満開の桜、今日から週末にかけてがピークでしょうか。
写真は、昨日の早朝に妻が撮ってきた阪内川河岸の桜です。
寒い時に下流域に飛来するユリカモメの群れが、なんと、この時期にこんなところに居たのが驚きです。
鏡のように静まった早朝の阪内川に映る桜とユリカモメ・・・ちょっと意外なコラボだったのですね。
さくら(日本古謡、編曲:武満徹)
~三種類の録音を聴き比べ~
岩城宏之指揮東京混声合唱団(録音:1984年)
関屋晋指揮晋友会合唱団(録音:1992年)
山田和樹指揮東京混声合唱団(録音:2012年)
いわゆる「現代音楽(ゲンダイオンガク)」がかなり嫌いな私ですが、武満作品はけっこう聴いています。
過度に耳を刺激する強音や(私には)意味不明なゴチャゴチャ感が少なく、その(旋律線の)変化は音量的にも時間的にもゆるやかなことが多く、その中に身を置いていて不快なことは全くありません。
だいたいの話ですが、彼の紡ぐ「旋律」は、「無」あるいは「小」から緩やかにアーチを描くように盛り上がり、その放物線の頂で、ふわっと放置あるいは消滅するパターンが多いようです。
この「うた」のいくつかでも、歌詞の前後のヴォカリーズ部分で同様のパターンが見られます。
それがまた、たまらない魅力でもあります。
日本古謡「さくら」は、ずっと前から、そして今でも小学4年生の音楽教科書に載っています。
私は、この歌が醸し出すなんとも言えない情感と言いますか、観たこともない昔の日本の風景を思い描きながら心地よく声を響かせる、その時間が好きでした。
伴奏譜は簡素ながらも、その音量やタッチには細心の注意が必要です。
授業でこの曲を歌う時間は・・・ちょっと物悲しいような、ほのぼのとしたような(要するに「はっきりしない」)曲調に子ども達はそれぞれの心象風景を心地良さを伴って重ねていく、そんな時間だったと思います。
若いころは、実はあまり好きではなかったのですが、いつごろからか大好きになっていました。
そして武満徹の編曲した「さくら」。
技術的には、たぶんとても難しいのでしょう。
しかし、こうして一流の演奏で聴く限り、教科書記載楽譜の簡素で情感豊かな味わいを損なうことなく、かといって過度に煌びやかになることもなく見事に「さくら」の雅とはかなさを表現しています。
強いて言えば、原曲が二次元映像だとして、武満編曲では立体映像のような臨場感がある・・・陳腐な喩えですが、そんな感じかな?
この曲は、武満氏が一連の「混声合唱のための『うた』」を作編曲する、そのきっかけとなった最初の合唱作品とのことです。
そのいきさつについては、1984年3月12日の東混演奏会における舞台上での岩城氏と武満氏との愉快な会話(当時のFM放送を録ったカセット)にて知りましたが、岩城指揮東混のCD解説にも同内容の記載がありました。
「〇と△の歌」「さようなら」「死んだ男の残したものは」の3曲は、この時の演奏が初演でした。
その演奏会の6日後に録音されたのが岩城宏之指揮のディスク(当時はレコード)でした。
私は、発売当時すぐさま購入した友人に借りてカセットにダビングし、繰り返し聴いていました。
CDは数年前に、全集崩れの1枚をヤフオクにて入手しました。
このCDでは一部の曲の録音年が「1988年」となっており、再録音かも知れません(詳細は今のところ不明)。
「さくら」は収録曲の最後に収められ、曲に先立って岩城氏の「それでは、アンコールの『さくら』をお聴き下さい」というナレーションが入っています。
演奏は、女声のヴィブラートがやや強い目であるなど、今聴くとちょっと違和感もありますが、岩城さんの微妙な緩さと懐の深さは聴いていてなかなか居心地よいものです。
この心地よさを求めて、今もたまに取り出して聴いています。
関屋晋指揮晋友会合唱団のディスクは(当時の)新作「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」を加えた12曲収録で、私は 当時加入していたミュージック・バード(音声PCM放送)から録音したものを聴いていましたが、「刷り込み」の岩城盤に比べて、やや機能的で硬い印象を持ちました。
「さくら」でも、クレシェンドの振幅もなんかキツイなぁって感じたりして馴染めませんでした。
やがて、録音したDATも故障してしまい長い間離れていたのですが、ちょっと前にやっとCDを購入。
男声の一部の人の声が目立って聞こえたりしますが、でも以前に感じた硬さやつまらなさはさほど感じませんでした。
まあ、最初に聴いたころとはスピーカーもアンプも部屋も、みんな変わっていますからね。
私も年取りましたし・・・。
聴いた印象が異なるのも当然と言えば当然ですね。
去年の10月に購入したばかりの山田和樹盤は、やはり(現時点で)決定盤と言えるでしょう。
何度も聴いています。
同じ東混でも、岩城盤とは別団体かと思うくらい違います。
ヴィブラートもずっと控えめ。
「さくら」では、けっこう細かくテンポを揺らしたり、レガート、マルカートの歌い分けをしたりと、いろいろやっているのにさり気無さや儚さがしっかりと伝わってくるのは流石。
現代のヤマカズ、要注目ですね。
演奏時間
岩城東混 =3分33秒
関屋晋友会=3分32秒
山田東混 =3分05秒
余談ですが、山田盤に収録されている「MI・YO・TA」(沼尻竜典編曲)は、聴いていて悲しみと憧憬の果てしない連続ループに巻きこまれてしまう、涙なしには聴けない名曲の名編曲です。
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