伊勢管弦楽団 第28回 定期演奏会
ドヴォルザーク/交響曲第8番
休憩20分
マーラー/交響曲第1番
アンコール・・・マーラー/交響曲第5番より第4楽章
管弦楽:伊勢管弦楽団
指揮:大谷正人
伊勢市観光文化会館
2009年5月17日(日)pm2:00開演
(pm1:45~プレトーク)
ドヴォ8と「巨人」というプログラム。
今回ドヴォ8が演奏された、その理由の邪推は後ほど書くとして、今年もこの日がやってきました。
開演前のプレトーク。それは団長さんによるもので、地元伊勢のピアニスト井上さんにサワリを弾いてもらいながらの初心者向けのもの。よろしいのですが、「『巨人』の第3楽章は、死んだ狩人の棺を運ぶ動物達の葬送行進云々・・・」とか、まあ、そういう話もありますけども、そういうイメージにこだわらなくてもいいけど・・・とか思ったりしました。
さて、ピアノが片づけられ団員さん達入場して1曲目のドヴォルザークが始まりました。
出だしの音を聴いて・・・ほう、いつもの伊勢管の立ち上がりにしてはマイルドな響きだなぁって思いました。
大谷さん、落ち着いたテンポ設定で細かくキューを出していきます。
「いいぞっ」って思いながら聴いてました。
しかし、寝不足のせいか、ほどなく睡魔との戦いに突入し、ドヴォルザークは両端楽章しかまともに聴いておりません。
その範囲で言えば、なかなか手堅い演奏でした。
ただ、後のマーラーに比べるとダイナミックスの差がやや単調と言うか、音量のバリエーションが少ないと感じました。
それが眠気に負けた一因???なんて言ったら皆さんに失礼ですよね。
ドヴォルザークが終わった後の拍手の中、ヴァイオリン2列目の我が恩師U村先生に花束が贈られました。
うれしそうな先生の顔!
アナウンスは拍手に紛れて聞こえなかったので、休憩時、知人たちと話している時にいろいろと楽しい憶測が飛んでました。
「今日、誕生日?」
「今回で勇退?!」
「現役最長老?」(それ、以前からやろ!)
などなど・・。
休憩後はマーラーの1番(プログラムには「巨人」のネーミングを外した経緯も書かれていました)。
わが伊勢管の指揮者大谷さんがマーラーに深く傾倒しているのは周知の通りです。
そのこだわりについては伊勢管・指揮者の部屋をご覧下さいませ。
大谷さんが前半の二楽章をほとんど続けて演奏し、第2楽章後に指揮台から降りて汗を拭きながらチューニングを入れるなど小休止を取ったのは、現在でも、この曲は2部から成っているという解釈は重要ではないだろうか。第1部では、「自然への愛」が大きなテーマとなっており、第2部では、前回述べたような「死と再生」が中心的なテーマとなっていると考えられる。という見識の現れなのでしょう。
第3楽章の通常コントラバス・ソロで聴くことが多い例のテーマはパート・ソロでやっていました。
私たちは終演後のロビーで「あれは、やはりソロが聞こえないとか音程が不安定とかで苦肉の策だったのかな?」なんてしたり顔で言ってましたが、あとでプログラムを見たら「マーラー自身による説明があるこの部分は、初演当初はチェロ・ソロとコントラバス・ソロで演奏されていた。マーラーの生前の決定稿によると一人のコントラバス奏者によるソロとして、その不気味な響きでもっと親しまれてきた。しかし、1992年の新校訂版では、コントラバス・パートのソロとなっている。今回の演奏では、1992年の版に準拠して演奏する。」って、ちゃんと書いてあるじゃないですか!
