避けた方角から飛んできました(汗、タラ~)
“あんた横から切るのは二撃目です”と心の中で叫びました。
そのお方
「お~すまん、すまん」
気を取りなおして今度は横から足を狙って飛んでくる刀をジャ~ンプ
・・・、
上から刀が降ってきます(汗、タラ~タラ~)
“あんた今二撃目は横からって言ったじゃありませんか”
そのお方、またまた
「おお~すまん、すまん」
爽やかな笑顔で謝ってきます。
全然反省の色が見えません。
当時、養う家族も住宅ローンも何もない気楽な独身の身であった私でも命は大切です。
見知らぬ観客の前で大事な体が切り刻まれるところをお見せするほどサービス精神が旺盛ではありません。
こうなったらもう上下関係など、“くそっ食らえ!”です。
その場で大喧嘩を始めました。
大もめにもめた結果、その演舞会での真剣白刃取りの演目は中止となりました。
余談ですが、その演舞会でのその大迷惑なお方の演目は手刀によるビール瓶切り。
見事に成功して舞台裏に帰ってきたそのお方の目に何故か涙が。
良く見ると手に瓶の欠片が刺さって血だらけです。
病院に直行となりました。(天罰ですね)
つづく