静かな場所

音楽を聴きつつ自分のため家族のために「今、できることをする」日々を重ねていきたいと願っています。

大植英次指揮大阪フィルの「悲愴」(大阪クラシック2007)

2007年09月08日 15時39分40秒 | コンサート
職場のボスに1時間休暇頂き、近鉄特急に飛び乗って、いざオオサカへ。
待望の大阪クラシックに初「参加」。そのお祭り騒ぎとは裏腹の真剣勝負の大名演に、掌がつぶれるほど拍手してきました。


大阪クラシック2007 6日目 第8公演

モーツァルト/ピアノ協奏曲第21番より第2楽章
チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」

指揮&ピアノ:大植英次
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団

ザ・シンフォニーホール 19:30開演
A席 1500円



1曲目のコンチェルト(第2楽章のみ)は大植さんの弾き振り。
冒頭の弦の、なんとも柔らかく澄んだ響きに、瞬時に引き込まれた。
大フィルの音は、本当に美しくなったなぁ。
マエストロは、メロディを慈しむように、そして、このゆったりとした川の流れのような音楽の移ろいを心底味わいながらピアノを弾き指揮をしていた。
演奏後、拍手を受けながらの長原コンマスとの愉快なやりとりに会場も沸く。

「悲愴」に先立って、大植さん、マイクを持って登場。
「みなさん、楽しんでますかぁ~!」
大阪クラシックを通して、聴衆とオケ&指揮者の間に連帯感のようなものが育まれているのを肌で感じた。
お客様への感謝の言葉と共に、ハードな日程の中、高レベルの演奏を続けているオケ・メンバーに対して感謝とねぎらいの言葉もあり、ちょっぴりぐっと来た。
そして・・・
「いよいよ、本日、最後の曲となりました」
笑(会場)
「本日最後の曲は『悲愴』です」
次いで、曲のことに触れられ、「チャイコフスキーのトリックがちりばめられた曲です」と、少しだけ、そのネタを紹介。
第3楽章に出てくる「運命」(ベートーヴェン)動機をソロで吹いていただいたり、終楽章冒頭の第1、第2ヴァイオリンの分奏をした後、「これを同時にやると・・・」と、例の主題が2パートのミックスで出来ていることなどを超ミニ・レクチャー。

その演奏は、いざ始まってみると、トークの時の楽しい雰囲気とはガラリと変わって、強烈なオーラを放つ指揮のもと、テンポ速い目の「悲愴」が進んだ。
休符での間の取り方が心持ち長く、ピリピリするような緊張を生んでいた。
オケの音は冴えており、大阪クラシックの強行軍真っ只中とは思えない。
第1楽章の第2主題登場のところなど、久々に胸に迫ってくるものがあった。
全体にスリムな音でありながらも、展開部から再現部への怒涛の進軍は圧倒的。それでいて、一瞬にすっ飛んでいく短いフレーズも丁寧に奏でられた。
中間部のひたひたと寄せては返す情念の炎のゆらめきや名残惜しげに後ろに下がっていく雰囲気が見事な第2楽章を経て、これまた速い目の第3楽章に突入。
これは、先のミニ・レクでの「運命動機」の話が残ってたのだが、ひょっとして、この楽章はベートーヴェンの「運命」と白黒反転させた「勝利の進軍幻想」なのだろうか?などと思えてきた。

そして、やってきた・・・。


この日の、あの瞬間が・・・。


それは第3楽章の283小節。


・・・主に昔の巨匠たちが、テンポを落として「山場」を形作るところ・・・。


マエストロ・エイジの隠し球か?いやいや、譜面を読みぬいた末の必然的な解釈か?


とにかく、ブッ飛んだ。


チェリ&読響の「ローマの松」終結部を思い出した。

チェリの「大学祝典序曲」の終結部も、こんな感じたったかな・・・でも、あれは放送録音・・・。

単純に音量差をつけただけじゃない、何か高いところにはね跳ばされた瞬間。

やっぱり、これは「勝利の進軍」なんだろう。チャイコフスキー自身が実際には一度も味わえなかった、お立ち台にて他を圧倒しひれ伏させる、その幻影。
あ~、すごい演奏だったなぁ。
シンバルの炸裂がホールの空気を真半分に裂いたと思いきや、バスドラムの激打がその空気を鍋底から瞬時にシャッフルする、もう私たち聴き手は洗濯機の中の洗濯物みたいにホール内をあちこち振り回されるだけ。
この楽章はこうでなくちゃね。