まったく、何も知らないのにああだこうだと言ったりして、ダメな聴き手ですねぇ。
眠気も吹っ飛んで、かなり集中して聴きました。
やっぱりドヴォルザークの時より仕上がり具合は上でした。
今までに実演で聴いた1番は、シノーポリ指揮ウィーン・フィル、プロムシュテット指揮ゲヴァントハウス管ですが、技術的なことはともかく、共感度、感銘度は今回がダントツでした。
思い入れもありますからね。
伊勢管の素晴らしさ、それは、この年に一度の定期にかける指揮者と団員さんの鬼気迫る集中度と心意気。
満身創痍になっても絶対に沈没しないで進む軍艦の如き気合い。
前の方の席だったせいか、定規を一切使ってないけど絶妙な風合いを感じさせる段ボール工作のような音の塊はすごい風圧を伴って客席の私たちの顔面を容赦なく叩きました。
そして楽曲への稀有な誠実さでオーケストラの前に立つ指揮者。
いろいろとあれもありましたけど・・・例えば第2楽章でトリオからレントラーに戻る時のホルン・ソロが一音落ちたり、第3楽章から終楽章へのアタッカの僅かな隙間でなにやら音を立てて転がしたりなどの「そこでせんでもええやろ」的なミス・ショットもありましたけど、でもでも、そういう事故も些細なことであり揉み消されてしまうほどの「気」に満ちた演奏でした。
そして、私はクライマックスでのホルンのスタインディングがこんなに圧倒的な効果を生むなんて想像もしてませんでした。
これに比べたら、かつて聴いた(見た)ゲヴァントハウス管のは「立たされた腕白坊主たち」みたいなもんでした。
今日は、6人がサッと立ってテーマを吹奏したとたんに、照明が楽器に反射するのと自身のウルウルとが相互に作用して、眼球がハレーション起こしてしまいました。
ステージはまるで豪雨の中をワイパー故障した車で走っているみたいにぼやけて見えました。
私が以前に感じていたマーラーの1番を聴く「気恥ずかしさ」みたいなものが、ここ数年、全く消えていて、この、見方によっては大袈裟で芝居がかったような音楽が、何とも切実で健気な叫びとして聞けるのです。
スタンディング後のフィナーレまでのひとときは、まさにステージ全体が金に光っているような、何かが降臨してきたかのような凄まじい感情発露でありました。
大谷さんの、無垢で純真な子どものような満面の笑顔も本当にステキでした。
アンコールは5番のアダジェット。
振幅が大きく呼吸の深い演奏でした。
終演後、知人と共に楽屋にU村先生を訪ね、無粋ながら「なぜ花束をもらったん?」なんて聞いてしまいましたが、先生は「なんでやろ?」と、わざととぼけてお答えはくれませんでした。
でも花束と共に頂いた団員からのメッセージカードを見せて下さいました。指揮者と共に、このオケになくてはならないU村先生、長らくコンサートマスターを務められ、お辛いこともありましたが、再びオケの席に戻られ、お元気な姿を見せてくれています。
先生はドヴォルザークの8番が好きということで、どうも今回のプログラミングには、そういう意味合いも加味されていたのかも知れませんね。
カードには「先生と一緒にドヴォルザークを演奏できる喜び」が記されていました。何ともナイスな仲間たち!
来年の定期はバーンスタインのWSSシンフォニックダンスとブルックナー7番。
そして、何と、何と・・・・
ついに
翌々年の定期では
マーラー/交響曲第9番
オーケストラ創設当時から、U村先生との語らいの中でも「いつかはマーラーの9番を・・・」というお話は耳にしていましたが、オケ創設30周年、そしてマーラー没後100年の記念の年に、ついにマラ9にチャレンジです。
いや、単に演奏するだけなら、今の伊勢管であれば、もう十分にマーラー9番をこなせる位の技量は持ち合わせているかと思いますが、やはり、やるからには納得のいく演奏を、という気持ちがあるのでしょう。
一貫した挑戦的なプログラミング、昨年の「ラ・ヴァルス」に見られるように、オケのキャパを越える難曲にあえて挑戦させ、楽をさせない練習を重ねてきた、その行き着く所がマーラー9番なのでしょう。
5月の定期に続いて11月には名古屋でも演るそうで、楽しみです。伊勢管を勝手に応援する会としましては、何を差し置いてでも駆けつけなくてはなりませぬ。
りゅうさんの文章に凄く臨場感を感じます。
私は未だ、主要な楽器の音はなんとなく分かりますが、その演奏に対して意見を持てるほど、経験がないので、もっと深くオーケストラというものに触れてみたいと思ってます。
地域のオーケストラは演奏者と聴き手の距離が近くて良いですよね。この前初めて言った大フィルの練習場での地域コンサートでは指揮者の方が出口付近のエントランスでお客さんと談笑されているのを見て、雰囲気良いなあと思いました。
返事、遅れました。ちょっと仕事で関西方面に出向いておりましたので・・・・。
>地域のオーケストラは演奏者と聴き手の距離が近くて良いですよね。
本当にそうですね。
やっぱり、どこかに愛着・思い入れがあるのですよ。
でも、ただ単に知人親戚がいるから贔屓の引き倒しってことじゃなく、このオケはちゃんと「音楽」を聴かせてくれるのです。何かが伝わってくるのです。挑戦し続けているのです。悪しきアマチュアリズムを排する努力を続けているのです。そういうところが、他の多くの地方音楽団体とは違うところだと、私は勝手に思っています。
(ここの指揮者の存在が大きいのですよ)
アマチュアがお金取って音楽聞かせるのですから、必死こいてやらなければ何の意味も無いし、技術をタナに上げてプロの真似ごとみたいなことやり始めたら消滅した方がマシだと思っています。
「自分達の楽しみ」だけでやるんなら自腹切って「お付き合い」して下さる方をタダで招けばいいのですからね。
伊勢管は、これからもそういうところに安住しない攻めのオケである限り、私は応援し続けます。
大フィルの練習場は、以前、合唱仲間のコンサートがあったので行きましたが、コンサート会場としても素晴らしいホールですよね。プレーヤーとの距離も近くて、地域にも密着していれば、仰る通り聴衆と演奏者との交流が生まれやすい感じでした。
あの会場にいらしたのですね。
ブルックナーもぜひ感動を共にできればいいですね。
こちらこそ宜しくです。
またお越し下さいませ。