で、当然(?)みたいに違和感なく拍手が巻き起こったが、マエストロは微動だにせず棒を突き出し静止したまま。
ホールに沈黙が完全に戻ったのを確かめて、大きな息遣いを伴って終楽章が振り下ろされた。
ホール内は一瞬にして寒々とした荒地に立つ如き空気感で満たされ、さっきまでの熱狂が幻夢であったと思い知る。
(その意味で、第3楽章後に適度な拍手が入るのはいいかも?)
終楽章は、というより「悲愴」自体を、近頃は家であんまり聴かなくなったのは、やっぱりこの切迫感、実在感がけっこう「重い」からかな?
「なだめ静めようとしても静めることのできない苦悩の叫び」(薗部三郎)
思い出し、憧れ、そして諦め、やがて苦悩の終わりの時期の受容。
悔いと未練を残しつつ閉じられる人生、だが無意味ではないのだ・・・後悔だらけ失敗まみれの人生を歩んでいる人、それをずいぶん歩んできた人にとって、この終楽章は自身の鏡のように聴こえるかも知れない。
「英雄の苦悩が終わりに来た瞬間を告げるタムタムの音」(リーマン)に続いて葬送のコラールが鳴り、コントラバスのオスティナートに乗って奏でられるメロディは、あの甘美な第1楽章第2テーマの「諦念改変版」。
最初は湯気が立ち上るような、そのオスティナートも次第に弱々しく遠ざかり、呼吸が途絶えるように曲は閉じられた。

演奏後の沈黙を破ったのは、どう見ても演奏に没入していたとは思えない一人の男の拍手だった。
かなり大きくぶしつけな音だった。
呼応して起こった数人の拍手は、場の空気との違和感に気付いてすぐに消えた、が、その男は確信に満ちたように叩き続け、マエストロも静止した手を下げ楽員にお辞儀したのであった。
演奏にかぶってなかったから、まあいいようなものだが、あの演奏のあとであれば、沈黙はもっと必要だった。
(私の斜めすぐ後ろだったから、余計に耳障りで興醒めでした。あとで振り返って見てしまった!)

「悲愴」交響曲は、まるで作曲家が自身の命を切り売りして、その代償として手に入れたかのような痛みと美しさを持った超名曲だ。
異形でありながら筋書きは自然。
でも、お気楽にはもう聴けなくなってしまった、昔みたいに・・・。

大植さんは、すごい指揮者だな。
彼は、日々、音楽のことと、それを多くの人に伝えること、その二つだけを考えて生きているのじゃないか?
そう思えるほどの集中度であり、曲のえぐり方だと感じた。
儲からないのに、このハードな日程、安い料金(無料も数多!)にもかかわらず、このクオリティ!
驚きだ。
内部の事情は分からないが、それでもオケがついて行く原動力は何なのだろう?と考えたとき、それは指揮者・大植英次の音楽性と熱(ねつ)以外には考えられなかった。

トークを含めて拍手終了まで1時間10分程度のコンサートであったが、胸いっぱいで帰路についた。
久しぶりに鶴橋駅下の「眠々」で餃子を食す。
懐かしい~!美味しい~!
そして終電で帰ってきました。




最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
>さらっちさん (親父りゅう)
2007-09-09 03:37:41
ようこそ、お越し下さいました。

本当に素晴らしいコンサートでしたね。

大学オケですか。
羨ましいです。オケをやっている方は・・・。
どんな曲をやっておられるのでしょうね?

「弾けない」と強く意識した曲は、いつか「ぜひ弾きたい」に変わりますよ、絶対に。
そのときはお知らせくださいね。
また、よろしかったらお越し下さい。
返信する
>謙一さん (親父りゅう)
2007-09-09 03:32:41
>ジンクス・・・・「悲愴」はそれっぽいですが、フィンランディアも、ですか?!
あれは、私の場合「景気付け」みたいな曲でもありますね。元気回復作用があります。ただし、実演では、ロクな演奏を聴いてませんが・・・。
確かにチェリの「悲愴」は、(その紫レーベルは聴いてませんが)どれもインパクト強かったです。
終結部のティンパニ追加はずいぶん前からみたいですね。レーベルは忘れましたが、凄まじいフォルテでやっているのを聴いた記憶があります(あれ、カセットで残ってるのかな??探してみよう)。

ホーレンシュタインも未聴。聴きたいですね。
返信する
Unknown (さらっち)
2007-09-08 21:05:14
きのうの感動を共有できる人はいないかと検索していたところ
ここにたどり着きました!
私もきのうのことを日記に書いてはみたのですがどうもうまく感動を表すことができなくて…
こちらのブログを読ませていただいたら
きのうの感動がよみがえるようでまた感動しました☆

お気楽にきけなくなってしまったっていうのすごくわかります!!
私は大学の部活でオケをやっていて
ぜひこの曲をひいてみたいと思っていたのですが
きのうの演奏をきいてしまったら
もう弾けないーー!!って思ったほどでした!!!
返信する
悲愴 (謙一)
2007-09-08 19:59:59
悲愴はどうも、聴くと悪いことが起きるジンクスがあるのでフィンランディアとともに、封印している曲です。でもほんと、たま~に聴くと、すごすぎる曲なのがよくわかります。ほんとは好きな曲…・
チェリビダッケの紫色の海賊盤を聴いたときは倒れるかと思うくらい1楽章でノックダウンでした。
LP時代に聴いた、ホーレンシュタイン指揮LSO盤がいまだに忘れられないですね。CD化されたのかなぁ。

大植さんは、チャイコフスキーは5番をミネソタOと録音していますが、自主制作盤なんですよね。BOXで。
返信する

コメントを投稿